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ロミオVSジュリエット

作者: celestial


「こほん。えぇ〜と、この間の委員長会議の結果、クリスマスパーティーでの我がクラスの出し物は演劇となりましたぁ」


 我がクラスの委員長である、桂木かつらぎ 観月みつきは黒板を背に教卓の前でそう宣言した。

 寒い冬の日の、冷たくさえわたった月。クリスマスを目前としたとある冬のホームルームのことであった。


「というわけで、何かやりたい人は言ってください。面倒くさいので即採用しますから」


 と、そんな無責任な発言をして観月はクラスを睥睨した。

 数瞬後には火がついたかのようにクラスがざわつき始める。


「桃太郎!!」


 またしても無責任な発言が飛び出した。調子のいい男子生徒が思いついたがままに言ったのだろう。

 いくら何でも高校生にもなって桃太郎はないだろう……、和也は呆れたように窓の外へと目を移す。

 空は今にも雪が降り出しそうな曇天だった。一面灰色に染まった世界というのは、ある種の壮観な光景ではある。


「よし、桃太郎を採用!」


 委員長が言った。

 どうやら本当に即採用をしたらしい。言ったもの勝ち、まさにそれだった。

 クラス中がブーイングの嵐に包まれるが、これもまた関係ない、と和也は空を眺め続けた。どうせ自分は裏方へ回るつもりだ。演劇が何になろうと関係はない。


「シンデレラ!」


 また誰かが言った。


「よし、シンデレラを採用!」


 例のごとく例のごとし観月が気前よく採用する。どうやら委員長は本当にどうでもいいらしい。

 その後も無責任な発言は飛び交い続け、委員長は片っ端から採用し続けた。

 もう勝手にしてくれ。

 和也の意識はそこで途切れた。





 和也が目を覚ましすと丁度話が落ち着いたところらしく、黒板にはいくつか並ぶタイトルのうちの一つがグルグルと何重にも丸で囲まれていた。

 どうやらあれに決まったらしい。


「……ロミオとジュリエット?」


 白雪姫とスターウォーズというカオスな組み合わせに挟まれているロミオとジュリエットという字は、文句あるか、とばかりに黒板上で威張り散らしていた。

 少なくとも和也にはそう見えた。


「さて。配役はあと、ロミオちゃんとジュリエットくんだけです。演じてみたいな、って思った人は挙手をしてください」


 寝ている間に配役もほぼ決定したらしく、役柄の下には演じる人の名前も書かれている。幸いにも居眠りをしていた自分の名前は書かれていない。

 和也はホッと一息つく。

 一方、委員長・桂木 観月は困ったようにクラスを見回した。


「えと……、ロミオとジュリエットやりたい人はいない?」


 そう呟いてみるも誰も名乗り出る人間はいなかった。

 そりゃそうだ、主役なんて面倒なことは誰もやらないだろう。相手役のジュリエットによっては、男子生徒は漏れなくロミオに立候補するだろうが。

 何とも現金なものだ。


「あまりこういうことはしたくなかったんですが、仕方ないですね……」


 申し訳なさそうに目を伏せて、観月は言った。

 そして何かを決意したように顔をあげた観月は次のようにのたまった。


「委員長の権限により命じます。ロミオ役、伊藤和也。ジュリエット役、柏葉凜。異論は認めません、以上」


『はあっ!?』


 教室で二つの叫び声が重なった。

 一つは無関係を決め込んでいたはずの和也のもので、もう一つは唐突にジュリエット役に名前を挙げられた少女、柏葉凜のものだった。


「ちょっと待て! なんで俺が……!」


「どういうこと? なんで私が……」


 またもや声が重なった。

 ムッと和也は凜を、凜は和也を睨みつける。

 クラスメート達は待ってましたとばかりに、一様にニヤツキながら二人の様子を交互に見つめる。

 これはもはやこのクラスでの恒例行事。通称“夫婦喧嘩”。


「だいたい何が悲しくって私がこいつとラブシーンを演じなくちゃならないのよ!」


「それはこっちのセリフだ。嫌なのはお前だけじゃねぇよ」


「何よ、バ和也!」


「何だと、アホ凜!」


 黒髪短髪の少年と黒髪ショートヘアの少女はお互いに罵り合う。

 端から見る限りでは痴話喧嘩にしか見えないが、本人達は至って本気である。クラスメート達は生暖かく静観しながら、ぞろぞろと帰宅の準備を始めた。

 全ての配役も無事に決まったことだし、ぼちぼちいい時間だ。“夫婦喧嘩”をする恒例の様子を見ながら帰ることにしよう。


「はぁ…。和くんも凜ちゃんも、昔はもっと仲良かったのになぁ。これじゃあ『ロミオVSジュリエット』だよ」


 桂木観月は人知れず溜め息をついて、まだ騒ぎ続ける和也と凜を残し教室を後にした。


 和也と凜の争いが幕を閉じたのは、下校時間をとうに過ぎ教室には誰もいなくなったころだった……。


続きそうだけれど、あえて続かない。

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