第八話 大戦
大変お待たせ致しました。
太陽が隠れ、暗闇となった平原で、戦いの火蓋は切って落とされた。
地上からはスケルトンとグールが、上空からはインプやガーゴイル達が王国を守る城壁へと突き進み、轟音と共に大地を揺らす。
王国の兵士達も進軍するが、勢いでは圧倒的に魔物が勝っていた。
平原に到着したユウキだったが、左からはモンスターの集団、右からは兵士達が進軍してくる。
両者に挟まれる形となって戦場のど真ん中に孤立していた。
(取り敢えず、人間の味方をすればいいんだよな。)
ユウキは早速行動に移す。
「狂戦士の怒り」そう唱えると、
ユウキの両腕が紅く輝く。
自分の攻撃力が単純に倍になるという、脳筋のユウキには相性の良い自己強化能力である。
そして魔物軍に突っ込む。
勿論、突っ込んだ後の事など何も考えていない。
スケルトンの顔面が間近に迫る。すかさずユウキは拳を繰り出す。するといとも簡単に倒す事が出来た。
スケルトンを「殴る」と言うより、「粉砕する」の方が正しいだろう。
走りながら腕を振り回しているだけで敵が倒せるので、ユウキが通った後はグールの肉片やスケルトンの骨片しか残っていない。
モンスター達の攻撃目標は完全にユウキに移り変わっていた。
グールやスケルトンなど、アンデッド系のモンスターは、自身の脳で考える事が出来ない為、本能的に一番近くにいる人間を優先的に攻撃する傾向にある。
やがてハルキ達も到着した。スズネは双剣でグール達を切り刻み、ハルキは特大の火球で炎上させる。ペペも魔物軍に突進し、群がる魔物達を蹴散らしている。
ツキカゲはというと、「あの城壁の上に参謀本部がある様だな。俺様は戦闘は嫌だから遊びに行ってくる。後は頼んだ。」
と独り言を言って影の中へ消えた。
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変な三人の人間と巨大な蛞蝓に戦局が押されている事が分かった黒い煙は、淡く赤い光を発しながら揺らめく。
すると、上空に開いていた赤い門から巨大な黒い体躯に赤い角を頭に二本生やし、背中には翼、先が三つに分かれている槍を持ったモンスターが現れた。問題児だらけの悪魔達をまとめあげる悪魔の中のリーダー的存在、アークデーモンである。
アークデーモンの咆哮が平野に木霊する。
黒い煙が勝ち誇った様に揺らめく。
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ツキカゲは参謀本部の兵の一人の影に隠れて話を聞いていた。
戦局はどうやら三人の人間と巨大な蛞蝓が魔物達を蹴散らしているお陰で人間軍に被害は少なく、戦況もやや優勢とのこと。
人間軍の軍師達は突然の乱入に戸惑いつつも慎重に采配をしている。
そんな最中、一人の兵士が慌てて本部に駆け込んできた。
息を切らし、さも全速力で走ってきた様だ。
「アークデーモンです!平原上空にアークデーモンが現れました!」
参謀本部に動揺が走る。
「狼狽えるな!この私が直々に戦場に赴いてアークデーモンを討ち取って見せよう!」
そう声を上げたのは桃色のショートカットヘアとやや吊り目な目元が印象的な筆頭軍師の一人、セリシール・オウカである。
彼女の並外れた魔力と、一つの魔法媒体から四つの魔法を行使できる技量は、百億人に一人の逸材と言われる程のものだった。
彼女の実力は参謀本部の全員が知っていた為、本部の士気は下がる所か上がる一方であった。
いつの間にか影から出ていたツキカゲが水を差す様に言い放つ。
「やめておくのが賢明でしょう。あなた方はアークデーモンという存在を侮り過ぎです。」
本部にいる人の視線が一気にツキカゲに集中する。
そしてオウカがツキカゲの言葉など歯牙にもかけず言う。
「誰だ貴様は!!他国の密偵か!?捕らえよ!」
ツキカゲは少しだけ眉を顰め、再び影の中へと消えた。
それを確認したオウカは早足で本部を立ち去った。
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「ぜぇ・・・ぜぇ・・・なんなんだこいつら・・・倒しても倒してもキリがねぇ・・・」
ユウキは度重なる継続戦闘によってかなり疲弊していた。
いくら血を奪いし者の力によって肉体が強化されていたとしても、
疲れるものは疲れるのだ。
「しかもこいつらアンデッドだからBP奪えねぇから割に合わん・・・」
などと言っている間にも敵は襲ってくる。
「とりま・・・頑張りますか!・・・・・・・・・・・・途中で倒れるかもだけど。」
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ガーフィル王国城壁の上に到着したオウカが呟く。
「ほほう・・・あれが例のアークデーモンか・・・吾輩の相手に相応しいな。」
そして平野の上空を強力な威圧感を放ちながら飛ぶ赤いモンスターを見つめる。
ここからの距離はかなり離れているが、アークデーモンもオウカの魔力を感じ取ったらしく、
三又の槍の穂先を彼女の方向に向け、「その勝負、受けて立つ」とでも言うかの様に不敵に笑う。
アークデーモンがオウカに向かって突進する。
それを迎え撃つかの様にオウカも詠唱を開始。
「大地に満ちる魔力よ、力を与え給え。我が雷よ、閃光となり敵を穿て。『メガライトニング』!!」
青白い閃光がアークデーモンを包む。
「はっはっは!魔物など所詮こんなものか!いくらアークデーモンといえど私の魔法には耐えられなかった様だな!!」
高らかに笑うオウカの眼前に一瞬にしてアークデーモンの槍が迫る。
だが、その穂先は彼女へは届かなかった。
「いただけませんねぇ。その慢心。アークデーモンは圧倒的な魔法防御と、持ち前の狡猾さを駆使し、数多の魔法使いを屠ってきたはずです。角が赤い、格の高いアークデーモンなら尚更です。」
アークデーモンはツキカゲの足元から延びる影に四肢を固定され、動けない状態にあった。
「俺様が来なければ今頃・・・想像したくも無いでしょう?」
やっと理解が追いついたオウカは我に帰り、
「きっ・・貴様の力など借りずとも倒せていた!私の手柄を奪う気か!阿呆!!」
「成程。それではこのアークデーモンは貴方に差し上げましょう。」
ツキカゲは迅速に影で拘束したアークデーモンの首に圧力をかけ、折る。
「それではまた。」
ツキカゲは影の中へ消える。
オウカは呆気に取られたまま立ち尽くす。
オウカとアークデーモンとの一騎討ちを見守っていた城壁の上の兵士たちも動けないでいた。
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「あぁあ・・・・もうダメ・・・動けん・・・・ツキカゲは何やってんだよ・・・・」
平原の真ん中でユウキが立ち尽くす。やはり周りに魔物はいるが魔物の攻撃はユウキにとっては痒いくらいでしかない事に気づいたので放置している。
「俺様はここにいるぞ」
いつの間にかツキカゲが後ろに居た。
「うおっ!?」
真後ろから声が上がり、仰天する。
「今までどこ行ってたんだよ!おれ結構頑張ってたんだぞ!?」
「すまん。ちょっと遊んできた。」
「それはともかく、こいつらを片付けねえと!いまはおれが攻撃目標になってるけど、いつ王国の人達が襲われるかわかんねぇ!!」
「問題ない」
ツキカゲが短く言う。
「頼むから動くなよ。ユウキ。」
「・・・お・・おう・・いいけど・・何をするってんd・・・」
「では」
ユウキが言い終わる前に、ツキカゲが大きく一歩踏み出す。
足元の影に魔物がどんどん吸い込まれていく。
「闇に還れ。闇から生まれし愚者どもよ。」
ツキカゲが中二病発言をする。
「俺様の魔力は周りの影の量に比例する。今のこの平野は俺様にとって絶好の環境というわけだ。」
ユウキは口をあんぐり開けたまま硬直している。
とても見晴らしがよくなった平野に、二人が。
ハルキとスズネとペペだ。
ペペはハルキの肩に乗っている。
「うおおおおおおおお!みんな無事だったかああああ!?」
ユウキが叫びながら二人に駆け寄る。
「無事も何も、凄く疲れた。」
スズネが半目で応える。
「僕もなんとか・・・・・」
ハルキも疲れていたが、精いっぱいの笑顔で応える。
「ぺぺは消耗しすぎたから今は小型化してるバオ」
ハルキの肩に乗ったぺぺが応える。
「影が魔物を吞み込んでいった時はびっくりしたよ。」
「それな!あれ全部ワカオカミの仕業だったぞ!」
「凄い魔法を使えるのね。」
「魔法ではなく加護だ。」
「同じようなものバオ」
ついさっきまで戦闘中だったのをもう忘れかけている御一行。
そんな最中、王国方面から馬に乗った男性が近づいてきた。
「誰か来たよ!」
少々豪華な服装の男が馬を降り、足を引き、腰を折りながら恭しく言う。
「遠国の旅人様とお見受けします。先程は私共の国をお守り頂き、最高級の御礼を申し上げます。」
「ささ、マルクル辺境伯が待ちかねておりますので城壁内へどうぞ。馬をお貸し致します。」
ユウキ達は強大な城塞などからてっきり王国だと思っていたが、ここは要塞都市だったのだ。
疲れが限界を超えそうだった4人と一匹は、言われるがまま入領する。
辺境伯の屋敷では豪華では無いが天井の高い大きなな部屋に案内され、やたら広い風呂に入り、温風の出る魔石で髪を乾かし、
この国の正装、それもちょっぴり豪華な服に着替える。執事に案内され、宴の席へ。
大きな扉を開けると、今日この為に用意されたであろう華やかな薔薇状の飾りと、美しい輝きを放つ銀の像、大きな机に並べられた美しい食べ物の数々、
泥と埃だらけの服から、少し身綺麗になった御一行を見た辺境伯が目を見開き、言う。
「よくぞ参った!旅の者達よ!いや、今は大英雄か!お主たちのお陰で民も土地も財も何一つ失っておらぬ!心から感謝しているぞ!!ささやかじゃが宴の席を設けた。今日は存分にたのしんでくれ!今日は民も宴に招待した!屋敷に入りきらなかった者たちは城下町で祭りを開かせておる!」
「さあ皆の衆!!宴じゃ!!!」
大きな屋敷を揺らすほどの歓声と共に宴が始まった。城下町でも同様だ。
だが御一行は殆ど覚えていない。
ユウキは盛大に麦酒の一気飲みを繰り返し、注目の的となっていたがあえなく撃沈。
ハルキはマルクル辺境伯と談笑を楽しみ、自分の名前がマルクル・イーヴァン・ヘリオスであること、この領の名は要塞都市コーサスだということ、ここには大陸最大級の冒険者ギルドがあることなどを聞いたが、猛烈な睡魔に襲われ同じく撃沈。
ツキカゲはというと、暫くは一人で黄昏ていたがべろんべろんに酔ったユウキに見つかり、これでもかと酒を飲まされ、一瞬にして撃沈。
スズネはというと、なんと辺境伯領一の酒豪と飲み比べをして圧勝するなど、意外な一面を見せ、唯一御一行の中では正気を保っていた。
ぺぺは小型化した状態で観葉植物に張り付き、呑気に寝ていた。
やがて家に帰った者、寝つぶれた者などでだんだんと静かになっていった。宴は最後まで酔いつぶれていなかったスズネが自室に戻りそのまま就寝したことで幕を閉じた。
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白々と夜が明ける頃、ハルキはベッドの上で目覚めた。
ユウキはベッドから転げ落ちたらしく、豪快に床で寝ている。
ツキカゲはうつ伏せになった状態で寝ている。
眠い目を擦りながらふと自分の左手を見るハルキ。
左手は赤い亀裂が入り、脈を打っていた。
ハルキは新しい能力か何かだと考え、また目を閉じた。
夜明け前の要塞都市コーサスを、朝霧が優しく包んでいった。
――――――――――――――――<おまけ>――――――――――――――――――
ユウキ「あぁ~やっと次話が投稿されたか!!」
ツキカゲ「待ちわびたぞ」
ぺぺ「そうバオ」
ユウキ「なあ作者よ?いままで何やってたんだ?お前どうせ暇だろ?」
スズネ「どうせゲームか何かをずっとやってたんでしょ。」
ハルキ「しっかりしてほしいよ・・作者・・・」
作者「弁解の余地すらございません・・・・」
ユウキ・ハルキ・ツキカゲ「「「うわっ喋った」」」
作者「本当に申し訳ない・・・AP〇Xとかスマ〇ラに入り浸ってた訳じゃないんですよ?ほんとに。ほんとにほんとに。」
ツキカゲ「この期に及んで未だ言い訳を繰り返すか・・・・」
スズネ「愚かね。」
作者「次からはしっかり書きますんで・・・・」
ハルキ「約束だよ!?信じてるよ!?」
ユウキ「言ったな?約束破ったら狂戦士の怒りでぶっとばすぞ?」
作者「ひぃぃ・・・それほんとに洒落にならないやつ・・・」
作者「とにかく、投稿時期が大幅に伸びてしまって申し訳ございません。いつも読んで下さっている読者の皆様には私・神野夏島から最高級の御礼を申し上げます。いつもありがとうございます。」
ユウキ「御一行を代表しておれからも!いつもありがとう!読者のみんな!」
ユウキ「いつかおれのサービスシーンがあるから楽しみにしてるといーぞ!!」
作者「いやそれは書きたく・・・いや・・なんでもないです・・・・」
ユウキ「は?」
作者「大変申し訳ございません」
――――――――――――――――<おまけ終>――――――――――――――――――