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死にたい男と生きたい少女  作者: 島国に囚われしパンダ
第2章 令嬢と罪人の結末
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メイヤ

「あなたに命じます……メイヤ、人間として帝国に行きとある人物の監視をお願いしたいのです」

「……わかりました」


 白と黒の修道女の格好をして大きな白い羽をつけた人物が跪いている幼メイヤに向かって言った。


「えぇ……えぇ……あなたは本当に素晴らしい……これまで任務を全て完璧にこなしてくださいましたから今回をきっと最後まで役割を果たしてくれると信じてます……私達の祈りで世界が救済することを……全ての生物は死ぬことで天に帰るべきなのですから……そうでしょ?カマエル……いいえ帝国ではメイヤでしたね」

「……おっしゃる通りです、私達いずれ生きとして生きる全ての生物を救済します」


 メイヤの言葉に修道女は微笑んだ。

 不気味な笑いとも呼べるその笑顔はどこか寒気を感じるほど優しく、穏やかだった。





 私は人間と天族……天使の間に生まれた。

 これまでそれで不自由だったことは一度もない。

 天使達は皆、天の神 信仰のバエル様のもと全ての生物の救済を目的とした侵略者として人間には恐れられている。

 そのせいかバエル様は七災害のうちの一人として数えられるようになった。

 だが私達の救済は終わらない……

 私はこの身全てをバエル様に捧げると誓った


 でも……私は何故か苦しかった。


 燃え盛る町……人々の悲鳴……

 他の天使達は笑顔でその光景を空から眺めている。

 なのに私だけ……悪寒が止まらないかった。

 私が人間と天使の間に生まれたせい?

 それはわからない……でもこの光景が笑って見ている他の天使達が怖い……



「バエル様……私達のやっていることは本当に……正しいんでしょうか……」


 隣にいる飛んでいる大きな鎌を持った修道女の天使、バエル様に瞳を震わせながら言った。

 するとバエル様はこちらを優しさが包む笑顔で


「カマエル、何を言ってるんですか?これは救済ですよ?一瞬の痛みだけで永遠にその苦しみから永遠に解放される……命は天に捧げるものですよ………」


 ……この痛みが一瞬?

 燃えて叫び痛みが蔓延しているこの町は苦しみが一瞬どころではない。


「バエル……様……やはり私は……!」

「カマエル?」


 私が途切れ途切れの言葉を出そうとした瞬間にバエル様はそれを閉ざすように口を挟んだ。

 その冷圧に負け私は少し後ろに下がる。


「も、申し訳ありませんでした……」

「えぇ……えぇ……いいですよカマエル……その失言を天の神の名のもと許しましょう」


 笑顔を全く崩さず話すバエル様

 私はその顔がとても……怖いのです……


 そんな会話をしているとバエル様は突然手に持っている鎌を町の方に向けこの場にいるものを鼓舞するように声を上げる。


「さぁ……いきましょうこの町の残りの人族を救済するのです!」


 その言葉に鼓舞され数百体の天使達が一斉に町を襲いに行った。

 爆撃……惨殺……なんでもありだ……

 果たしてこれは本当に救済と言えるのだろうか……それは私の中で重い鎖となり絡みついて離れない。


「………私は……私は……とても苦しい……」



 そんな時任務の中で出会ったのがリリア……お嬢様だった。


           *


 町の北東に位置する森……その上空で2つの何かが爆発音とともにぶつかり合っている。


「私は……バエル様にこの身を捧げると誓った!私の信仰は揺るがない!!」


 メイヤは青色に光る剣を両手に俺に向かって切りかかる。

 しかし俺は後ろに旋回ししつつ距離を取る。

 メイヤの目からは明らかに怒りと悲しみの両方が見てとれた。


 これが天族……天の災害バエルに従属する使徒

 数々の町の破壊や多くの死者を出す……まさに厄災と呼ばれてふさわしい存在。

 奴はリリアを殺すことを諦めていない……なら俺はこいつを殺すだけだ。


「あなたが!あなたが!いなければお嬢様は今頃救済されていたはずなんです!!」


 なんとなくわかかっていたがあのパーティーの時にメイヤはリリアを暗殺する予定だった。

 セレンの失敗もある意味幸運だったのかもな


「そうか……お前が俺のことをどう思おうがどうでもいい…だがお前の救済は本当にリリアにとっての救済なのか?」

「黙れ!天の神は全ての生物を救う!お嬢様だって一緒!貴方なんかに邪魔されてたまるか!」


 メイヤは声を振るわせ俺に向かって果敢に斬りかかる。


「わからんな、お前みたいに勝手な思考で他人の幸せを決めつける……実に愚かだ」

「うるさい!うるさい!!!どっちにしろ最後は皆寿命というなの呪いに縛られて死ぬんです!結局苦しんで苦しんでもがいて……その先にあるのは死なんです!結局死ぬなら人生に意味なんてない!命の価値なんて最初からないんです!!生きていることが罪なんです!」


 ……こいつの言っていることも一理はある。

 もし最初から破滅……死が待っておりそこに向かって進むならゴールは全て同じ、人生になんて意味はない、俺は今まで数多の人間を見てきた。

 希望を持って戦う一人の村人……絶望を噛み締め涙しながら命乞いをする兵士……

 だが俺は一つだけ確かなことがある。

 誰も彼もこの世界に抗っていた。

 俺の旅のゴールは死、そこは変わらない。

 だが……もしもその過程で大切な物を守れるなら……約束を果たせるなら、俺は全てを犠牲にできる。


「生きるのが罪だと?」

「えぇそうです我々の命は天に帰るべき!!」


 メイヤの動きが止まり鋭い目つき俺を睨む。


「別に否定はしない、確かに俺達は罪人……誰かの犠牲の上に成り立っている」

「そうです!ならあなたも……」

「じゃあ俺を裁くのは誰だ?お前か?魔王か?それとも天の災害か?お前達のその救済は罪には該当しないのか?」


 もしお前達が俺を救済してくるなら喜んでそれを受け入れよう……だがお前達に殺されたところでまた数百年後には再生し復活する。

 この神武が俺に呪いをかけてくる。

 本当の呪いというものはこういうことだ。

 だから俺は寿命を呪いとは思わない。


「残念だが……お前に俺を救済することは不可能だ、この時代で俺を殺すのはただ一人…セレスティアだけだ」

「何を訳のわからないことを……救済は平等に訪れる……私があなたを今から救ってあげましょう!」


 こいつに俺は殺せない……俺も俺を殺さない


 あぁ……本当に……本当に……


 全てを投げ出して死にたいのに……

誤字報告ありがとうございます!

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