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死にたい男と生きたい少女  作者: 島国に囚われしパンダ
間章 見る者で世界は変わる
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魔王

「………マルクがやられたか」


体のサイズの数倍はある大きな玉座に座る一人の魔族。

口元の傷跡を手で撫でながら足を組む。

部屋の中には赤いカーペットが道を記すように敷いてあり玉座の前の数段の段差の下には翼が生えた魔族がひざまづいていた。


「は、はい定時報告が途絶えて長く立ちました……裏切りの可能性も低いですので恐らくゼレグラード様、並びにマルク様は何者かにやられたと見て間違いはありません」

「わかった、マルクの情報はしばらくは民衆に伝えるな、こちらでタイミングを測る」

「は!」


翼の生えた魔族はくるりと後方を向き玉座の間をでていった。

その光景を見届けたあと部屋には数秒の沈黙が訪れる。

そして


「………どう思う、憎愛の魔女」

「儂をその名前で呼ぶな、せめてゴルゴンと呼べ」


玉座の後ろから不満そうな顔で出てきたのは床下までつきそうなくらいの黒い髪を後ろで束ねた女魔術師だった。


「で、どうだ憎愛の魔女」

「………直す気がないんじゃな、まぁよい…」


ゴルゴンはまたしても腑に落ちない表情を見せると玉座によりかかり天井を見上げた。


「……ま、ゼレグラードがやられるのは予想通りだが、あのマルクが簡単にやられるとは思いにくい」

「……情愛の魔女が何か仕掛けたか?」

「ありえる話じゃが、あやつ単体では攻撃手段がない、しかも勇者に対する強化魔法だとしても転生してから一ヶ月の若造にマルクは負けん」


……情愛の魔女による工作は考えにくいとするならば……いや何か手は打ったはず、あの腹黒魔女が何もしないわけはない。

我の側近の部下を倒せる何かが…


「………天使の可能性は?」

「その可能性については否定じゃ、あやつは使徒にも負けんし何より天使が人間の味方をわざわざする意味がどこにあるんじゃ」


憎愛の魔女の意見はごもっとも

我ら魔族はまだ人間との交易は少しだけ行っている。

しかし天使達は人間との完璧な敵対関係に位置しその立場を強めていた。

人間の味方なんぞする理由がない。

残るは……


一人しかおらんな

マルクを倒せて人間に味方する奴なんぞ


「……ベリト」

「なんじゃと!?」


ゴルゴンが驚きのあまりすがっていた玉座を離れ魔王の前に立つ。

深く考えこむように下を向き顎を自分の顎を抑える。


「……確かにもっとも可能性があるのは奴じゃ、だがあやつは人の味方はしても国の味方をすることはないはず…」

「おそらく何かを条件にした情愛の魔女との契約、もしくはそれに相応する代価」

「……なるほどマルクを倒す理由にも納得がいく」


ゴルゴンが口を閉じた。

まだ可能性でしかないがそれだと思うには充分すぎる判断材料。


魔王の死人のような顔は少しだけ口角を上げ嘲笑うかのように変化した。


「………ククッついにベリトが動き出しか!それも我の敵として!これほど嬉しいことはないぞ!ククククッ」


笑いが抑えられるに口に漏れてしまった。

しかしこの鼓動の高鳴り!まさしく我が待ち望んでいたもの!


そんな魔王を苦笑いしながら見ていたゴルゴンが口を挟む。


「喜ぶのもいいんじゃがどうする?このままでは劣勢もいいところじゃよ」

「………そうだったな……グランドバレー前線を一旦撤退させる、獣国の奴らにくれてやれ」


グランドバレー前線とは獣国と魔王国の戦争の最前線、眺めれば眺めるほどの荒野の間に一際目立つ巨大な谷のことである。

魔王軍はそこを支配し一時的に占領していたのだが近年再び獣国と共和国の連合が奪還をするために戦争を仕掛けたのが現状である。


「………前線を下げると獣国の奴らを勢い付かせることになりそうじゃが……」


数年守ったグランドバレー前線……それを放棄するというのは獣国に一時的に敗北したというのと同じである。

民衆からの不満は避けられない。


「いやここで一旦止まる戦争は止まる、奴らには別の脅威があるからだ」


ここで我々が引けば、魔王国を脅威じゃないと判断しそこからは攻めてこない、そうでないと奴らはもう一つある別の問題を同時並行で片付けることになるからだ。

そこまでの労力は奴らにはない。


「あーわかったのじゃ」


第二席次ガンジールからの報告でとあるものが目を奪っていた。

それは21年前、樹の災害戦の1年前のガラタ王国を滅ぼしたのを最後に、動きがなかった天使達が何やら裏工作を進めているという情報だった。


「バエルと獣人、人間どもの戦いは我らはただの傍観者、そこで他の七災害の情報が入れば次に活かせる、もっとも討伐してくれても構わんが……」


バエルはここからさらに面白いことを仕掛けてくる。

我らが参戦すれば敵側の戦力は多少裂けるだろう。

しかしそれは我々の本来の目的に根本的に関係はない。

ならここは一旦手を止め、奴らにバエルを殺してもらった方が後々楽になる。


「……それに我らは情報が不足している、故にこのまま戦うのは危険だ」


最低限ベリトの情報は欲しい、弱体化はしているのか?本当に我らの敵なのか?使える魔法の種類は増えているのか?


「だが見ているだけだとつまらんな」

「まぁまだ戦力に充分な余裕はあるんじゃ、なら少しばかり遊んで見てはどうだろう?」

「そうだな、ここは一つ掻き乱すとするか」

「方針は決まったようじゃな、じゃあ儂はもうそろそろ行くとしよう、しばらくここを留守にするぞ」


そう言ってゴルゴンは部屋の赤い絨毯の上を歩き始める。


「……何をやろうとしている?」


するとゴルゴンは足を止め振り返る。

ニヤッと笑い魔王を見ると


「魔王軍側の勇者を作っておる、いい復讐心を持った奴がおってのう、人材としては本物の勇者をも勝るかもしれん」

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