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彩愛の話⑦ ライブ

 高校入学に不安がなかったわけではない。

 友達作れるかなとか、勉強についていけるかなとか、いろいろなことを考えていた。


 ……ううん、深刻に不安だったわけではない。なんとなく、大丈夫かなーって思っていたぐらいで、正直ピンと来てはいなかった。高校入学後のことなんて全然わからないんだから、考えたところで何も変わらないし。何に対して不安になれば良いのか、不安になったところで何を考えたら良いのか……って感じ。

 だから、ふと不安が襲いかかる瞬間はあっても、考える時間は長く続かなかった。


 それに、漠然とした不安よりも、私にはもっと考えるべきことがあった。頭を占める存在があった。

 そう。りこぴんのライブ!

 入学前最後の土日に開催されるりこぴんのライブ。高校に対する不安よりも、ライブに対するワクワク感が圧倒的に大きかった。

 中二の頃には行けなかったライブ。やっと行ける。しかも同じくりこぴんファンの友達と!

 本当に本当に嬉しくて、ライブのことばかり考えていた。




 ついにライブ当日。

 ライブは夕方からだけど、物販に行くために午前中に待ち合わせにした。楽しみすぎてソワソワして待ち合わせの30分前に着いちゃった。早すぎた……。

 りこぴんのSNSやブログを見て時間を潰してると陽奈子の声が聞こえてきた。

「彩愛おまたせっ! え、いつからいたの? まだ10分前だよ!?」

「陽奈子も早いよ〜、私は20分ぐらい前からいた、楽しみすぎていてもたってもいられなくて……」

 そんな風に話しながら陽奈子の方を向く。

「……あれ、なんか、今日すごくオシャレじゃない?」

 そう。

 陽奈子の姿は見慣れたはずだけど、なんだか今日はいつもよりもすごくオシャレで……とても可愛かった。

 陽奈子は少し照れたように

「えへへ〜、そうかなそうかな? 記念すべき初のライブだからね、気合い入れてオシャレしたの!」

 その場でくるりと一回転。可愛い。

 服装や髪型にりこぴん要素を取り入れているし、よく見たら前にりこぴんがSNSに載せてたアクセサリーもしている。陽奈子にすごく似合っているし、オシャレで素敵だな。

「……あ、もしかしてメイクもしてる?」

「そうなの! 人と会うときにメイクするのは初めてなんだけど……変じゃない、かな」

「すごく良いと思う! 可愛いよ」

「えへへへへへ〜」

 可愛い、と言うのがちょっと恥ずかしかったけれど、本当に可愛い。それに、陽奈子がメイクした姿を初めて見たのが私だっていうのも何だか嬉しかった。

「私ももう少しオシャレしてきたら良かったなぁ……。いつも通りの格好だよ」

 私も初ライブなんだからもっと気合い入れたら良かった……なんて、少し後悔した。

 すると、そんな私の手をガシッと掴んだ陽奈子が

 「彩愛はそのままでも美人なんだから良いじゃん!! これ以上綺麗になったらドキドキしちゃうよ〜」

 なんて笑いながら言う。

 美人、なんて初めて言われた。びっくり。

「……い、いやいや、何言ってるの〜もう。それよりそろそろ行く?」

「本気なのに〜。そうだね、行こ行こ!」

 ライブが楽しみでニコニコしている様子、いつもよりオシャレな姿、初めてのメイク……

 陽奈子が本当に本当に可愛く見えたし、そんな陽奈子に……その場のノリとはいえ「美人」って言われて、なんだかフワフワした気持ちになった。



 ライブまであと10分。

「ほ、ほんとに、ほんとにりこぴんを生で見れるの……? なんか緊張してきた……」

「陽奈子、落ち着いて。陽奈子が緊張してどうするの」

「で、でもでも、大好きなりこぴんだよ!?」

「それはわかるけど! 楽しみを通り越して顔強張っちゃってる!」

 私もドキドキしてはいたけれど、陽奈子の緊張は私以上みたい。会った時の笑顔が嘘みたいに不安そうな顔をしていて、今にも泣きそうなぐらい……。

「な、なんか怖くなってきちゃった……りこぴんを生で見るなんて……」

「大丈夫だよ! あ、手繋ぐ!?」

「つなぐぅ……」

 本当に不安そう。差し出した手を両手で包み込むように握られた。……ちょっとドキドキする。

(……陽奈子って、本当にコロコロ表情が変わる。一緒にいて飽きないなぁ)

 りこぴんのライブ直前なのに、陽奈子の様子の方が気になって、それが何だかおかしかった。


「……あっ!暗くなった!はじまる!?」


 会場内の照明が落ちて、BGMが止んで、そして……。


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