暁月の眠り
森の上空で魔術の弾丸が魔法陣から発射され俺を目掛けて打ってくる。
爆風とともに鳥達が飛び立ち轟音が辺りに響く。
天を舞うの効果もあと少しで消える……もうそろそろ決着をつけるか
「長々とした会話は飽きた、そろそろ終わりにしてやる」
「さっきから逃げてばっかりのあなたに一体何ができるんです!」
メイヤの口調は荒くもはや冷静さのカケラもない。
魔弾の嵐が俺に降りかかる。
しかしその全てを障壁を展開し塞いだ。
「そ……そんな……」
メイヤの絶句した声が思わず漏れる。
「………まぁいいか、さて」
久々にこの魔法使うが……ちゃんと機能はするんだろうか?
今から使う魔法は第六冠位魔法……人間の身では決して到達できず、魔女ですらその領域に踏み入るのは数百年かかる。
———だが俺は使える———
「いずれ世界は無に帰り、無こそ原初の始まりの地……俺の魔法は世界の魔法を否定する」
俺は右手を前に出し詠唱を開始した。
数百メートルの大きな魔法陣がメイヤと俺の周りに展開され辺りは紫色の光で満ち溢れる。
「その詠唱は聞いたことない……それにこの魔法陣!まさか冠位魔法……ありえない……だって人間には使えないはず……どれほどの魔力量を……」
「お前は一つ勘違いをしている、冠位魔法に魔力は必要ない……そしてそもそも俺は魔力が皆無で魔法はもちろん魔術はほぼ扱えない」
「じゃあなぜ!!」
「だから俺は冠位魔法じゃないものを冠位魔法として組み立て直すことによって扱えるようにしている……この空中浮遊もだ」
セレンがあの夜俺のカエルヌを普通の魔法だと勘違いし魔力供給ができなかったのもこのためだ。
「お、おかしい……あなたは!あなたは!世界の害悪だ!ここで殺さないと!」
さらに多数の魔法陣を展開したメイヤは俺に向かって打ち続ける。
だがもう防御する必要はない、なぜならこの魔法の能力は
「見せてやる、否定により世界を肯定する冠位魔法… これが、第六冠位暁月の眠り……」
その瞬間周りの魔法陣が一斉に消え魔弾も全て跡形もなく消えた。
メイヤの手に持っていた青色の光の剣もいつのまにか姿を消していたのだった。
「……一体何が起こって……」
同様を隠せないメイヤ、確認できるのは自分が持っていた武器と放った攻撃が無効化されたこと……
「……第六冠位魔法って言っておきながらやったのはただ私の武器と魔法陣を消しただけ……ならさっき状況は変わりません!さぁもう一度魔弾の雨を……ってあれ?」
メイヤが何かの異変に気づく……それは何故か自分の魔法陣が展開できず、さっきまで持っていた剣も出せない……
「…いっただろ?全ての魔法を否定するって」
「ま、まさか!」
気づいた時にはもう遅い、すでにお前は俺の魔法をくらった……最もこの状況での回避不可能だったが
「範囲内全てのありとあらゆる魔力攻撃の無効化……お前は魔術と魔法を封じられた」
「魔力の無効化……」
メイヤのメイン武器はその魔力を糧に生成される。
光の剣も……魔弾も全て魔力依存、勘の良く無いやつでも気づく、奴は全ての攻撃方法を失ったと
「………でもあなたも魔法が使えなくなったのでは……」
「これもさっき言ったが俺は全ての魔法を冠位魔法として組み直している、冠位魔法は魔力に依存しない、よってもうお前の負けだ、メイヤ・スーザン」
「……………」
メイヤは下を俯き黙り込む。
これが冠位魔法……一瞬にして勝負を決めることのできる必殺。
「まだ……私にはこのナイフがある!!」
さっきの光の剣とは比べ物にならないほど小さいナイフを片手に俺に向かってくる。
しかしそんなものこの空中戦においてはもはや紙切れより使えない。
「………さっさと諦めてくれた方が良かったんだが」
「まだ!まだ!わたしは!!!」
必死の表情のメイヤだったが俺の数発の魔弾で撃ち落とされ爆発音とともに森に落ちていった
草がクッションとなりなんとか絶命は免れる。
手から血が流れ頭がくらくらする……
状況が理解できない………
肩で息が上がりやっとの思いで立ち上がる。
「ガハッッ!!ハァ……ハァ……私はまだ負けてない……まだ……」
腕を押さながら立ち上がり空を見上げる……そこに写って黒衣の男は今のメイヤにとって死神同然……もはや打つ手はない。
「そんな……私はこんなところで……」
黒衣の男が魔法陣の展開を始めた。
紫の色が私の空を包み死へカウントダウンを開始している。
「………本当は救済なんて求めて無いんです……人類を救済……違う……私が1番欲しい物は……」
脳内に再生されたあの人との思い出……任務であったがそれでもその表情だけは偽りでは無い
「お嬢様の……笑顔……それだけで充分なんです……」
静かな涙が顔から溢れ出る。
婚約破棄の後、私は改めて暗殺しに行こうと雨の中歩いているお嬢様を見つけた。
ナイフを刺そうと歩み出した途端に私の足は止まった
その時も何故か涙が止まらなかった。
私はどこかでお嬢様を殺さなくていい理由を探していたのかもしれない……この男は私がお嬢様を殺さないように……私を救ってくれるんだ
「終わりだ」
男が非情に告げ魔法陣がさらなる光を増す。
私は無理矢理作った笑顔で涙を流した。
「………あはは、もし生まれ変わるなら人間がいいな、天なんかに仕えず……お嬢様とただ一緒に幸せ暮らしたい……」
私は今まで大勢の人を殺してきた。
でもその中にお嬢様が入らないことに内心ほっとしてしまった。
あぁ……これで私はお嬢様を殺さなくて済む。
いいなぁ……あの人はこれからもお嬢様の成長を見れるんだから……
「待って!!」
それは聞き覚えのある声……そして一番出会ったかった人
目の前には銀髪の少女が両手を広げ立ち尽くしていた。
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