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(八)火葬

「ナギさんはさ、すごいね」

 煙を見つめながら、ソウは言った。

 白亜化した遺体は瘴素を発する。にもかかわらず、なんのためらいもなく、あの少年を抱きしめた。

「俺はさ、もしかしたら俺も白亜化して、帰れなくなるかもしれないって、一瞬考えたんだ」

「ソウくんには、大事な家族がいるのでしょう。だから、その恐怖はあってとうぜんです」

 彼の翡翠色の瞳には焚いた炎が映っている。

「ナギさんは、怖くないの?」

 旅装束の袖についていた白い花びらがひらりと落ちたかと思うと、やがて炎に巻かれ、そうして小さな灰に変わって、空に消える。

 ずっと向こうの蒼穹をただよう雲が、ちいさくちぎれて、形を崩した。

「どうでしょうね。少なくとも、(ナギ)は死にたくないと思っています」

「そっか」

 錆びた臭いばかりの空を見あげ、もう見えなくなった灰のゆく先を遠く見つめる。

「たとえばだけどさ。白が受け入れられる時代が来たとして、もしその時に生まれていたら――幸せに、なれたのかな」

「もしちがう時代に生まれていたら、その人はもう、別の人かもしれませんね」

 樹木の年輪にも、大輪の花のようにも見える黒紫の紋様。その左手の甲を、彼はそっとなでた。

「黒も白も、正義も悪も、敵味方も、大きな時代の奔流(ほんりゅう)で変わってしまうものは多い。たとえその事実を知っていたとしても、その時、その瞬間を生きているのはその人です。簡単に割りきれるものでも、周りが放っておいてくれるわけでもありません。どのような世界であれ、生きている以上、幸も不幸も起こりうる」

「不必要に情をうつすな」

 黒影が吐き捨てるように炎を睨んだ。

「幸福など一時的な情動の変化にすぎん。けっきょくどれも、ただの欲望だ。望むモノが欲しければ生きるほかない」

「黒影は、つらくないの?」

 訊ねる。

 彼女は長い髪を揺らして背を向けた。

「弱い命に興味を持つなど馬鹿馬鹿しいにもほどがある。生きられんのならば死ぬしかあるまい。誰かが救ってくれることなどなく、また他人が救える苦しみなどありはしない。善人面をして(たわむ)れに手をさしのべる輩は、自己の欲望に酔った阿呆どもだけだ」

「君って、極端」

「ゆくぞ。感傷に浸るばかりでは先に進めん」

 黒影は、白い丘に一瞥(いちべつ)をくれることもなく、真っすぐに歩いてゆく。その背中を見つめながら、ソウはおもむろに口を開いた。

「ナギさんってさ、何者なの?」

 人が忌み嫌う白へ、ためらわずに手をさしのべる彼は、いったいなにを思ったのだろう。なにを考え、どう生きてきたら、名前も知らない〈白い少年(社会の嫌われ者)〉を抱きしめられるというのだろうか。

(俺には、とても)

 ソウはその横顔を見つめる。

 亜麻色のまつげは伏せられたままでいた。左手の甲をなで、そしてようやく、日陰に落ちた綿毛のような声が紡がれる。

「ただの、旅人ですよ」

 そう言って、彼は翡翠色の微光を閉ざした。

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