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第七話 御一行VSワイバーン

ワイバーンが上空からこちらを見下ろしていた。

その眼は紛れも無い捕食者の眼だ。


『ギャァアアオオオォォォン!!』


ワイバーンの咆哮に全身が硬直する。

間髪入れず、ワイバーンが急降下し、こちらへ突っ込んで来る。スズネが何かを察知したのか、ユウキに注意を促す。


「ユウキ!ワイバーンの攻撃が来る!避けて!!」


スズネが言った通り、ワイバーンはユウキ目掛けて突っ込んで来た。

ワイバーンの鋭い牙の付いた口が迫る。あれに噛まれれば、恐らく命はないだろう。

そんなことを考えながらも、ユウキはワイバーンを間一髪で横に飛び退いて避ける。


「あっぶねえええええええ!!なんでおれを狙うんだあああ!?」


「あんたは居るだけでヘイトが向くのよ」


「ワイバーンの攻撃を避けれること自体おかしいがな」

ツキカゲが呆れたように言う。


そんな話をしているうちに、ハルキが異変に気付く。

「ね・・ねぇみんな・・ワイバーン・・・怒ってない?」


ワイバーンは怒っていた。亜竜ではあるが、竜の端くれ。ワイバーンの専売特許である上空からの突進が躱され、人間一匹殺せない。竜としての威厳と面子が丸つぶれであった。


「うひゃひゃひゃ!!無駄無駄!!怒ったからって攻撃力が上がったり攻撃パターンが変わるのはモ○ハン位だし、第一お前一匹じゃあおれ達に勝てねえっつうの!!・・・・あ。」


他三人と一匹の視線がユウキを突き刺す。この場面ではご法度過ぎる発言だ。

「ま・・・まあ仲間呼ばれないと思うし、べ・・別にいいじゃん?」


ユウキが誤魔化すも、またもや大きな影が。しかし今度は一つではない。

新しく来たワイバーンは5体。その中でも一回り大きく、体中に傷跡のある個体が。

恐らくこの群れのリーダーだろう。


『ゴアァァアアアア!!』

リーダー格のワイバーンが一声鳴くと、一斉に襲い掛かって来る。


ワイバーンのうち三体が地上から、残りの二体が空中からやって来る。そしてリーダーは後方で待機している。恐らく攻撃の度に指示を出して仕切るのだろう。

負けじとスズネも指示を出す。


「ツキカゲ君!空中のワイバーンをなんとかして!ハルキ君はぺぺと一緒に近付いてくるワイバーンを迎撃!リーダー格は私が殺る!!ユウキは囮!!」


「わ・・わかった!!」


『了解バオ』


「指図されるのは嫌いだが致し方ないな」


「ええ!?なんかおれの扱い雑じゃね!?」


そう言うユウキに地上にいるワイバーン二体が迫る。


「うおおおおおおお!」


ユウキが全力疾走してワイバーン達を引き寄せる。空中にいたワイバーンがツキカゲを見つけたのか、炎ブレスを吐いてくる。


「フン。洒落臭い。」


ツキカゲが自分の影を変形させ、炎ブレスを弾く。

そしてワイバーンの影が伸び、上空のワイバーンを拘束する。そしてそのまま影の中へ引きずり込む。


「これで残り4体。」

ツキカゲが呟く。


その頃ハルキはワイバーン一体と交戦中だった。ファイアーボールがワイバーンの鱗に弾かれ、思うように攻撃が届かない。相手が使ってくる魔法が大したこと無い事がわかったワイバーンはそのままハルキを追いかける。追いかけながらハルキは叫ぶ。


「なんとかしてよぺぺぇ!!!」


『ご主人の頼みなら断れないバオねえ』


そう言ってぺぺがワイバーンの前に立ちはだかる。ワイバーンからすれば、普通の蛞蝓より二周りほど大きいだけの蛞蝓が現れただけだ。ワイバーンは相手にもしない。


『舐められたものバオねぇ・・・それ!!巨大化!!』


すると、ぺぺの身体が急激に大きくなり、ワイバーンを飲み込む。その大きさは大きなお城ほどある。

ぺぺの腹の中でワイバーンは藻掻くが、途中で動かなくなった。


「すご〜い!!ぺぺ!!そんなに強かったの!?」


『この形態は疲れるから温存してたんバオ』


『それよりご主人、ユウキ殿は助けなくて良いんバオか?』


そこに目をやると、倒れたまま動かないワイバーン、翼が片方折れているワイバーン、頭から流血しているユウキがいた。


『なにやら重傷バオねえ』


「え?やばくない?助けに行かなきゃ!!」


しかし、その必要はなかった。ユウキが攻撃を躱し、狂戦士の怒り(バーサーカーレイジ)を発動させてワイバーンの首を掴み、そのまま九十度に曲げ、首をもぎ取ったさせたからだ。


「ふぅ・・・あぶねぇ・・ワイバーンに頭齧られた・・」


「だ・・大丈夫!?ユウキ!!」


「ああ、心配ねぇ。でも痛え。」


「大丈夫じゃないじゃん!!」

そう言っていると、首をもぎ取られたワイバーンの身体から血の球が浮かび上がり、ユウキの胸に吸収される。すると、ユウキの頭の傷がみるみる塞がっていき、流血も止まり、元のユウキの頭に戻った。


「おお・・・すげえぇ。血を吸収すると回復するのか」


「すごい・・・そんな効果があったなんて」


「あ!そうだ!スズネはどうした!親玉と戦うとか言ってなかったか!?もし苦戦してるなら加勢しないと!!」


「その必要は無いみたいだぞ」

ツキカゲがユウキの影の中から現れる。


「あれを見てみろ」

ツキカゲが指した方向には、体中の古傷を引き裂かれ、翼は無惨にも穴が空き、尻尾は切断され、足が片方なくなっているワイバーンと、狂気的な笑みを浮かべながら舞の様に双剣を操るスズネの姿が。


ワイバーンが必死に手足を動かし、一矢報いようとするが、それを嘲笑うかの様に軽やかに躱し、ワイバーンを一方的に切り刻んでいく。


「あいつはワイバーンの行動を予知している様だ。証拠に、見てみろ、ワイバーンは傷だらけの満身創痍だが、スズネは返り血だけで掠り傷一つ無い。」


とうとうワイバーンはもう片方の足も切断され、地面に突っ伏す様に倒れ込む。もはやワイバーンに抵抗する力は残っていない。最後にスズネが双剣をワイバーンの首元に振り下ろし、止めを刺す。


双剣に付着した血糊を丁寧に拭き取り、鞘に収める。先程の狂気的な笑みは消え、いつものスズネの表情に戻っていた。


「なんかおれ・・あいつが怖いわ・・・」


「僕も・・・・」


「あれだけの実力をもっているなら我々の組織『悠久なる宵闇』にスカウトすればよかったな」


ユウキはふと思い出した。スズネも自分やハルキと同じ、彼方(あちら)の世界から来た召喚勇者なのだ。


ワイバーンを討伐し、こちらに歩いてきたスズネに声を掛ける。


「なあスズネよ、お前、なんでワイバーンとかの考えてる事がわかるんだ?さっきもおれに「避けろ」って言ってたし・・・」


その問にスズネは答える。


「知らないわよ」


「「ええ!?」」

ハルキも驚く。もっと詳しい事が聞けると思っていたからだ。


異世界(こっち)に来てから、何となくみんなの考えてることがわかるのよ。あんた達、さっき私の事「怖い」って思ったでしょ?」


「「ぎく」」


「そういう事。幸いにも、この能力(ちから)のお陰で苦労はしてないし」

スズネが強引に話を変える。


「さあ、日も落ちてきたしここで野宿かしら」

ワイバーンの激闘が終わった頃には、日が傾いていた。


「野宿っつったって、テントとかねえぞ?」


「ふっふっふっふっふ。また俺様の出番の様だな」


「あ!そうか!!」

ハルキがあることに気付く。

ツキカゲが自分の影にてを突っ込む。そして家を引っ張り出す。


「てってれ〜『どこでもハウス〜』」

ツキカゲが言う。


(そのドラ○もんみたいな効果音はどこで覚えたんだよ)


「つくづく思うけど、凄く便利な能力だよねぇ」


「当たり前だ。このくらい出来なくて暗殺者が務まるか?」


(暗殺者にしてはハイスペックだけどね)


「さて、この家は暖炉で火を起こせばほぼすべての事が不自由無く暮らせる。最も、ここは野外だから誰か見張りが必要だが。」


(ん?待てよ・・この流れって・・?)


ユウキのシンキングタイムが過ぎる。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「へっくしょい!!」


ユウキの豪快なくしゃみが夜の闇に響き渡る。

『どこでもハウス』に目をやると、居間ではツキカゲとハルキが談笑している。スズネに至っては、暖炉の前で椅子に座り、優雅に読書をしている。ぺぺでさえ、観葉植物の植木鉢の中が気に入ったのかそこで寛いでいる。


「あー。三人と一匹ともいいなぁ。床も屋根もある所で飯食えてあったけえ布団で寝れるなんてなあ。おれだけ見張りって酷いよな・・・」


さぞ寒そうに木によりかかり、鼻水を啜りながらユウキが呟く。残念ながら反応してくれる人はいない。


「ここはでかい盆地みたいになってんのか。放射冷却で盆地の底に冷たい空気が溜まるのか。道理で寒い訳だ。・・・って、何ででかい声で独り言言ってんだ?虚しいなぁ。どうせこんなところにまで魔物なんか来ねえだろ。寝ちまうか。」


遂にユウキは木に寄りかかったまま寝てしまった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

白白と夜が明ける頃、スズネは目覚めた。異世界(こちら)に来てから、暗殺職(アサシン)として活動していた為か、早起きは彼女の十八番であった。

洗面台の蛇口の部分についている魔石に魔力を込めれば、水が出る。その水で顔を洗う。

汗をかかない程度に運動をし、朝の日課である双剣を磨く。

この双剣は、暗殺業を始めてから「金さえ払えば依頼人の素性は探らない」という信用で成り立っている工場で鍛えて貰った業物だ。


無論腕も相当なもので、きちんと手入れをすれば、ワイバーンの鱗をも貫く鋭さを誇る。

彼女はこの二対の剣を体の一部の様に操り、数多(あまた)暗殺対象(ターゲット)を屠ってきた。

今ユウキ達と合流出来たのは、スズネの所属する暗殺ギルドで情報を得たからだ。

屠った人数が百を超える頃、彼女は「死神(ネメシス)」として名を馳せるようになった。


彼女の暗殺目標(ターゲット)となった人物は暗殺決行日、どんなに厳重な警備もくぐり抜け、

暗殺目標はその日に神隠しにあった様に消え、後日無惨な姿となって元いた場所へと戻される。


少なくとも、こちらの世界に来た彼女にとって、「暗殺職(アサシン)」は天職だったのだ。

屋外で寝ていたユウキを起こそうとするが、「あと5分・・・・」と言って埒があかないので放置することに。なんで地面の上でこんなに心地よさそうに寝られるんだ、スズネは思う。


そうこうしているうちにハルキとツキカゲも起床する。

ぺぺはまだ植木鉢の中で寝ている。

ユウキを起こそうとするが殴っても蹴っても起きない。

こりゃだめだと諦めかけた時、ユウキがむくりと起きた。


「う〜〜〜〜〜ん。よく寝た。おはよう、みんな!!」


とても清々しい笑顔でユウキが言う。不自然なくらい清々しい。

そんなことは置いといて、4人と一匹で朝食を摂る。

朝食と言っても、粘土の様な携帯食料をもそもそと()むだけだ。


「んがぁ・・口の中の水分全部もってかれる・・・」


「美味しくもないし不味くもない・・・・微妙・・・」


「贅沢を言うな。携帯食料(そんなもの)でもちゃんと保存すれば数十年は持つし、栄養価も高い。味は微妙だが。」


スズネはもう食べ終えている。


朝食を摂り終えると、ツキカゲが『どこでもハウス』を仕舞い、

4人と一匹は再び歩き出す。ぺぺはハルキの肩に乗って移動する。

ぺぺ曰く、ハルキの肩は自分にとって特等席らしい。


「あとどれくらいでガーなんとか王国に着くんだ?」


「ガーフィル王国なら、早くて明日には着くな。」


「えええ・・・野宿はもうこりごり・・・」


「野宿なのはアンタだけでしょ。」


「なあツキカゲ!!影の力で車とか作れないのか!?」


「無理だ。」


ツキカゲがとても簡潔に答えてくれる。


「ええ・・・じゃあずっと徒歩かよぉ・・・せめて馬でもいたらなぁ・・・」


『にゅっふっふ。おいらの存在を忘れてるバオねえ。おいらの背中に乗ればガーフィル王国なんてあっという間だバオ。』

ぺぺが身体をくねらせながら言う。


「え・・・・でもよぺぺ?おれ達4人どころかおれの頭も乗っけれないぜ?そのサイズじゃあ」


()()()()()()()()()にゅっふっふ。おいらは「大蛞蝓」バオ。そんじょそこらの蛞蝓なんかと一緒にしてもらっちゃ困るバオ。』


ぺぺが一旦縮こまり、そしてまた膨張していく。やがて山一つはあろうかという巨体になる。


そして以前のぺぺの面影が無いドスの聞いた渋い声になる。


((((なんか声違う))))


『どうでゲス?これなら文句ないでゲしょう?』


((((なんか語尾変わった))))


『あっしは結構速く走れるでゲス。ガーフィル王国までひとっ飛びでゲス。さあ、あっしの背中に乗るでゲス。』


4人が乗りやすい様にとぺぺが背中の粘液を硬質化する。

背中に飛び乗ったユウキが驚く。


「すげぇ!!めっちゃさわり心地良い!!まるで本物の牛革みたい!!」


子供の様にはしゃぐユウキをぺぺが嗜める。


『ユウキ殿。あんまりはしゃぐと振り落とされるでゲス。そろそろ出発するでゲス。』

ユウキがはしゃぐのを止めたのをぺぺが確認する。


『ようし!!行くでゲス!!!』

ぺぺが走り出す。蛞蝓だからと油断してはならない。加速しているぺぺはリニアモーターカー並のスピードを誇る。それにこの巨体。全身の粘液を硬質化させ、敵にぶつかれば、絶大な威力を誇るだろう。ぺぺの背中に仁王立ちしていたユウキが風圧で吹き飛ばされそうになる。残りの3人はそれぞれ、景色が前から後ろへ飛んでいく様や、頬を撫でる風を楽しむ。


「いや〜〜ぺぺさえいれば新幹線なんていらねえなぁ〜〜。」


ユウキが何か言うが風の音にかき消されて何も聞こえない。


『見えたでゲス。あれがガーフィル王国の城壁でゲス。』


小高い丘でぺぺが急ブレーキをかける。


ぺぺの視線の先には、立派な城壁が地平線まで続いている。

慣性の法則に則りしっかりしがみついていなかったユウキがまたも吹き飛びそうになる。


『なんか様子がおかしいでゲスねえ』

ぺぺの頭の上から4人が王国の城壁と平原に目を向ける。


「別になんもおかしくなくねぇか?なあハルキ?・・・ハルキ?」

「・・・・える。」


「ん?何が?」


「・・・見える!!莫大な魔力が渦巻いてる!!平原の真ん中で!!」


ハルキが指を指した先には、黒い煙のような()()()があった。人の形のようにも見えるが、この距離では小さな黒い点だ。


「別に気にすることねぇって。さ、王国に行こうぜ・・・・」


ユウキの言葉が引き金に鳴った様に、地面から黒い帯が出てくる。やがて黒い帯は空を埋め尽くし、ドーム状になる。

ドームの天井に当たる部分から微かな太陽光が差す様は、もう夜の様だ。黒い煙が揺らめく。


次々に地面からスケルトン、ゾンビ、暗い宇宙には赤い門が開き、ガーゴイルやインプが召喚され、

瞬く間に平原を埋め尽くす程の軍勢となった。見ただけでは、その数は数十万、数百万はいる。

異変に気付いた王国の兵士達が城壁から出てくる。その数数万ほど。圧倒的に多勢に無勢だ。


スケルトンやゾンビが武器をもっていないのに対して、人間は鉄の鎧にみを包み、切れ味の良い剣を携えているが、その差は埋まらないだろう。

その状況を見ていたユウキが突如としてぺぺから降り、平原にむかって走り出す。

自分とハルキを召喚した王国の王が、「ガーフィル王国に魔物を送れ」と怒鳴っていたのを思い出したからだ。(第二話参照)

それからは早かった。考えるより身体がさきに動いたからだ。

ユウキが走りながら叫ぶ。


「人間を助けに行く!!おれは腐っても勇者だから!!!」


「やれやれ。ユウキはこうなったら誰も止められないよ。」


「本当。わがままね。」


「これは俺様も戦わなければならんな・・・はぁ」


『ご主人達が戦うのならあっしも戦うでゲス』


「ようし!みんな行くぞおおおおおおおお!!」


この大戦が、後のユウキ達の運命の歯車を大きく動かすきっかけとなる。

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