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彩愛の話③ 星を見ながら

「流れ星見えないね」

『ねー。私はもう10分ぐらい探してるんだけど1個も見つからない』

「どこ見て良いかもわかんないしね。流れ星っていつどこに出てくるんだろ……」


 空を見上げながら陽奈子と通話をする。陽奈子の声は聞こえるのに目の前に陽奈子がいないという経験が初めてで不思議な気分。通話なんだから当たり前なんだけど。

 何だか変な感じ。目の前にいないっていうだけで、会話の雰囲気がいつもと違う。お互いに口数が少ないし、会話が続かない。


 もしかしたら陽奈子は単に、流れ星を探すことに集中しているだけかもしれない。

 私も流れ星を探そうと空を見上げてはいるけれど、陽奈子と通話中だって思うと何故か緊張して流れ星探しに集中できない。かといって何か気の利いた話題を出せるわけでも無くて……。結局、通話も流れ星探しも中途半端に、何となくドキドキした感じになっている。


 何だか、陽奈子に申し訳ないな。通話を提案したのに全然話ができなくて。

 これならチャット中断してお互い流れ星を探すだけの方が良かったかも?なんて思っていた時。


 『……なんかさぁ』


 ふと、陽奈子が話し出す。


『考えてみたら私、彩愛だけじゃなくてそもそも友達との通話ってほとんどしたことないんだよね』

「……え?」


 どこか楽し気な口調で陽奈子が続ける。


『だからほぼ初通話でさ。私知らなかったんだけど、通話って少し緊張するね? あ、初めてだからかな。いつもはあんなにたくさんおしゃべりしてるのに、通話だと何話して良いかわかんなくて全然喋れないよ~』

「あ……そうなの?」

『うん。だからさ、口数少ないのは緊張してるからってこと!別に機嫌悪いとかじゃないからね?って言いたくて』



 陽奈子が笑いながら話すのを聞いて、私は何だか不思議な気持ちになった。

 私は陽奈子の口数が少ない理由が別に悪いものだとは思っていなくて。流星群のことを言い出したのは陽奈子だし、陽奈子は流れ星を探すのに夢中なんだろうなって思ってた。

 私の方は、会話は続けられないし新しい話題も出せないし、流れ星を探すことにも集中できないし。おかしな自分に戸惑うだけだった。

 けれど陽奈子は、通話が緊張するって笑いながら話した。何だかそれが嬉しくて、でもどうして嬉しいのかはよくわからない。


「何かわかるなぁ。目の前にいないといつもと同じように喋れなくなるよね」

『彩愛も? 良かった~、そうなんだよ! いつもたくさんしゃべってるのにさ、あれ?って感じ』


 何となく緊張が解けた気がする。……そもそも、どうして緊張していたのかよくわからないけれど。

 それから私たちは、沈黙を楽しみつつ、時々ぽつぽつと話ながら夜空を見上げ続けた。




『……うーん、さすがに諦めようかなぁ』


 いつの間にかずいぶん時間が経っていた。残念ながら流れ星は見つかっていない。


「私もそろそろお風呂入らないと。残念だったね」

『うん……ごめんね、付き合わせちゃって』

「全然! 楽しかったし、そもそも流れ星見えなかったのは陽奈子のせいじゃないでしょ」


 何故か謝る陽奈子に笑いながら返事をする。そろそろ部屋に戻ろうと足を向けて、ふと最後に一度空を見上げる。

 すると。


「……あ! 見えた!」

『え?』

「流れ星! あ、また!」


 突然いくつもの流れ星が空を駆けるのが見えた。

 さっきまで1つも流れ星が見えなかったのが嘘みたいに、どんどん星が降ってくる。


『うわー!! すごい、すごいよ彩愛! 流れ星がたくさん!』

「うん……! きれい、こんなにたくさんの流れ星初めてみた……!」


 それから私たちは無言で流れ星を見続けた。

 数分経つと流れ星はぴたっとやんで、また静かな星空が戻ってきた。けれど、さっきまでとは少し違う、何となく特別な星空に感じた。


「すごく良かった……陽奈子ありがとう。陽奈子が流星群教えてくれなかったらこれ見れなかったよ」

『ううん、こちらこそ! 私一人だったら諦めてとっくに部屋に戻ってたよ。彩愛が付き合ってくれたおかげ、本当にありがとう!』


 すごく嬉しそうな声がする。流れ星、きれいだったな。私もとても嬉しい。

 でも、ふと気付く。


「……あ」

『彩愛? どうしたの?』

「……お願い事し忘れちゃった」

『……あ、私もだ』


 流れ星を見るのに夢中になって、お願い事をするのをすっかり忘れていた。陽奈子も同じだったみたい。

 私たちは同時に吹き出した。


『も~、お願いしたいことたくさんあるって言ってたのに』

「実際に流れ星見るとお願いどころじゃなくなっちゃって」

『わかるけどさ~! お願いし放題の大チャンスだったのに!』


 なんていうけれど、残念そうな声ではない。とっても楽しそう。それは私も同じ。


『じゃあ……今度こそ部屋に戻ろ』

「そうだね、……」


 何となく、通話を切るのが惜しくて。けれどもう通話をつなげる理由もなかった。


「……えっと、切るね?」

『あ……うん』

「それじゃあ……」


 おやすみ、と言おうとしたその時。


『あのさ!』


 陽奈子の声がかぶさる。


『あのさ、その……また、通話しない?』

「え?」

『その……通話の方が、何かしながらでも話せるし、今日やってみてすごく良いなって思ったの! それに楽しかったから……また通話したいんだけど、だめ、かな……』

「そんな、ダメなんて! 私も楽しかったよ、また通話しよ!」


 言いながら、何だかドキドキしていた。

 今回は流れ星を探すためっていう理由でチャットではなく通話になったけれど、最初は上手く喋れなくて、通話を提案しない方が良かったかもって思ったぐらいだった。

 それが、陽奈子に「また通話しよう」って言ってもらえるなんて。

 すごく、すごく嬉しかった。また陽奈子と通話できるって。


 それから私たちはチャットツールでのやり取りではなく、通話をする機会が増えた。

 学校のこと、友達のこと、世間話、それからお互いが好きなアイドルであるりこぴんのこと。

 チャットでも通話でも、話す内容に大きな変化はなかった。今まで通話をせずチャットだけだったのが不思議な感じ。


 そういえば。

 あの流星群の日、りこぴんの話はしなかったな。

 

 流星群の日の通話は、初めてだったからか、それとも星を見ながらという特別なシチュエーションだったからか、いつもと違う雰囲気だったなって思う。


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