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彩愛の話⑨ 高校入学

「……疲れたー」


 高校の入学式が終わった。

 第一志望の高校に入学できたわけだしもっと嬉しい気持ちが強いのかと思ったけれど、実際は緊張のせいか疲労感でいっぱい。「この高校に通えるようになったんだ」という実感による喜びよりも、「やっと家に帰れる!」という嬉しさの方が何倍も上だった。

 同じ中学出身の子と高校で同じクラスになれたし、出席番号が近い何人かとも友達になれた。クラスで話せる人ができて嬉しいし安心している。仲良くなれると良いな、楽しい高校生活を送りたい。


 ……まだ比較するには早すぎる。新しい環境で、周りの人のことも全然わかっていなくて、関係構築もできていない。

 比較するだけ無意味ってわかっているけれど。


「……中学に戻りたい」


 つい、そう思ってしまった。

 陽奈子がいない学校生活、それがあまりにも寂しくて。






 陽奈子とは3年間同じクラスで出席番号が前後だったから、学校生活では陽奈子が近くにいるのが当たり前だった。

 最初の頃は同じグループの一人ってだけだったけれど、好きなアイドルが同じって判明してからはかなり仲良くなった。

 改めて言うのは恥ずかしいけれど……親友、だと思う。


 陽奈子の存在は本当に大きかった。大きすぎて、当たり前になっていたみたいで、今近くに陽奈子がいないことが本当に寂しい。喪失感がすごい。「足りていない」感がある。


 とはいえ、中学の友達は陽奈子だけではなかった。陽奈子以外の友達と離れてしまったことも寂しいと思っている。

 けれど、仮に他の友達が高校で同じクラスになったとしても、陽奈子がいなければ喪失感があったと思う。

 これから高校で仲の良い友達ができても、この喪失感は多分埋められない。

 中学の卒業式では想像できなかった「陽奈子のいない学校生活」を嫌というほど実感して、なんだかどんどん落ち込んできた。


「……なんて! 大袈裟すぎるか。まだ高校1日目だし先のことなんてわからないよね」


 あえて口に出して言う。

 周りに友達がいないうちは仕方がない。新しい環境で不安を感じるのは当然。これからだよ。

 ……でも、新しい環境で初対面の人たちに囲まれて疲れたから、慣れ親しんだ人とコミュニケーションをしたいと思うのも当たり前だよね。

 ということで、陽奈子に連絡することにした。


『入学式終わって帰る〜。そっちも終わった?』


 陽奈子の高校も今日が入学式。同じ県立高校だし、入学式が終わって帰るタイミングも同じぐらいだと予想したから、すぐに返信が来るだろうと思っていた。

 けれど、しばらく経っても返信が来なかった。……何となく、陽奈子とのズレを感じて寂しくなった。





 少しして通知音が鳴ったとき、やっと返信きた?って少し期待したけれど、同じ中学の友達同士で作ったグループの通知だった。陽奈子もメンバーに入っている。


『入学式終わった〜』

『こっちも終わった! 高校どんな感じ?』

『まだわかんないけどとりあえず友達できたから安心した』


 私もグループチャットにメッセージを送ることにした。


『私のほうも終わったよ。疲れた〜』

『彩愛おつかれ〜 や、みんなおつかれ〜』

『私は昨日だったよー、今日は2日目。まだフワフワした雰囲気って感じ』

『なんか緊張感あるよね』

『わかる』


 単純なやり取りだけどすごく楽しい。しっくり来るって感じかな、安心感がある。

 チャットはかなり盛り上がった。みんな同じ学校に通っていた中学生の頃よりも長時間チャットをし続けていたと思う。


 けれど、陽奈子だけはチャットに参加していなかった。






 陽奈子からの返信が来たのは晩ご飯を食べ終わった頃だった。


『返信遅れてごめん〜! 入学式の後クラスの人達と出かけてて今スマホ見た! ねえグループチャットの通知すごいことになっててびっくりしたよ!』


 ……初日なのに、一緒に出かけるような友達が出来たんだ。なんか悔しい……。

 続けてグループの方に『今見た! 通知すごすぎてびっくりしたよ!』のメッセージ。


 陽奈子との個人チャットに返信をする。


『初日からクラスの人と出かけるってすごくない? 私まだ話せる人ができた程度だよ……』

『なんか運が良かった! 隣の席の子が話しかけてくれたんだけど、その子めっちゃ友達作るの上手い子で! その子つながりで私も友達が一気に増えた!』

『良かったじゃん。どこ行ったの?』


 メッセージを送って少しすると通話の着信がきた。相手は陽奈子。


「もしもし、陽奈子?」

『もしもし〜! ごめん、聞く前にかけちゃったけど通話大丈夫?』

「良いよ良いよ! なんか……陽奈子の声聞くのすごく久しぶりな気がする」

『あははっわかる〜! 実際は数日前一緒に出かけたばかりなのにっ』


 陽奈子の声を聞いた途端ホッとした。やっぱり陽奈子は親友で、私にとって大きな存在なんだなって実感した。


『えっとね、まず学食気になるって話になったからお昼学食で食べて〜』

「あれ、学食って今日やってたんだ」

『え、うん。もしかして普通は入学式の日って休みなの?』

「いや、確認すらしてない……。早く帰りたくて学食のことなんて頭になかった」

『帰りたかった? ……高校嫌だったの?』

「そうじゃないけど、緊張のせいか少し疲れて……」

『なるほどね〜。私も隣の子と友達になれなかったら帰りたい気持ちしかなかったかも』

「あ〜」

『学食の後せっかくだしこのまま遊びに行こうよってことでカラオケ行って、まだ盛り上がってたから夕飯食べにファミレスも行った!』


 とにかく疲労感が大きい私とは対照的に、陽奈子は今日がすごく楽しかったみたい。声も明るいし嬉しそう。


 ……なんか、悔しいな。陽奈子、中学の卒業式では「寂しい」って言いながらあんなに泣いていたのに。

 ずるずる引きずってるのは私の方。陽奈子はスッパリ切り替えたような印象を受ける。

 ……当たり前か。卒業式であんなに泣いていたのは「今日で最後」をちゃんとわかっていたからなんだし。


「陽奈子が楽しそうで何よりだよ」

『うん! 明日も楽しみ〜! あ……ごめん、私ばかり喋っちゃって』

「大丈夫、私も話せるネタ作れるように頑張る!」

『ネタなんて良いから普通に楽しんでよ! でも話聞けるのは楽しみだな〜』


 悔しいし、陽奈子が急に遠くにいっちゃったみたいに思える。

 通話に出た時は陽奈子の声を聞いて安心したはずなのに、今は何だかモヤモヤしている。


「……えっと、ごめん、疲れてるみたいだからもうお風呂入って早めに寝るね」

『え、ごめん! 大丈夫? ちゃんと休んでね?』

「大丈夫大丈夫、少し疲れただけだから!」

『うん……無理しないでね?』

「平気だよ、じゃあまた連絡するね」

『わたしもするー! じゃあおやすみなさい!』


 通話が切れる音がした。

 何だか耐え切れなくなって通話を切り上げてしまった。陽奈子の楽しそうな話を聞くのが辛くて、上手く話せる気がしなかった。

 いつの間にかグループチャットが動いていた。通話が終わった陽奈子もグループの方でメッセージを送っているみたいで通知が来る。けれど私は、グループチャットを開く気分にすらなれなかった。


「……陽奈子は、親友……」


 何だか強い不安を感じて。

 不安をなくしたくて、そう、ポツリと呟いた。


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