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死にたい男と生きたい少女  作者: 島国に囚われしパンダ
第3章 赤髪の剣士と魔法使い
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マキナ・レクス

 私は小さい頃に親を殺された。

 天使達が町中を襲い一晩にして3000人以上の死者を生み出したあの災害。

 運が悪かったかよかったかはわからないが私はただ一人生き残った。

 物心がつき始めたぐらいのことだ。

 私の一番古い記憶がそれ

 悲しい思い出も楽しい思い出も悔しかった思い出の全部あの悪夢からスタート。

 この世界は今七災害によって人々……いや……全生物が恐怖によって支配されている。


「天」の災害だけではない。

「魔」は軍を率いてひたすらに争いを求める「龍」は大地を火の海にする。

「獣」は自分勝手な正義をかざし殺戮を繰り返し「精霊」は同族すらも手にかけ「樹」は遊び感覚で世界を蹂躙する。

 そして「人」は……ただ自分のエゴ……それだけで国を滅ぼした大災害……


 帝国の文献でよく目にする内容だ。


 だから私はあの時誓った。

 弱い自分を許さない。

 そしてこれ以上自分同じようにあるべき未来を失われる子供がこれ以上増えないように




 ————絶対に七災害を————


 ……あの日への決別として……


「あ、ありがとうございます……」

「礼はいい、早く後ろに下がって」

「は、はい!」


 娘を抱き抱えた男は俺達のいる方へ足早に向かってきた。


「貴様の存在を知っている、赤髪のレイピア使い、Aランク冒険者マキナ・レクスだな」


 マキナを見据えながら言うミカ。


「……そうだ」


 マキナは剣を構え最大限の警戒を見せる。

 今にも斬りかかりそうな勢いだ。


「自前情報にはあったが姿が見えなくて悩んでいたところだ、探す手間が省ける」

「そりゃどうも、でお探しの人は見つかったんでしょ?さっさと帰りなよ」

「それはできない、本来の目的を終えてないからな」

「本来の目的って人殺しのこと?」


 マキナは庇った男を横目で見ながら言った。


「なんのことだが、我々は国家機密情報を知った不届き者を断罪するためにここにいる」


 ミカは少し嘲笑うかのように言う。


「……そうか……最初からここにいる人達全員殺すつもりで……」


 マキナは何かを察したようだった。

 国家機密を教えることで合法的にこの場にいる者を殺す算段。

 どうしてこうなったか理由はわからないが俺達は今、命の危機に晒されているらしい。


「……確かにお前は私の攻撃を一度は見事に防いだ、だが一度攻撃を防いだからなんだと言うのだ周りを見ろ、貴様らの状況は何も変わっていないではないか」


 ミカが言った通りだ、以前として俺達の状況は変わらない。

 囲まれている騎士数的にもマキナ一人では絶対に裁ききれない。

 ここにいる冒険者が全員協力したところで相手は帝国騎士だ。

 そこらの一般兵とは違う。


「くっ……」


 マキナが剣をぐっと握りしめて周りを見ていた

 どうやらここにいる奴ら全員を救う手立て必死に考えているようだった。

 だがどう考えてもマキナ一人の力では無理だ。


「ミカ様ここは我々が、下がってください」


 好戦的なミカをよそに隣にいた騎士が剣を構える。

 するとミカは騎士の肩にそっと手を置き首を振った。


「いいやお前達は下がっていろ、こんな逸材は久しぶりだ!胸の高まりが止まらない!」


 仮面の下は見えないが見えていたとしたら恐らくあざけり笑っているだろう。


「貴様マキナと言ったか、どうだ暗黒騎士団に加わる気はないか」

「……何?」

「貴様の技量はその一回、そして今の体の動きによって把握した、貴様なら我が王……黒騎士様も歓迎してくださるはずだ」


 黒騎士という言葉にマキナの動きが一瞬止まる

 しかしそんなマキナでも怯えた様子は一切見せず前を向く。


「ふっ……その黒騎士って言う奴も私にかかれば大したことないさ」


 ミカの勧誘を鼻で笑いながら冗談混じり跳ね返した。


「私は一人でいい、天の災害で親を失った時からずっとそう、黒騎士なんかよりも私の方が先に七災害を殺す!」


 その目には強い信念があった。

 もうこれ以上誰かに辛い思いはさせないとそう心に留めているようだった。


「黒騎士様が大したことない……だと?」


 強い風が一瞬にして森を吹き抜ける。

 ただ刃のようにそれは……


「!?」


 マキナが気づいた時には既に拳一つの距離にミカはいた。


      「死ね」


 マキナは反応が一瞬遅れたが大剣よりレイピアの方が動きの小回りは利く。

 瞬時にレイピアでいなそうとする。


「甘すぎる」


 だがそれだけではダメだ。

 大剣の一撃はあまりにも重すぎる。

 レイピアでは抑えることは無理だったのだ。

 しかしマキナもその状況に動転せず顔を傾けギリギリで攻撃を回避し後ろに下がる。


「なんで…さっきは抑えれたのに…」

「想定通り外で驚いたか、さっき貴様が抑えていたのは私の力の本の一部、今のように本気を出せばすぐにこうだ」


 ミカは大剣をマキナに向け優々と言った。


「黒騎士様が大したことない、そう言ったな、だがこんな私とギリギリの戦いをしている時点で遥か上を行くあのお方には到底及ばん」

「まだ2回の攻撃だけでしょ?私の技量なんて測れるわけがない」

「いやわかる、貴様は私より弱い、そして弱気者には慈悲をくれてやらねばならない……後ろを見ろ」


 そう言われマキナが振り返った先には……


「!!」


 一人の少年に刃を向ける騎士。

 少年は今にも崩れそうな涙を怯え耐えていた。


「何故他の冒険者達が動かなかったわかるか?考えなかったのか?お前の戦いはすでに終わっている」

「これがお前達のやり方か!!」


 マキナの怒号の声が飛ぶ。

 確かにここの冒険者達で戦えば少しは状況はマシになっていた。

 しかし河原に遊びに行って遅れてこの場に来た少年を口封じにし何かを言おうとした瞬間そいつの首に剣を向ける、そうやって黙らせていた


 そうすでに戦いは終わっている。

 環境、状況、人数差全てにおいてあちらが上回っていた。

 奴らはマキナのような人がいると見込んだ上でこの作戦を仕組んでいた。


「さぁ武器を捨てろ」

「…………」

「早くしろ、さもないとあの少年は胴体と顔が離れることになる」


 マキナは少年の方を向いた。

 ただ必死に叫ぶのを我慢し涙目になっている。

 その顔を見たマキナは何を思ったのかは想像がつく。

 手から力が抜けるようにレイピアをその場に落とした。


「両手を挙げて跪け」


 ミカの言われるがままにするマキナ。


「ふむ、まずは見せしめで貴様から処刑してやる」

「…………」


 マキナは依然として黙っている。

 ミカはその首に向かって大剣を近づける。


「最後に何か言い残すことはあるか」

「………」

「そうか無いなら………」

「………お前達はこうやって自分達の都合で人を殺してきたのか……」

「自分達の都合?違うな、騎士団のため、帝国のため我々は行動している、これまでも、これからもだ」

「じゃあ今までも同じ方法で大勢の人を……」


 震える声で必死に言う。

 そんなマキナに対してミカは一旦首から剣を離すと顔を近づけた。


「そうだ悪いか?」


 その一言はマキナの心を怒りを沸かせるには充分すぎた。

 恨み強くミカを睨みつける。

 しかしここで動けば少年は死ぬ。

 もうどうしようもないのだ。


「………お前達がやっていることは七災害と何も変わらない、ただ自分の都合を押し付けている!私はお前達を許さない!!」

「さっきからうるさいぞ!大丈夫だのちにそこの少年もそっちに送ってやる!」


 離していた大剣を振り上げマキナの首に一直線戦に下ろした。


(ごめんなさい……ママ…パパ……またそっちで…………)


 最後にマキナが思ったのは怒りであった。

 何もできない自分、ただ世界を何も変えることのできない、夢も壊され挙句の果てには何も救えなかっ……




 あぁ面倒事は嫌いだ。

 こうなると最初からわかっていたがあえて動かなかった。

 おそらくこの暗黒騎士団とやらに逆らえば俺の安定した旅は無くなる。

 目的からも遠ざかる。

 でも俺はああやって多くの奴らを殺してきたんだな……


 動きたくはないが動くしかない。



  だから俺は面倒事は嫌いなんだ。

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