王国
魔王軍の王国襲撃から一ヶ月、勇者召喚から2ヶ月。
首都から少し離れたところにある闘技場。
そこには大きな歓声と共に剣と剣が混じり合う音が響いており観客も熱狂に包まれていた。
その中央で戦う2人の戦士の姿。
「く……おかしい……これほど実力差!」
鉄の鎧で全身を固めた男が剣でなんとか回避を挟むが徐々に後ろに押されていく。
一方もう一人は軽い服装に剣一本を持つだけで素早い動きで鎧の男を押していく。
様々声が飛び交う中、ただひたすらに剣で相手を翻弄して行きついに
「ま、参りました……」
鎧の男の剣を弾き飛ばし己の剣を相手に向ける
『しょ、勝者はヒカル・サトウだぁーー!!』
審判のコールの瞬間、歓声が最高潮に沸き晃を讃える。
晃は辺りを一周ぐるっと見渡すと何事もなかったかのように剣をしまった。
そして鎧の男を一人残し闘技場を後にする。
「…………まだだ、まだ足りない」
俺はあの第五席次との一戦以来、ひたすら訓練を重ねた。
あの時のマルクの言葉は今も頭から離れない。
貴方が1番足手纏いなんですよ晃さん?どうしてギフトを使いこなせてないんです?
そう、俺は転生者にあるまじき自体、ギフトがまだ使えていない。
八戸は回復魔法が最大効果を発揮するギフト
美咲は弓矢が必中となるギフト
どちらも戦場では大当たりのギフトであり、俺以外の転生者は全員ギフトを授かった。
しかし俺はいつまで経っても、ギフトが発現せず、勇者としてならば完全に失格だ。
だから剣術を多く磨いた。
あれから毎日欠かしたことはない。
*
「ふふふ、今の試合を見てどう?あれでもまだギフトを使っていないのよ」
闘技場でフィールドが1番見えやすい席、そこはガラスで張り巡らせれ豪華な装飾が施されている席が5つあった。
その真ん中には白い髭を生やした男が座っており隣にエキドナが並んでいた。
「……少し認識を改める必要があるな、ヒカル・サトウはまさしく勇者にふさわしい」
髭を生やした男は杖を片手にフィールドを見回していた。
「……でもね彼、一日中ひたすら剣を握っているのよ、八戸ちゃんからの連絡だともう寝てるところを見たことがないくらい、さすがに体が壊れるわ」
「そこは私が気にするものじゃない、勇者のケアもお前に一任したはずだぞエキドナ」
「私だって少しは様子を見に行ってるわよ、でも『邪魔をしないでください』とか言って無視して訓練を続けるんですもの」
エキドナは少し気を落とした感じで口に出す。
「ふーん人間とはようわからんな」
「その発言はあなたが言ったらダメよ8代目ギンガルド王国国王、リーゼラク・バラルクスア」
白い髭は全く威厳のような物見せる気配もなく
杖を手に持つ。
「最近は物騒だ、魔王国がグランドバレー前線から引き上げるわ、共和国の勇者は何やら各地で色々やらかすわで」
「ふふふ、前線から引き上げるのはあらかた予想がついてたじゃない」
嘲笑うかのようにエキドナは国王に言った。
魔王国がグランドバレー前線を引き上げたのは数週間前、魔の災害の本当の目的は不明だがエキドナの知恵はあらかた動きを読んでいた。
引き上げるならここのタイミングしかない。
何故ならもうすぐ各国の勇者と軍事力が揃い初めついに最初の七災害討伐を目論んでいたからである。
ある程度で引いておかないと最優先が魔の災害になり奴らは大きな被害を生む。
だからここで引き、矛先を違う災害に向けたのであろう。
「魔王もよく頭が回るわね、おかげで今は龍の災害か天の災害のどっちを討伐するか議論の真っ最中ですもの」
最優先は大きな被害を出している者から。
七災害は各国の勇者すべてが団結しなければ勝てないほど強く、その前例が樹の災害。
龍の災害は神国に大きな被害を出している。
一方天の災害は近年は確かに被害は無いがいつまた大量虐殺が始まるかわからない、爆弾は早めに処理しておかなければならずどうすればいいことやら……
「………あの人もあれが本気ってわけでもなそうだし」
思い出すは第八冠位魔法使う黒衣の男、勇者を圧倒した魔族をたった一撃で葬り去った。
威力の調節はできてないと言っていたがおそらくさらに上の火力は出せるはず……ライ・グランディールのことは公表するべきではない。
契約魔法によりそれは困難になっているし、今公表したら彼に矛先が向く。
彼の過去を覗いた時、見た物はただ一人のために大勢を殺すことを躊躇わなかった姿。
“今はまだ”敵に回してはダメだ
それに彼には私の能力では見れない過去があった。
ノイズが全体に浸透していて闇が覆い被さっているような……
「なぁ、エキドナ」
「なぁに王様?」
「お前、何か隠しているだろ?」
その場が数秒沈黙によって静まり返った。
国王の鋭い目はエキドナの偽の笑顔を見せる。
「ふふふ、それはお互い様でしょ?あなただってすべての勇者のギフトを知ってるくせに私に教えないじゃない、晃君のも含めてね」
お互いの睨み合いがさらに続くとお手上げと言わんばかりに国王が口を開いた。
「流石情愛の魔女、私よりこの国に長く仕えていただけはある」
「あら、褒めてくれるの?」
「だかな、私はお前を信用していない、お前が仕えているのはこの国に貢献することではないことぐらい誰にでもわかる」
国王が立ち上がり杖を持ちながら言うとエキドナの口角はさらに上がり今までにない顔を見せた。




