第六話 血を奪いし者の力
お待たせしました。
ブラッドイーター第六話です。
ゴブリンとの遭遇戦の後、ユウキとハルキの視界に薄水色のウインドウが現れた。
『『血を奪いし者の力を解放しました(Lv1)』』
ユウキとハルキはそのウインドウが表示された事に混乱しつつも、いつも2人でやっているRPGゲームと仕様が同じ事が解った。
Lvを上げれば、自身の能力やスキルが解放されるのだ。
暫くするとそのウインドウは消滅した。その瞬間、倒したゴブリン達の傷から赤色の球が浮かび上がり、ユウキとハルキの胸の中心、心臓にあたる部分に吸い込まれていく。
血の球が怪しく、美しく輝きながら吸収されて行く様子は、えも言われぬ光景であった。
「すげぇ・・・」
「何これ・・・」
「綺麗ねぇ」
「・・・・」何も言わないツキカゲも目を丸くしている。
「こんな光景は見たことが無い。ユウキ、ハルキ、貴様等何者だ??唯の召喚勇者ではないだろう?」
「ぬっふっふ。とうとうバレたか。おれとハルキはな、あの有名な『血を奪いし者』なんだよ。」
血を奪いし者が有名かどうかはユウキは知らなかったが、取り敢えず強がって見せた。
するとツキカゲが目を血走らせてユウキの肩を掴む。
「血を奪いし者だと!?血を奪いし者と言えば、俺様は過去に本で読んだことがある。古い伝説だが確か、『古の儀式にて異世界から呼び寄せられた2人の対を成す狂戦士と魔法使い。他人の血の支配権を強制的に自らの物にし、自然の摂理すら手玉に取る超越者』と、記述されていたハズだ。まさか貴様等が伝説の血を奪いし者とはな・・・」
饒舌に語るツキカゲは驚愕を通り越し最早呆れていた。そんなツキカゲとは裏腹に、ユウキの呑気な声で言う。
「ほーん。そんなカッコイイ伝説に出てくるのか。へー」
今のユウキには伝説がどうのこうのなどどうでも良かった。スルーされた事に気付いたツキカゲは再び黙り込む。
「よし!!なんか邪魔が入ったけど取り敢えず、ステータスオープン!!」
ユウキやハルキがいつもしているゲームでは何時でも自身のステータスを確認することができる。先程のウインドウ表示やLvアップも含め、仕様はゲームと同じだろうと踏んだユウキは、自分のステータスを確認することにした。
ユウキ
血を奪いし者(紅蓮の狂戦士)Lv2
体力 3100 (+100)
攻撃力 8100(+100)
魔力 20 (+0)
素早さ 2600 (+100)
防御力 3100(+100)
所有BP2000
New 血を奪いし者の加護Lv1
New 狂戦士の怒り
「よし!僕もステータスオープン!」
ハルキ
血を奪いし者(天穹の魔法使い)Lv2
体力 1050(+50)
攻撃力300(+50)
魔力 8000(+500)
素早さ 650(+50)
防御力 350(+50)
所有BP2000
New 血を奪いし者の加護Lv1
New 召喚魔法
New 魔獣召喚
「やっぱりユウキは魔力上がらないんだね・・・」
「すげー!!なんかいっぱいスキルが増えてるぞ!?しかも身体能力も底上げされてるみてぇだ」
そう言ってユウキは早速新しいスキルを試す。
『狂戦士の怒り!!!』
そう唱えると、ユウキの両手の甲に拳が描かれた紋章が彫刻され、ユウキの両腕が鮮やかな赤色に輝く。
「ん?腕が光るだけじゃねえか」
そう言って首を傾げるユウキにスズネが口を開く。
「あんたねぇ・・・はぁ、もう良いわ。そこらの木でも殴ってみなさい。」
言われるままにユウキは近くにあった木を軽く殴る。
すると拳が触れた瞬間、音がするよりも速く木が弾け、一瞬のうちに塵となった。
その異様な光景にユウキの思考が数秒停止する。そして我に返る。
「うおおおお!!すげぇ!!最強じゃん!!このスキル!!」
「早く解除しなさいな。そんなに強化されるスキルは大抵代償があるから」
それもそうか、とユウキは狂戦士の怒りを解除する。解除すると前には無かった違和感を感じる。
今度はツキカゲが口を開く。
「どうやら貴様のスキルは強大な力を得ることが出来る代わりに自身の血液を消費するようだな」
「成程な。だからなんかだるいのか。」
ユウキが再びステータスを確認すると所有BPが100ほど減っていた。
恐らくBPは自分の血液の残量だろう。
狂戦士の怒りを使った所為でBPが大幅に減り、貧血に近い症状を起こしたのだ。
だがまだ残り1900もBPが残っているのでユウキは気にも止めなかった。
「おし!!今度はハルキの番だ!!あれだ、あのなんか召喚するやつ!!やれ!!」
「よし。やってみるよ」
ハルキは左手を胸高さに掲げ、目を閉じる。
(何か強そうな奴・・今後の冒険にも役立ちそうな奴・・・これだ!!)
ハルキが真っ先にイメージしたのは、『大蛞蝓』だった。
その瞬間、ハルキの左手が切り裂かれ、血が吹き出す。
それが空気中に四散し、地面に大きな魔法陣を作る。
そして魔法陣の中心で赤色の粒子が集まり、大蛞蝓の姿を形作り、一気に四散する。
するとそこには、大型バス1台分はあるであろう巨体をも持ち、ナメクジには似ても似つかない強そうなオーラを放つ大蛞蝓が佇んでいた。
「なんとか召喚出来た・・・」
ハルキはユウキといつも一緒にやっているRPGゲームで大蛞蝓を使い魔として使っていた。
そして幼少期にも馴染みがある蛞蝓を召喚したのだ。
「すげぇ・・・かっけぇ・・・」
(キモカワイイ・・・)
「俺様は貴様等のセンスが理解不能だ」
独り言の様に呟くツキカゲを尻目に、ユウキ達は早速名前を決めようとしている。
「やっぱペペロンチーノか??」
「ペペロンチーノかな」
「ペペロンチーノね」
「よし!!今日からお前はペペロンチーノだ!!略してペペ!!」
大蛞蝓ははっきり見て取れる笑みを浮かべ、左右に揺れている。
どうやら嬉しいのだろう。
「でもどうするんだ?こんなにデカいと住む場所無くなるくね?この世界に大型バス用の車庫なんて無いだろうし」
『心配ご無用だバオ』
「「「ん??」」」
「お前ぺぺ・・喋れんの?」
『喋れるバオ』
「おー。すげー。これで意思疎通出来るな!!」
『その通りバオ。あ、そうそう。住むスペースは気にしないで欲しいバオ。おいらこれより大きくも小さくもなれるバオ。』
そう言ってペペロンチーノが急速に縮んで行き、あっという間に現代によく見る蛞蝓のサイズになった。
「おおすげぇ。間違えて踏み潰しちゃいそう。」
「やめてあげて・・・可哀想・・・」
そうこうしているうちに、唐突にユウキの腹が鳴る。
「ぬあ、腹減ったな・・・そう言えば、城を抜けてきてから何も食べてないな」
「そうだね・・・お腹空いた」
「ほう・・・」
ツキカゲの瞳がきらりと光る。
「ふははははは!!こんなこともあろうかと俺様は弁当を常に携帯しているのだ!!」
そう言って自分の影から気を曲げて作ったであろう箱を2つ取り出す。
そしてユウキとハルキに投げてよこす。
「ほら、食え。腹減っているだろう?安心しろ。毒など入っていない。それにほれ、まだ暖かいままだろう?俺様の影に収納した物は時が止まって新鮮なままなんだ。」
(((便利だな)))
「それにほぼなんでも収納できるからこんな物だって出せるんだぞ?」
と言って影の中から家が丸々一個出てくる。
(((本当便利だな・・・)))
「とにかく、弁当くれたんだし、ありがたく頂くぞ。いっただっきまーす!!」
「い・・・頂きます・・」
「あ、そうだそうだ。やっぱ飯を食うなら箸が要るよなー。」
と言ってユウキがそこらの枝を折ってハルキに渡す。
「ハシ?なんだそれは?」
とツキカゲが聞く。
「あー。知らないか。おれらの居た世界ではな、こんな細い棒2つで物を摘んで食うんだ。」
「ほう。面白そうだな。ところで、貴様は食わなくて良いのか?スズネ。」
「そうね。じゃあ1つ貰おうかしら。」
すると弁当の蓋を開けたユウキが叫ぶ。
「ぬおおおお!?なんじゃこりゃあ!?」
ツキカゲの弁当の中には、色々な種類の肉が入っていた。
と言うか肉しか入っていなかった。
ユウキがその1つにかぶりつく。
「なんだこれうんめぇぇええ!!すごくうまい味で歯ごたえもなんかすごく良い歯ごたえだし口いっぱいに広がるすごく良い香りがこれまた良い!!」
ユウキの頭の悪い食レポが炸裂する。
「本当に美味しい!これツキカゲが作ったの!?」
ハルキの問いかけにツキカゲが答える。
「ああ。俺様が作った。と言っても俺様は料理は出来ないから適当に肉を焼いただけだ。」
「だとしてもうめぇ・・・なあスズネ・・・?」
スズネはもう弁当を食べ尽くしていた。そして笑顔で言う。
「ええ。とても美味しかったわよ。」
片手にはマイ箸と思われる物が握られている。
「お前あの一瞬で食べたの??お前人間じゃねえ・・げふんげふん」
「んで、このめちゃくちゃうめぇ肉はなんの肉なんだ?」
「ん?それは勿論、オーク肉だ。」
ユウキが口の中の物を盛大に吹き出す。
「こ・・このうめぇ肉があのオーク肉だってか!?オークってあの・・歩く豚みたいなやつ?」
「その通りだ。」
「ええ・・・なんか罪悪感あるなぁ・・・」
ハルキが呟く。
まあ美味いから良いか、と言ってユウキは再び弁当を食べ始める。
やがてユウキが食べ終わり、ハルキもそれに続いて食べ終わる。
「ふぃー。腹も脹れたし冒険再開しますかね。」
「そうだね。仲間も増えたし、冒険を再開しよう。」
『おいらご主人達に付いてくバオ』
そう言って後片付けをしていると、突如としてユウキ達に影が覆いかかる。
不思議に思ったユウキが空を見上げる。
「んんん?なんだありゃ?」
その言葉を聞き、ツキカゲも空を見上げる。そして表情が険しくなる。
「あれは・・・ワイバーンだ!!」
上空には、くすんだ灰色の鱗を持つワイバーンが、こちらを見下ろしていた。