第五話 はじめての戦闘
「お前等、俺様を仲間に入れる気は無いか?勿論、一緒に旅をする仲間として、だ。心配はするな。これでも現役の暗殺者だ。索敵なんかはお手の物だぞ。」
ツキカゲは思った。この3人と共に旅をすれば、名誉や富は恐らく約束されるだろう。だがそれ以上に、ツキカゲは真偽はともかく、この3人が別の世界から来た事、そして3人とも一般人とは懸け離れたオーラを纏っている。その事にツキカゲは大きく魅了された。そして、ツキカゲは次第に
『此奴らと冒険をしてみたい。』
そう思う様になった。そして、一世一代の賭けに出たのだ。
「え~??」
ツキカゲの話を聞いて、ユウキは露骨に嫌そうな顔をした。
「何時間か前まで俺に攻撃して来た相手を今すぐ信用できるか。」
スズネが続ける。
「索敵ぐらいなら私だってできるわよ?」
さらにハルキも続ける。
「僕もユウキに賛成だな・・・良くも知らない人に背中を預けることなんて出来ないし・・・」
ツキカゲはそれもそうか、と思った。
「じゃあ何を教えたら俺様を信用する!?俺様は全てを話したし、もうお前等に危害を加えないと誓った!!」
その言葉を聞いて、ユウキは閃いた。ツキカゲを捕らえた時から、彼は顔を覆う様な仮面を被っていたのだ。ユウキはその仮面をはずしてやろう。そう考えた。
「じゃあ、まずはそのツラ拝ませて貰おうか。」
そう言ってユウキはツキカゲの被っている仮面に手を伸ばす。
「な!?そ・・・それだけはやめ・・・」
ツキカゲが言い終わる前にユウキは仮面に手を掛け、強引に引っ張る。
「さ~てどんなツラしてんだぁ~?俺よりイケメンだったら許さねえぞ?・・・って、お前!!!」
ツキカゲの素顔を覗き込んだユウキが驚愕の声を上げる。近くでそれを見ていたハルキとスズネも何事か、とツキカゲの顔を覗き込み、口をあんぐり開け、硬直する。
「・・・・なんだ、俺様の顔がそんなにめずらしいk・・・・・」
ツキカゲの声を遮るように3人の声がこだまする。
「「「川上!!!???」」」
川上とは、ユウキ達のクラスメイト、川上和翔だ。すらりとした長身。切れ長の眼。筋の通った鼻。まず間違いなく、かなりの美男子であることは間違いない。まさに、仮面を外したツキカゲは川上和翔に瓜二つだったのだ。
唯一、違う所があるとすれば、髪の色が一部黄金色になっており、元の黒髪と相まって、まるで夜に三日月が浮かんでいるようだ。
「何の事だ?俺様は川上などでは無い。何を勘違いしているのだ?」
とツキカゲが言う。勘違いの再開の喜びからか、抱き着こうとしていたユウキが一瞬止まり、強烈なラリアットがツキカゲを襲う。もはやツキカゲは何も言わず縛り付けられた椅子ごと部屋の隅へ吹き飛んでいく。そしてユウキがツキカゲに向かって言い放つ。
「お前が川上じゃないって事も分かったし、多分お前と旅をしていてもメリットはないと思う。それじゃあ、このボロ小屋でごゆっくり~♡」
そう言って、ユウキは小屋から出ていこうとする。無言でスズネも続く。ハルキもまた申し訳なさそうに続く。それをツキカゲは呼び止める。
「ま・・・待ってくれ!!置いていかないでくれ!!頼む!!後生だ!!お前達のパーティに入れてくれ!!」
これ見よがしにユウキが言う。
「なんでもする?」
そしてツキカゲが返答する。
「ぐ・・・条件次第なら・・・」
それを聞き、ユウキは後ろを振り向き、
「ど~すっかねぇ?ハルキ、スズネ。絶対信用できるって訳じゃあないが、折角川上に生き写しなんだから俺としては連れていきたい。」
ハルキもそれに賛同する。
「確かにこのまま放置するのも可哀そうだし・・・僕もユウキに賛成かな。」
それを聞いて、スズネは短く溜息をつくと、
「しょうがないわね。」
と言って小屋の中に戻る。
「お?承諾してくれるのか?いやーありがたいっす」
ユウキを無視してスズネはユウキに歩み寄り、
「ユウキ、手だして」
と言った。
「ん?ああはいはい」
ユウキは素直に左手を出す。すると突然、スズネが腰に掛けていた短剣を抜き、ユウキの左手を三角形に切り裂いた。
「痛ってぇええええ!!何すんだスズネ!!」
スズネはユウキをまた無視し、床にうつ伏せになったツキカゲの首の後ろも浅く三角形に切り裂いた。だがツキカゲはユウキと違い、苦痛の声は上げない。
「これでよし」
スズネが呟くように言う。
「いやいやいや!!『よし』じゃないだろ!?おれなんか急に左手切り裂かれて・・・」
「ユウキ、貴方の左手、見てご覧なさい」
「ん?」
ユウキは左手に視線を落とすが、切り裂かれた後は無く、元の左手に戻っていた。
「うおおお!?なんじゃこりゃ?手品か?手品なのか?」
「簡単な『契約』よ。ツキカゲ君が私達に危害を加えようと考えた時点で武器が握れなくなるわ」
「「おおーー」」
「じゃあもうツキカゲは裏切れないな!」
とユウキが意気揚々と言う。
「元々裏切るつもりなど無い」
とツキカゲが続ける。
「何はともあれ、仲間が1人増えたんだ。嬉しいねえ。ヨロシクな。ツキカゲ。」
「よろしくね。ツキカゲ君。」
「よろしくお願いします!!ツキカゲさん!!」
「よろしく頼む。ユウキ、ハルキ、スズネ。」
「それより、俺様を起こせ」
とツキカゲがやたらと早口で言う。
「あ、そうだったなすまんすまん」
そういって床に突っ伏したままのツキカゲを起こし、縄を解く。やっと自由になったツキカゲは、思い切り背伸びをする。1日中座りっぱなしは相当堪えたようだ。そしてツキカゲは話を切り出す。
「で?旅は何処を放浪するんだ?」
ユウキが答える。
「ガーフィル王国に行こうと思ってるんだよ。この国の王さんがなんか企んでるぽくてな」
「成程。ガーフィル王国ならここから南西だ。歩いて3日はかかるぞ。」
「食料の調達なんかを考えると大変ね・・・」
「道に迷ったらどうしよう・・・」
考え込んだりおどおどしているパーティメンバーに聞こえる程度の声でユウキは呟いた。
「走ればよくねぇ?」
そして3人全員がユウキの方を向き、一斉に喋り始める。
「あのね、脳筋はアンタだけなの。私達を脳筋だと思わないで。」
「3日かかる道を走っていこうだなんてバカが過ぎるでしょユウキ!?」
「俺様は一向にかまわん。食料も現地調達で十分だろう。」
「「!?」」
スズネとハルキがその言葉を聞いてぎょっとする。
「ヨシ!!行き当たりばったりで行こう!!」
ユウキが大音量で叫ぶ。そして一目散に小屋を出て、走り出した。
「すごい・・・もう見えなくなったよ・・・」
「あのバカ・・・こっちの都合も考えて欲しいわ」
「心配はするな。俺様に着いてこい。」
そう言ってツキカゲは地面に出来た影に手を付ける。すると、ツキカゲの影がハルキとスズネの足元に伸び、2人を暗闇へと引きずり込む。
「ちょ!!ツキカゲ君!?何これ!?」
「ツキカゲさん!?」
「少し息を止めていろ」
そしてツキカゲは再び立ち上がる。すると、ツキカゲが影に吸い込まれ、あっという間に全速力で走るユウキの影の中へと移動した。そして真下からユウキに話し掛けた。
「おいユウキ、一旦止まれ」
「ん?ツキカゲの声がしたぞ??」
と言ってユウキは立ち止まり、地面を見る。そこにはツキカゲが頭だけ出していた。
「おわぁ!?脅かすなよ~ツキカゲ~」
「脅かしてすまない。だがハルキやスズネが困っているぞ。」
そう言ってツキカゲは影の中からハルキとスズネを放り投げた。スズネは受身を取れたものの、ハルキは『べしゃ』と、地面に落下した。
「おお?いつの間に瞬間移動を出来るようになったんだ?お前ら」
「死ぬかと思ったわ」
「僕の事だれも気にかけてくれないの・・・・?」
「何はともあれ、仲間達とペースを揃えて旅をするのは大事だな!!」
「誰が言ってんだか・・・」
と、スズネが呆れた様に言う。と、その時だ。正面からゴブリンの群れがやって来た。4人を見ると、何やら作戦を立てているようだ。話し込んでいる。話の中心となって、木の枝で作った王冠を被っているのはリーダー格だろうか。ゴブリン全員、棍棒の様なものを持っている。
「「なんだゴブリンか」」
スズネとツキカゲが同時に言う。
「あんな奴ら相手にするだけ無駄だ。行くぞ。」
「そーね。行きましょ。」
ツキカゲはまたユウキの影に入り、スズネは有り得ない跳躍力で木の上に乗った。2人とも、高みの見物をするつもりだろう。
「やべっ」
「どうするのユウキ!?あのゴブリンめちゃめちゃ強そうだよ!?」
ゴブリン達は話が纏まったのか、こちらにじりじり近寄ってくる。
「まあなんとかなるだろ」
「えええ!?いっいやでも僕何をすれば良いかわからない・・・」
ユウキはもうゴブリン達に突撃していた。そして1番手前にいたゴブリンを思いっきり殴る。すると、ゴブリンは面白いように吹き飛び、10メートルほど離れた所に嫌な音を立てて潰れた。
「うおおおおお!!雑魚じゃんこいつら!!ハルキ!!お前もやってみろよ!!魔法とか唱えれるだろ!?お前なら!!」
ハルキは思い出した。自分の魔力は7500あり、一般人の数十倍、ということを。
(よし。僕でも戦えるはずだ。なんか強い魔法・・・)
そう思ってハルキが真っ先に思い浮かんだのは、炎の玉、『ファイアーボール』である。
(よし。これだ!!)
掌に火球をイメージしながら、眼を瞑る。
「ファイアーボールッッ!!!」
すると、ハルキの左手にバスケットボール程の大きさの火球が出来た。
「喰らえ!!」
ハルキはゴブリン達にファイアーボールを投げる。ドンッという腹に響く音がすると、ゴブリン達は爆発四散していた。
「うっひょお!!ハルキお前も中々やるじゃん!!」
気付けば、ゴブリン達は全滅していた。するとユウキとハルキの視界に薄水色のウインドウが現れた。
『『血を奪いし者の力を解放しました(LV1)』』
「「何だ、これ?」」
その後、ユウキとハルキは、『血を奪いし者』の絶対的な力を知ることになる。