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死にたい男と生きたい少女  作者: 島国に囚われしパンダ
第3章 赤髪の剣士と魔法使い
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湯城日菜

本当に投稿が遅れてしまって申し訳ないです!

私の家は世間一般で言うところの”普通”の二文字で表すのが正解だと思う。

 毎朝6時30分に起きて朝ご飯食べて学校行って友達と喋って勉強して、夕方になったら部活をして家に帰る。


ほら、絵に描いたような高校生でしょ?


これが私の幸せ、そう……幸せ……



なんだがつまらなかった。

もちろんこの普通が恵まれた物だと言うことも理解している。

普通が普通じゃない人がいるということも……


毎朝起きる時いつも思ってしまう。

あぁ、今日も退屈な1日が始まるんだって……


あの日もいつも通りこんな気持ちで起きた事をふとした瞬間に思い出してしまう。


そうあの日、私がこの世界に転生する1時間前だった。



         *


「うーわ本当日菜はん凄いなこのギフト!」


和也が兵の前で手を振るが反応が返ってこない

というか完全に無視だ。

和也と私の体は透明化しており兵に触れてもなお気づかれない。

兵達はたわいのない話をしながら私達の方を通りすぎて行った。


「そうですそうですぅー!これが私の転生ギフト絶無隠深(メラニア・ニエンテ)、認識阻害の完全上位互換!どちらかと言うと透明化に近いですかね?体は透明になって触れることさえできない!そして任意の相手には認識させることができる!まさに攻守ともに優れた能力………あっ」

「……日菜はん凄いテンションやな」


声や音もこのギフトの対象の為遮断されておりついつい盛り上がってしまった。

ちなみに2人までならこのギフトを自分が使ったタイミングで発動させることができる。

だから和也も一緒に透明化してるわけだ。

誤魔化すように咳払いをし和也の方を見る。

やはり私から和也は見える、そして和也も私の方を見て喋っていた。

認識させる相手は選べる能力、そして相手には声すら届かないことからやはり潜入任務に向いている能力と呼べるだろう。

この世界には透明化も認識阻害の魔術もあるわけだがそれらを凌駕するほどの便利さはあまり前線に出たくない私にとって丁度いいものだった。


「じゃあその効果が無くなる前に行くか」

「はい!」


長い長い廊下を小走りで進んで行く。

道中の兵とすれ違う旅に心臓が縮まりそうになるが私が透明化状態のことを思い出して無視して進んで行った。


「もうすぐ地下への通路があるはずや」


廊下先が見えた辺りで和也が右方向に進んで行く。


「はぁ………はぁ……」

「なんやもうへばっとるんか?」

「う、うるさいですぅ!まだまだ行けますよ」


普段走っていないせいか体力の消耗が激しく少しずつ息が上がる。

普段の魔物との戦闘は杏と和也が前衛で私が後衛、これで上手い具合にバランスが取れていることだけあっていつも2人に走らせている。


私も体力作りしなきゃな……


回避は最悪ギフトの透明化を使えば簡単にできるわけで、焦りはするが最低限の動きだけでこれまでやってきた。

もしかしたらそのツケが今日回ってきたのかもしれない。




「はぁ……はぁ……それにしても長いですぅー!本当にこの通路であってるんですか?」

「間違えない、ワイらが召喚された時に城を案内してもらった、その時に教えてもらったんや」


ガバガバセキュリティー!!

普通そんな大切なものの隠し場所を初対面の奴等に教える?

防犯と言う概念はないのか……


「それがもし嘘だったらしたら……」

「それやったら帰るだけや、別に失敗したから何かあるわけでもないんやし」


軽口ですらすらと言う和也。


………いや見つかったら確定で牢屋行きでしょうがぁぁぁ!!


「いや……私やっぱりもど……」

「おし着いたで!」


和也の足が突然止まり廊下の隅に階段に指を刺す。

先は暗く、うっすらとランタンの光が道をさし示していた。


「手遅れ……」


私の口から溢れた言葉は今この状況に相応しい。

参加した時点で後戻りはできないのだ……


「なんや帰りたかったらもうええで、ここまで来るのに日菜はんのギフトが必要だったんや」

「なんですぅー!用が終わったらもうポイッですか!」

「冗談や冗談!そう怒らんとき」

「もおおー!なんなんですぅ!」


和也のヘラヘラとした笑いにムスッとしてしまった。


「………んじゃそろそろ行くで」

「もう……全く……」


確かに乗り気ではなかったし今すぐにでも帰りたいがでも……


もしも和也に何かあったら?


和也のギフトは戦闘特化……逃げるなら私のギフトしかない。

せっかく初めて多くを笑い合える仲間ができたたんだ、だから………


「ねぇ和也………」


迷宮のような地下の入り口に入ろうとする和也を咄嗟に止める。


「なんやまだ何か」


今まで疑問に思っていたが今ここでじゃないと言うタイミングを逃してしまう。

そう思い口から言葉を捻り出した。




  「ここに来た本当の理由って何です?」



和也の足がピタリ止まる。

勘でしかなかった、もしかしてとしか思わなかった。

でもそれがどうやらそれが正解のようだった。

短い間だが共に生活してきたこの人だからわかる。

何かの腹いせになんてそんな事を理由にリスクを犯す人ではない。



「………なんや気づいてたんや」


和也はそう言うとゆっくり歩き始め階段を降りて行った。

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