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死にたい男と生きたい少女  作者: 島国に囚われしパンダ
憎愛はここに
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星空

日が落ち辺り一面が暗闇になった。

俺達5人は川沿いにテントを貼り焚き火を灯す。

春といえどまだまだ肌寒く今夜の晩飯は野菜たっぷりのシチューだった。


「はい、お姉ちゃんとお兄ちゃんもどうぞ!」

「ありがと!」


セレンは少女の優しさにお礼で返す。

俺とセレンは木で作られた器を受け取ると横にある切り株に座り暖を取りながらセレンが先にシチューを口に運んだ。


「美味しい……」


セレンが思わず声に出す。

その言葉を聞くと少女は嬉しそうに母親を見た。


「よかったね、ミーちゃん」

「うん!」


少女は俺の方に期待の眼差しを向ける。

俺はその視線に負けシチューを口に運んだ。


やっぱり……ダメか…


期待はしてなかった。

王国で食べたルッケラの時もそうだったが…


「どう、美味しい?」

「あぁ…うまいありがとうな」


俺の言葉にセレンが一瞬だけピクッと反応した。


やっぱりこいつにはわかるな……


俺はシチューを一口ずつ口に運び体を温める。


「それにしても流石我が娘!料理の腕は嫁を継いでいるですぜい」

「あらやだもーアナタったら!」

「え、御者さんとお母様は夫婦だったんですか?」


セレンがシチューを食べながら言った。


「そうですぜい!家族でこの仕事を経営してるんですけど今日はたまたま専属で着くはずの冒険者がいなかったですぜい!なので今日は本当に助かりました!」

「大した事はしていない腐っても冒険者だからな」


俺は自分の障害を蹴散らせてただけだ。

そもそも今日は俺達が馬車を使わなかったら仕事もなかっただろうに…


「それにしても凄かったわ、Eランクの冒険者って思えない剣捌きだったもの」


母親が俺を見ながら言った。


「つい最近冒険者登録をしたばかりだ、セレンも

馬車に結界を張って侵入できなくしていた、お礼ならこいつにも言っておけ」

「あら、ちゃんと見てたのね」

「まぁな」


実際にセレンはエルダーリッチと戦った時もマルクと名乗る幹部と戦った時もあいつらが逃げないように後方支援に回ってくれた。

魔女の魔術支援は常軌を逸しており、結界魔術に関してこいつの右に出る物は同じ魔女くらいだろう。


「お兄ちゃんもお姉ちゃんもすごい!ねぇ、2人の事をもっと教えて!」


少女は俺達に憧れを抱くように言った。


「はいはい、ミーちゃん、今日は遅いからまた明日ね」

「はーい……」


その言葉を静止するように母親が言う。

確かに月明りが眩しいほどに光っていた。

晩飯を食べるのが遅くなったも相まってすでに夜中と呼べるほどの時間になっていたのだろう。


「お客さんテントはどうします?お2人別々がいいならそうしますけど…」

「私は構わないわ、家族一緒の方がいいでしょ?」

「お気遣い感謝しますぜい」


確かにテントは2つしかない

俺とセレン、そして家族3人の方が都合がいいが

こいつと一緒?

嫌な予感しかしない…


「おい、俺の意見は……」

「なにか言ったかしら?」

「え、あぁ…」


こいつ後で覚えていろよ



          *

夜も更け辺りが静まり返る。

焚き火も消され光をと呼ばれるものは星空と月明かりしかなかった。

俺は少しだけ歩き近くの崖上で空を見上げる。

そこは満点の星空が広がり街の明かりも遠く、視界を遮る物はなかった。


「………方角的に王国はこっちか」


俺は星と星座の位置を観察し自分の今いる場所と方角を確認する。

これは昔からの俺の癖であり夜になると自然とやってしまう。

しかし目的はそれだけではない。


ただ星空を見ていたかった…

全てを忘れてさせてくれるような空を…


「何してるの?」

「寝たんじゃないのか」


後ろを振り向くとそこには寝たはずのセレンがいた

セレンはゆっくりとこちらに近づいてくる。


「寝たふりよ、貴方が襲ってこないとも限らないしね」

「そうか」

「冗談よ、ライがそんな事をする人じゃない事ぐらいわかるわ」


セレンは俺の隣に来ると同じように空を見上げた。


「綺麗ね、ライは星空が好きなのかしら」

「…前置きはいい、さっきの事を聞きに来たのか」


セレンは少し下を向くと俺を見た。


「まぁそれもあるわよ…貴方、料理の味がわからないでしょ」


図星だ。

匂いや形で俺は料理を判断していた。

当然「真実の魔眼」を持つセレンには誤魔化しは効かない。


「いつからかは知らない、気づいた時にはそうなっていた」

「………」


別にもう慣れるほど体験した。

改めて言われても別に何も思わない。


セレンは一瞬の沈黙の後言葉を続ける。


「ねぇ、ライ…どうして貴方は偽善のベリトなんて呼ばれているの?」


いつかは来る質問だった。

セレンが俺とエキドナの会話を盗聴しているのは予想の範疇でありこのままセレンと旅を続けるなら必ず答えなくてはいけない質問。


俺は……

俺は……


頭の中に浮かんだのは懐かしい光景

何年前だろう

今にも崩れそうな木の家が立ち並ぶ村


「お願いします……どうか村をみんなを守ってください……」


俺に頭を下げ泣きそうになりながら懇願する小さな命


その時俺は……



「セレン、その質問にはまだ答えられない」


俺は空を見上げながら言った

絶対に答えなくてはならない

だが今は答えを出すべきではないと俺は判断した。

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