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死にたい男と生きたい少女  作者: 島国に囚われしパンダ
第3章 赤髪の剣士と魔法使い
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帝都の某所

 ライとマキナが暗黒騎士団と接触したのと時刻を同じくして帝都では世にも怪しい2人が何やら企んでいた。


「ほ、本当に行くんですー?」

「なんや今更怖気付いたか?まぁ怖気付いても行くが」


 帝国最大級の都、帝都

 巨大な円形の壁に囲まれ中央に城がある。

 普段は関係者以外絶対に立ち入ることのできない。

 そう、関係者以外なら……


「おっしゃ行くで!」

「や、やっぱりやめましょうよー!」


 そんな城の中の寝室で何やら企んでいるのは白髪の男、帝国の勇者である和也、そして同じく勇者である私、湯城日菜だった。


「大体、どうして杏ちゃんは誘わなかったですー」


 この状況には不満しか無い。


「あのまな板にこのことを言ったらドロップキックして止められるからや」

「そりゃそうですーだってぇぇーー」


 日菜は杖をぎゅっと握り締め辺りを見回した。


「帝国の重要文献を漁ろうなんて本当に何考えてるんですかぁぁーー!!!」


 部屋中に響き渡る声叫ぶ。


「おっと、防音魔術を先にしておいて正解やったな、でも今から静かにやで」


 部屋中には魔法陣のようなものが敷いてあった。


「えー突然ですが元気ですか?お父さんお母さん私湯城日菜は異世界に飛ばされてついに犯罪行為に手を……」

「勝手に回想始めんな」

「うぅ……」



 早く帰りたい……でも和也は行く気満々の気を体中から出している。

 これはもう帰してくれませんよねぇ


「どうして私がこんな目にですー……」

「わいの作戦には日菜はんのギフトが必須なんや、それに日菜はんも見たいって言ってたやろ」

「確かに興味はあるって言ったですーーでもまさか本当に行くとは思わないですーー!」

「がははっ!わいはいつでも本気やー!」


 かっと笑い飛ばす和也。

 この人はいつもこんな感じで周りの雰囲気を盛り上げてくれるのはいいんですが、我が強すぎって言うか周りの事を一切考えず自分のやりたいようにやる。

 杏ちゃんがいつもいいストッパーになってくれるのをしみじみ感じます。


「よし、もうそろそろ兵が夜勤との交代の時間や、行くで日菜はん!」

「もー!どうなっても知りませんよ」


 もう吹っ切れた。

 その場の雰囲気に身を任せて私と和也は部屋の戸を開ける。


 そもそも何故私と和也はこの城に潜入できたのか。

 というか大前提として潜入はしていない。

 元々城には杏を含めた勇者3人で招待されていた。

 王国でのパーティーの一件から帝国でも魔王軍討伐についての早急な会議がなされてそこに私達も参加させられたのだ。

 まぁ会議の内容については全然具体的なことは何も決まらなかったけど……

 そこに痺れを切らしたのが和也、全く進まない話し合いに対して苛立ちを見せ意見を出せばまだ子供だろと言われる。

 だからその憂さ晴らしに来たというのがここまでの話。

 城に泊まるならもっと派手なことしたいよね?せっかくの異世界なんだし……

 ていうノリで承諾してしまったことを後悔しています……


 あぁ……早く帰ってふかふかのベッドで寝たいです。



 長い長い廊下を歩き書斎がある地下を目指す。

 この2階には客室ようの部屋が点在しここには巡回の兵はいないようだ。


「なぁ日菜はん」

「ん?どうしたですー?」


 つづられた道を歩きながら和也は言った。


「わいらは地球からこの世界に転生した来た……であっとるか?」

「へ、何を当たり前の事を」


 いやそもそも転生自体が当たり前じゃない、何を受け入れてるんだ私…


「いやなんだぁー、わいも杏はんも日菜はんだってそうなんやがーどうして誰もこの状況で元の地球に帰還したいと思わないんやろうなーて」

「え?」


 和也に言われハッとする。


「え?それは………」


 言葉に詰まる。

 今まで考えもしなかったことだ。

 私達は何を当たり前のように非現実的なことを受け入れてるんだ。


「確かにわいは異世界を楽しんでいる、勇者として召喚されこれから先数々の強敵と戦うとなると思うとあんな真面目にやったら負けの世界より断然楽しいんや」


 私は和也の過去は知らない。

 この世界に来て目が覚めたら杏ちゃんと和也が目の前にいた。

 その時混乱していた私を2人は元気づけてくれたんだ。

 でもなんでだ……

 どうして和也はいつも元の世界のことを話す時は寂しそうな顔をするんだろう……


「でも普通は親や友達に心配かけたくないって思うはずなんやなのに……わいらはその感情すら湧かない」

「確かに帰還についても私達は考えたことは一度もありませんですぅー」

「そうなんやで、わいらは何故そのことを今まで……」


 別に親と仲が悪かったわけでもない。

 至って普通の家族だ。

 異世界なんて元々私は興味も微塵に無かったし

 存在すら知らない。

 漫画やアニメを見てる人なら誰しも憧れるもの…でも私は……


「和也!私は……」

「静かに」

「えっ……」


 和也は突然私の口を押さえ壁によった。

 何がなんだが状況が理解できない。

 少し暖かい手が口元に当たり心臓の鼓動が上がる。


 な、な、な一体何事!


 そんな事を考えていると……

 廊下の奥の方から


「いやー本当に巡回なんて必要あるんすかねぇーー」

「おい、皇帝に使える身として言葉には気をつけろ」

「へいへーい」


 こっちに2人兵が歩いてくる。


「日菜はん!日菜はん!」


 和也が口元から手を離し小声で言った。


「今こそギフトの力や、任せたで!」

 満面の笑みで親指をぐっとたてた。


 期待の眼差しが痛い!

 やるしかないこの状況、とういうかこの為に私は呼ばれたんだ。


「よし、じゃあ行きます………」


 私は生きを呑みながら失敗しないことばかりを祈る。

 持っていた杖を上に向け小声でその言葉を放った。


       「絶無隠深(メラニア・ニエンテ)



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