罪人
街全体が一望に見渡せる風の丘、そこにボロボロのフードを深くまで被り下の方を見下ろしている女……私がいた。
「大丈夫……まだ修正は可能なはず……」
内心は焦っていたが常に冷静な顔を崩さないように努力していた。
私は今とある作戦を”上”から伝令を受け実行に移している。
その作戦とは対象の殺害、暗殺任務だった。
しかしパーティー会場の上から人が落ちてくるという前代未聞のトラブルのせいで暗殺は失敗に終わったのである。
最も……本当に失敗した理由は別にあるのは私は理解していた。
その時、安心してしまったのだ……
あの人をまだ殺さなくていい理由ができたと…
トラブルのせいにして逃げれるのだと
しかし現実は残酷だった…
1日待ったあと伝令は作戦の続行、この一文だった。
「ごめんなさい……私はこれから……あなたを殺します……ごめんなさい……」
果たしてその懺悔は意味を成すのだろうか。
ただ信仰しているものを信じるだけ……
胸元から小さな十字架を取り出し両手で握りしめ祈る。
悲しさも後悔も私は手に持っているこれに全て封印した。
「…さようならです、せめてもの救いで一瞬で」
私は一歩前に出て崖から飛び降りようと下を向く。
下は急斜面になっていて落ちたらひとたまりもない。
「……そこにいるのはわかっています」
「そうか」
その瞬間一歩一歩近づいていた足跡がピタリとやむ。
後ろを向くと全身黒い服の男がこちらを見ていた。
「なんのようですか?私はこれから仕事なんですよ」
「その仕事っていうのはこの丘から町を見下ろすことか?」
男が無機質な声で能弁に喋る。
「あなたには関係ありません」
この人はパーティ会場に降ってきた男と特徴が一致している……あの時一瞬で消えたからうろ覚えだが奇抜な黒衣もこの町では一人しか見かけていない恐らく同一人物だ。
最大の警戒を……
私が身構えていると男は手に持っていた袋をこちらの手前に投げる。
「……」
「安心しろ、爆弾じゃない」
袋が地面とぶつかった瞬間、袋の締めが甘い部分から金貨が溢れ出る。
その数は数えきれないほど入っておりきらきらと日の光の反射で輝いていた。
「……なんのつもりですか?」
「それを持って逃げろ、お前にはその手段と方法があるはずだ」
男は私を鋭い眼差しでこちらを見る。
「これは……私のことを知っているという認識でいいですか?」
「どう解釈してもらっても構わない」
………この言動は多分私のことを知っている。
このままだと作戦に支障が出る可能性が極めて高い。
なら取るべき行動は一つだ、
「残念ですが突然知らない人からの大金は受け取れません」
私は地面に落ちていた袋を拾い上げ男に向かって投げた。
男がそれを掴もうと手を伸ばす
——こいつは始末しなければならない——
私は男の視線が袋に集中している瞬間はからって袖に隠していたナイフを男に向かって投げた
「!」
しかし男は首を少し曲げナイフをスレスレで避ける。
勢いが治らないナイフは男の後ろの木に刺さり静止した。
「お前人を殺し慣れているな」
男は後ろに木に突き刺さったナイフを抜き刃の先々を見る。
「………」
追撃のタイミングを逃した……
本当ならここでもう一つ隠しているナイフで男に切り込み仕留めることもできた。
しかし何故だろう……
それだけは絶対にやめろと……相手の手の届く範囲に入るなとそう言われたような気がした。
私があのお方以外を信じるとは……落ちたものだな
「このナイフ、俺がゴブリン退治をした時に発見した死体のところにあったやつと同じ長さ…そして作りも一緒」
男はナイフを袋と同じように私に向かって投げ捨てる。
地面には落ちたナイフの鉄の音が響いた。
「別に推理したいわけじゃない、面倒だから先に言うぞ、お前………
メイヤ・スーザンだろ」
男の言葉に私は諦めがついた。
どれだけここで正体を隠そうと意味がないことがわかったからだ。
フードを脱ぎ捨て長い茶色の髪を広げる。
「……お嬢様から私の特徴を聞いたのですか?それとも独自に調査を?」
「後者だ、一度お前達を鍛冶屋で見ている。顔を隠していても声は変わらない」
私がお嬢様と朝鍛冶屋に行った時のことか…
「お嬢様とまともに会う最後のチャンスだったのに…作戦前に外に出歩くのは失敗でしたね」
あの鍛冶屋の件が終わってから私とお嬢様は出会っていない。
最も私が一方的にお嬢様をずっと見ていたんですが……
「………それで?私が今から何をしようとしているかもあなたはご存知なわけですね」
考えてみれば当然だ。
こいつがここに来た理由…
それは私を止めるからなら他ならない。
「……まぁそうじゃなきゃこんな面倒なことをやってないからな、メイヤ・スーザン……何故
リリアを殺そうとする?」




