(六)暴走
「ナギ、アレはどうなっている」
黒影は大太刀をかまえながら、あご先でそれを示した。次から次へと閃くまばゆさに目を細める。眼前を満たす雷の中心にうずくまっているのは、ほかでもないソウだ。彼を中心にして、途方もない雷が生まれ、周囲に破壊のかぎりを尽くしている。一帯は焼けて、すでに生命の気配はない。
焼き切れる、においがする。
惨状を目の前に、ナギは声をふるわせた。
「そんな。こんな事故、めったに起こることではないのに。いや、ありえない。だって――、」
「説明しろ。アレはどうにかできるのか。端的に、わかるように話せ」
「……体内から体外へ。発露した魔素による現象――すなわち、〈魔導力〉が暴走しています。本来、個体が持っている魔素が発露し、かつ〈魔導力〉となって暴走することはないのです。たとえ、なんらかの原因で暴走したとしても、現代の人間があれほどの規模で発現させられるわけがない。ありえないんです」
「ソウはどうなる」
「このままだと暴走した〈魔導力〉によって……死んで、しまいます」
「方法があるんだな」
黒影は低い声でうながした。しかし、返ってきた言葉は「危険です!」という、実に腑抜けたもので、それを聞いた瞬間、黒影はナギの襟首をつかんでいた。
「やるかどうかを決めるのは後でいい!」
びくり、とナギの肩が大きくふるえる。そのさまも実に不快だ。
「どのみちこのままだとキサマも雷に呑まれるぞ」脅す。「それとも、ソウを捨て置くか。それもかまわん。ワタシはキサマを護るつもりなど毛頭ない。どこへでもゆけ!」
ナギはすこしの間、情けなく視線を逸らしたまま黙っていたが、やがて、自らを諭すように腕輪に触れた。一度目を閉じる。そして、ひらく。その一挙一動でさえ、どこかもったいぶっているように感じられて、いらだたたしい。
まぶたにぐっとちからを入れたまま、彼は歯噛みするように声をしぼりだした。
「……魔素交合。すなわち、外部から彼の体内をめぐる魔素に干渉します。しかしこれは危険を伴うものです。とくに、黒影ちゃんとソウくんには保有魔素に差がありすぎますし、あなたのいまの身体では……ともかく、失敗すれば二人とも死にますし、そうでなくても、どうなるかわかりません。ですから俺は推奨しません。それとも、そんな危険を冒してまで、あなたは――、」
「二度言わせるな」
ぎろりと睨む。
彼は怯えなかった。代わりに一度息をついて、それでいてどこか諦めたように、また口をひらいた。
「まず、目の前の雷撃をかいくぐったうえで、ソウくんに直接触れる。このとき、できれば彼の意識が、あなたに向いたほうが良い。――ここまでが第一段階」
「次は」
「ソウくんの体内にある魔素へ干渉します。この時、彼の意識に呑まれないように気をつけてください。感覚はおそらく、魔導武具を使用するときと近しいはずです。弾かれないよう、かつ呑まれないように自我を保ちながら、彼の魔素を制御しま……って、黒影ちゃん!」
説明が終わらないうちに、黒影は地面を蹴った。ソウがナイフを抜いたのが見えたからだ。
(あの、バカ)
大太刀で雷撃を裂きながら湿った地面を蹴る。チカチカと明滅する光の残滓をはらって一直線に、向かう。
(自害するつもりか!)




