結末
「待ってください!!ライさん!」
俺がトドメを刺そうとした時、メイヤの目の前に現れたのは銀髪の少女……リリアだった。
堂々と両手を広げ俺を真っ直ぐ見る様は昨日まで泣きじゃくっていた少女とは見違えている
「……………はぁーやっぱりこうなるか」
俺はメイヤが言った救済を勝手な思考で人の幸せを決めつける愚かな行為だと否定した。
ならこれがあいつの選択なら俺はメイヤを殺せない。
展開していた魔法陣を消しゆっくりと地面に降下する。
あとはあいつの仕事だ。
「お……お嬢様……ど、どうしてここに……」
驚きのあまり動揺が隠せない。
何故今……それにこのことはお嬢様は知らないはず……
「………バ……バ……バカメイヤ!!」
リリアは手を大きく振り上げ、メイヤは目を反射的に瞑った。
叩かれる……いや、それ以上の覚悟はしている。
「えっ?」
しかしリリアの取った行動は驚くべきものだった。
振り上げた手をメイヤの後ろに回し思い切り抱きついた。
「なんで……どうして……何も……何も言ってくれないのよ………」
メイヤにしがみつきながら途端に泣き出すリリア、その涙の意味を誰よりも理解していた。
「………申し訳ございませんでした」
誤って済む問題じゃ無いことはわかっている
しかしこれ以上の言葉を見つけられない。
「………私寂しかったんです、メイヤがいないのが……こんなにも辛いなんて……」
リリアの服は焦って走ってきたせいか汚れや傷があった。
ここまで必死になってメイヤのことを守りたかったんだろうか。
「でも……私はあなたを殺そうとしました……もう戻れません」
リリアがどこまで知っているか、それはメイヤにはわからない。
だから全て知っている前提で話していた。
「………………」
「それに私は……天使であることを隠してお嬢様に近づいてしまいました…もう……私は!」
「メイヤ……」
リリアは静かにメイヤの頬を掴むと目を合わせゆっくりした口調で言った。
「人間かどうかなんて関係ない……私が大好きなのはメイヤです。天使のメイヤでも人間のメイヤでもない」
「本当に……本当に……今まで騙してすみませんでした……」
メイヤがボロボロに泣きリリアにしがみついた
それを優しくゆっくり両手で包み込んだまま2人で泣く。
それを俺は傍で木に縋りながら見ていた。
リリアの行動は正直よくわからない。
自分を殺そうとしていたやつを何故助けるのか理解に苦しむ。
しかしそれは数十年一緒に暮らしてきた両者にしかわからない物だと思う。
「私がリリアを連れてこなかったら本当に殺すつもりだったでしょ」
後ろからゆっくりと歩いてきたのはセレンだった。
「俺は俺のやり方しか知らないからな、ここで妥協していたら今みたいな展開にはならない」
「さっきまで信じることを否定していたあなたがまさか私がリリアを連れてくるのを信じるなんて、どういう風の吹き回し?」
「お前達が来なかったら、それ相応の結果になっていただけだ、どちらに転ぼうとも俺には関係ない」
「素直じゃないんだから」
そういうとセレンは2人のところへ歩いて行った
ふと疑問に思う…何故、セレンとリリアがこの場に来ると確信していたのだろうか、絶対にそうなると思っていたわけではないのに
「わからない……わからないな」
*
「………カマエルが負けたか」
白い羽を開き閉じながら飛ぶ金髪の女、それは王子の新しい婚約者であるクリス・マーティンだった。
私が婚約者を取りメイヤがリリアを暗殺するまでの流れは完璧だったはず……なのにあの女……最後の最後に失敗しやがって……とりあえずバエル様には裏切りものとして報告しておくか? どうせあの女には本作戦のことを伝えていないし、それに黒衣の男のこと……おそらくバエル様なら何か知っているはず。
クリスとって今の最優先事項は自分達の障害となるかもしれない黒衣の男の情報を持って帰ることだった。
冠位魔法自在に操り天使の中でも使徒と呼ばれる9人のうちの一人……カマエルを完膚なきまでに倒したあの男の情報を……
「じゃあね、カマエル……負け犬はいらないから……」
「へぇーその負け犬に君がなってみる?」
「!!」
クリスが奇妙な声と共に後ろを振り向くが誰もいない。
脳内を直接潜り抜けたような声……
「き、気のせい……」
いやそんなわけはない、確実に私の耳に男の声が聞こえた。
これは……早く離脱を!
クリスは羽を広げ空高く飛んでいこうする。
早く!早く!
しかしそんな念持も虚しくどこからともなく2本の矢が両羽を打ち取り森に落下していく。
周りが開けているところに受け身で着地すると辺りを見回す。
「一体……誰がこんなことを……」
「お、ちゃんと生きているね!まぁ死んでもらったら困るんだけどっ!」
深い草むらを掻き分けそこに現れたのは禍々しい弓矢を持った緑色の髪の少年だった。
「…………お前は」
「あれー僕のこと知らない?バエルちゃんから僕のことを聞いているはずなんだけどなーまぁいいか」
そう言うと少年は口角を上げ縫い合わせたような笑顔を見せる。
その不気味差は、クリスがバエルから感じたものと似ていた。
その瞬間クリスは体中から悪感を覚え逃げ出そうとする。
こいつと戦ってはいけない!
絶対に負ける!
早く逃げなければ
しかしいざ体を動かそうとすると全身に力が入らず抜け切ったままになった。
なんでどうして!どうして体が動かないの!
クリスは必死に逃げようと体を動かす。
その様を見て少年は笑いながら答えてた。
「僕の可愛い蝶の毒は腐らせることだけじゃない……こんな風に体を麻痺させることだってできるんだよ?」
「………!!」
少年の指先に一頭の青い蝶が止まる。
やばい……こいつの目的はおそらく!
少年が笑顔を崩さずゆっくりとクリスに近づく
「あ……アラ……レータ……」
「自害なんてさせるわけないじゃん」
魔術の詠唱は最後までできなかった。
少年はクリスの頭を掴み、数秒間沈黙する。
するとさっきまで少しでも暴れようとしていたクリスの目が虚になり全ての力が抜け切って地面に倒れ込んだ。
消えていく意識の中で彼女はとあることを思い出す。
弓の神武を操り自分の同族を全て殺し尽くしたそして緑色の髪の人間の姿をした奴の名は……精霊の災害……放浪の……
彼女の最後の光景はただ不気味な笑みを浮かべる少年の顔だった。
「……なんかベリトが面白いことやってそうだから戻ってきて見れば……君達もなんだね!何をやろうとしてるか僕にも見せてよっ!」
ベーガストは倒れて眠った状態のクリスの隣にしゃがみまた頭を掴んだ。
黙り込みながらまじまじとクリスを見つめる。
数秒間黙り込むとさっきまでまでよりもっと口角を上げにやけずらを隠さない。
「………はは!!あはははははははは!!!」
その瞬間大声で笑い出した。
手で顔を押さえながら必死に出てくる笑いをなんとか抑えようとする。
「……あはははは!!……はは!まさかこんな面白いことをやろうとしているなんて!!バエル……いやブリュンヒルデちゃんって言った方がいいのかな?いいね!もう少し僕も傍観者になっておこうかな」




