開始30分前
ざわつく教室の中校長の話を聞いていたのは、私だけだったのか。それともみんな気にしていないのかいつも通りの教室のだ。
「ねぇ、ゆっこ今の放送聞いてた?」
「校長の長い挨拶でしょ?夏休み前のお約束的な?特任校が何とかまでは聞いてたよ!」とゆっこはお弁当のオムライスを頬張りながら答えた。
その時、ガラガラと担任の高橋先生が教室のドアを開けて入ってきた。
高橋先生はサラッとした前髪をかきあげるのが癖の数学教師で、密かにファンクラブがある程のイケメンだ。担任が高橋先生だと分かった時、うちのクラスの女子からの黄色い悲鳴が廊下に響き渡りうるさいと苦情が来たものだった。
でも、今日の髙橋先生はいつもと少し違う。唇はかすかに震え、目は潤んでいる。長いサラサラの前髪が目にかかっているのも気にせず教卓の前に立った。
「今放送にあった通り、今から鬼ごっこがはじまる。ルールについてはあってないようなものだが、クラスのみんなが…」と話の途中で嗚咽が混じり先生はしゃがみ込んでしまった。
「せんせー!どうしたの?」
「泣かないでー」女子たちの叫び声がうるさい。
高橋先生は声を振り絞り、「開始は30分後。これより校舎から出ることは許されず、もし出た場合はその場で射殺される。みんなの無事を祈る。」と告げた後声を押し殺して泣いていた。