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死にたい男と生きたい少女  作者: 島国に囚われしパンダ
第2章 令嬢と罪人の結末
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そして物語は動き出す

「すみません…メイヤというメイドをご存じでしょうか」


私は扉の前のメイドに聞く。

しかしまるでそこに存在しないかのように無視された。


「………すみません」


私は一礼すると重い扉を開ける。

そこに広がっていたのは豪華なシャンデリアと広い空間、王族のパーティーにしては充分すぎるほどの大きさだ。

私は殿下が選んでくださった青と水色の衣装を着ている。


「……………」


私は一歩前に出ると会場に向かって一礼した。

さっきまでガヤガヤと騒いでいた会場はいきなり静かになる。


「あの……噂の」

「殿下にはふさわしくないんじゃないしら」

     「田舎の貧乏貴族が…」

「恥を知れ、全く」


蔑みの声が多く聞こえる……

扉を開ける前から聞こえていた。

これは恐らく私に対しての言葉でしょう。

それでも私は前を向かなければならない。

例え蔑まれようと私は殿下の妻として今日この時のために生きてきた。

なら私がやるべきことは堂々と前を向くことだ

あとからメイヤも来てくれるはずだ。

私の前からなんも言わずに姿を消すなんてそんなことは絶対にしないはず。

いつだって私の味方だった…メイヤが…そんなことするはず……


披露宴を1番に喜んでくれた……私の大切な……


私は一歩ずつ前に出る。

そして真ん中に来たところで止まった。

周りを見渡すとやはり蔑みの視線を感じた。


「………」


私は殿下を待つ。

静かにその時を……


ギギギッ


正面の大扉が開き始める。

皆、私から視線を外しそこに釘付けになった。

そしてその奥からは

純白のスーツに身を委ねた殿下が現れた。

私は息を呑む。

ここで何か失敗しては私は……

大丈夫…きっと私は大丈夫……


殿下は一歩ずつ私の方に進んでくる。

ずっしりとした趣で


「…………」


そして私の前で立ち止まった。


「殿下……私は!」


その瞬間誰もがその光景に呆然となった。

私でも何が起こったか判別できなかった。

しかし頬の痛みが後から襲ってきてようやく気づく。


「……え?」


殿下の手は私の頬を通過し反対なっていた。

 

「貴様……なんだその服は…それが花嫁としての衣装か!」


殿下が指摘したのは私の水色と青がベースのドレス

しかしこれは


「えっ……これは殿下と一緒に選んだはず…」

「誰がいつそんなことを言った?俺はお前のそのセンスを買ってやったんだ!少しは考えろ!!」

「そ、そんな……」


数ヶ月前に私と殿下は披露宴のドレス選びをした。

その時に確かに言っていた。

でも何故……覚えてらっしゃらない……


「それにだ、確かにここ数ヶ月間貴様を見させてもらった、マナーと礼儀はしっかりとわきまえているそこは褒めてやろう」

「でしたら!」

「だが!!」


その声は会場を大きく揺らす。

バリアス殿下の声は今まで聞いたことないくらいに怒り狂っていた。


「じゃあ何故、貴様からメイドは去った?」


……去った?一体何を……


「メイヤというメイドから聞いた!貴様常日頃から暴力を働いてたらしいな!あのメイドは涙ながらに訴えてきたぞ!!」

「え……メイヤが?私が暴力…?一体何を言って……」

「とぼけるな!!すでに証拠はとってある!メイヤが今日来ないのがその証拠だ!何故主人が参加するパーティーに来ない?おかしいだろうが」

「なんで……私は……」


意味がわからない!

何がどうなっているの?

私がメイヤに暴力?

ありえない、だって小さい頃から一緒にいていつも笑顔で時には親同然のように叱ってくれたメイヤが……私が暴力を振るうはずがない!!


「殿下!何かの間違いです!もう一度お調べになってください!!」

「うるさい!!!」


私は涙ながら訴えた。

しかしバリアス殿下は聞く耳を持たなかった。


「お前には失望した……王の妻となるのに相応しくない……それゆえに……」


嫌だ!その言葉は聞きたくない!!

私が壊れる、今までの人生が!16年間が!


しかし現実は非常だ、バリアスは口を開く。


「今日をもって、リリア・ファルラーバルトと婚約破棄させてもらう!」


会場はありえない光景に震撼した。

明日結婚式を控えている王族が目の前で婚約が破綻したところを見れば誰だってそうなる。


私は膝から崩れ落ちた。

何が起こったかはわからない。

それ以上に悲しみと絶望が同時に込み上げてきた涙が溢れ出た。


「ふん!こんなことで泣くとはやはり王族に相応しくなかったのだな!」


バリアス殿下は私に非情を告げる。


「………お考え直しを」


私は震える声で絞り切る。


「どうか再考を……私はメイヤに断じてそんな事はやっておりません……」

「リリアまだそんなことを言うのだな、嫌違ったかもう名前すら呼ぶ価値のない貧乏貴族か」


バリアス殿下はそう言うと扉の方を向き両手を広げる。


「今回皆さんに集まってもらったのはこの貧乏貴族の断罪ため!これが本性です!」


会場から拍手が湧き起こる。

喝采か、蔑みか、貶しかだがそれはいずれにせよ全てがリリアにとって最悪をいった。


「そしてなんと!今日はこの王子に相応しい、美しい方を連れてきました!どうぞ入っておいでクリス!」


すると扉が開き出てきたのは純白のドレスに身を包んだ、女だった。


「紹介しよう!これが私の新しい妻、そして国を2人で背負うことになるクリス・マーティンだ!」

「はぁ〜待てませんでしたわ、いつこの罪人が早く断罪されるのかと楽しみにしていました」

「ははは、どうだ俺は?かっこいいか?」

「最高にかっこいいです!こんな女なんかやっぱり殿下には釣り合うわけないですもんね」


クラスと名乗る女はリリアに人差し指を向ける


「まぁまてまだお父様方には紹介してないんだもう少し待っていてくれ」

「はーい」

「殿下……その方は……」


リリアは顔を上げる。

まだ涙は止まっていなかった。


「は!俺を真に愛する人クリスだ、お前と違って政略結婚ではなく平民という立場でありながら俺を常に慰めていた」

「一体いつから……」

「貴様に言うわけないだろ?まぁ俺とクリスの出会いは運命だったとだけ言っておく」


リリアはクリスの顔を見た。

その顔をリリアを蔑むように笑っており同時に理解した。


私に……居場所なんて…

でも私は……もう………


「ねぇ〜殿下」

「どうしたんだいクリス?」

「この女の断罪はまだ終わってないでしょ?」

「あーそうだったな」


クリスはバリアス殿下と腕を組みながら言う。


「貴様、リリア・ファラーバルトにチャンスをやろう」

「……チャンスですか」

「そうだ、私と決闘しろ勝てば貴様の婚約破棄を無かったことにしてやる、代理人を立ててもいいぞ?お前にそれほどの人望があるとはおもえんがな…」


バリアス王子は自分の手袋を外し私に投げつける。


「取れ、それが承諾の合図だ」


私はその言葉を一言一句しっかり覚えている。

殿下と決闘?辺境の貴族の令嬢が帝国の剣術をマスターしているバリアス王子に勝てるわけがない。

常人ならここは潔く引いている。

しかし私の精神状態は不安定だった。

今まで育ててくれた父親、母親へ気持ち

何よりメイヤに対して

私は最後まで抗わなければならない。


……これが最後のチャンスなら私は……


リリアはその手袋を取ろうとしゃがみ手で触れた。


ここまではクリスの計画通り


バカな女ね…帝国最強を師匠に持つ殿下に剣術を少し齧った程度の女が勝てるわけがない…先に協力者であるメイヤとかいう女も始末して正解だったわ……


そして持ち上げようとした瞬間


「きゃああああああああ」


天井が大きく割れ会場の奥の方で何かが勢いよく落下した音が響く。

たちほこる瓦礫の中から姿を現したのは


「痛ったたたた、本当に危なかったわ」

「お前まじで覚えてろよ、というかここは…」


黒衣の男と人形のような少女、その光景に誰もが唖然としていた。

人形のような少女が周りを見渡すと


「………やってしまったわ……」

「…………………逃げるぞ、幻想(ファントム)


魔法陣が展開され2人は一瞬にして姿を消した。

殿下とクリス、それに私と会場の誰もが理解出てきていなかった。

いち早く動いたのは兵士達


「侵入者だ追えーー!!!」


会場が一気に騒がしくなる。

沈むような空気だったのがガヤガヤと音を立て始める。


その時は私は自分の冷静さを取り戻しバリアス殿下言う。


「決闘件は少し考えさせてください、私の一存で決められることではないので」

「チッ行くぞクリス!」

「はぁ〜い殿下」


私は会場を急いで去ろうとする殿下に手を掴まれ逃げようとするクラスの口元は…


     もう少しだったのに


そんなことを言っていたように見えた。

私は来賓やら多くの方が扉から去ろうする中その場に残った。

静かさが戻った会場にはもはや私以外いない。

その会場の真ん中私は一人静かに泣く。


「………メイヤ一体どこにいるの……」


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