表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/32

第二拾話 急

「ようやく外か」


月明りに照らされる、黒に一筋の金の入る髪を揺らしながら、

ツキカゲが森の中にぽつんとある井戸から外へと這い出る。

最小化(ミニマイズ)したぺぺの案内のお陰でここまで辿り着いたツキカゲ。

その道のりは相当なものだったらしく、土埃にまみれている。


ミニぺぺがくねくねと身体を動かしながらツキカゲに訴えかける。

直接喋ったりはしないが、なんとなくの意思疎通は図れるようだ。

「・・・この先でハルキと合流・・・か。よし。」

半身に奔る痛みを堪えながら先へと進む。


(脱出の途中、何回か轟音が聞こえたが、ユウキ達(あいつら)は大丈夫だろうか。)

相変わらずの自分の心配性さに「フッ」と笑うツキカゲ。

(もう心配など()そう。あいつらなら大丈夫だ。)


そう考えようとした矢先、胸の激痛が勢力を増す。

(クク・・・今は自分の心配をした方が、良さそうだ。)

暁闇の加護による身体強化が今は機能していない為、過度な活動は今のツキカゲにとって

致命ともなり得る。


ツキカゲの胸の(ざわつ)きと慟哭は次第に肉体を蝕んで行く。


そこに空く(あな)は、まるで大切な何かが欠落しているかのようで。


     ◆   ◆   ◆


廃城から少し離れた小高い丘で。

自身の両目に望遠の魔術を掛け、状況を見守る軍師が一人。


「・・・・・あれ?」


「廃城に大きな生体魔力の塊が四つ────そのうち一つは脳筋ぽくて、もう一つは

如何にも腹黒そう。あとの二つは・・・もうあまり力は残って無いようだ。」


脳筋馬鹿(ユウキ)おっかない暗殺者(スズネ)との戦闘で大勢は決したようだの。」


「・・・・・・・・あれあれ?」



「─────────これ、吾輩の出番ある?」


「ここまで出張ってきて出番ナシ、なんて吾輩泣くよ?泣いちゃうよ?」


オウカの独り言は誰の耳にも入る事は無く、森の木々の中に吸い込まれていく。


     ◆   ◆   ◆


(──────あいつ(あの女)から受けた傷が痛む。)


廃城の最上階、天守にあたる部分で、ファネスが壁に背を預け、座り込んでいる。


(切傷は塞がってる。でも、それ以外はダメ。)

(おにーさまの理性は飛んでるから、治癒的な魔術は使用できない)


ファネスが自らの兄を獣へと変えてしまったことに今更後悔する。


(こうなったら、奥の手を使ってでも────)


ファネスの手には、瓶の中に拳ほどの肉塊が。

どろどろとした液体を滴らせる肉塊を瓶から取り出し、

僅かに脈を打っているそれを、ファネスは口元へと運び────


     ◆   ◆   ◆


地を揺らす轟音と共に、ユウキに城の()()が降り注ぐ。


「おわあぁああああ!?」


そして、瓦礫と共に重なり、埋まっていく。


スズネは、いち早くそれを察知し、真っ先に廃城から脱出していた。


廃城といえど、立派にそびえ立っていたそこは、大量の瓦礫でできた平原となっていた。


     ◆   ◆   ◆


「───あれは。」


廃城だった場所の空に浮かぶ人影を眺めながら、ツキカゲがぽつんと呟く。


その人影は背中に四つの翼があり、まるで天使の様だ。

白い鎧と朝日とが合わさり、更に神々しさを増している。


その天使が、自らを翼で包み込み、勢い良く広げる。

朝の青空を塗り潰すように、太陽と月と。昼と夜とが入り混じる黄昏へと変えていく。


その光景は、まるで心を蝕む災厄の様で。


呆然と立ち尽くすツキカゲに、突如として胸を穿つ様な激痛が襲い掛かる。

眼前に火花が散り、胸を押さえながら狼狽する。

激痛の根源を探すべく、胸に手をやるが、ツキカゲはあることに気付く。


()()()()()のだ。


本来それがあるべき場所には、心臓の代わりに黒い孔がぽっかりと開いていた。

先程まで影の力が使えなかったのは、ツキカゲの力の源である心臓を失っていたからだ。


身体に残る残留生体魔力がある限り、死にはしない。

ツキカゲの場合、魔力の貯蔵量が並み以上な為、ここまで長持ちした。

しかしツキカゲの魔力にも限界は来る。今がまさに限界だ。


ツキカゲの心臓は、強力な魔力資源(リソース)であり、

影と闇の力を内包しているため、エーオース兄妹はそれを狙ったのだろう。


喉から風切り音の様な声が出るが、誰にも届く事は無い。

そして、ツキカゲの意識は失墜する。


     ◆   ◆   ◆

ぺぺ本体の出力する簡易テントにて、子機ぺぺによる情報更新を待つハルキ。

彼の顔からは、焦燥が見て取れた。


「おかしい。合流予定時間はもうとっくに過ぎてる。子機ぺぺからの連絡も───」


『!、連絡が来たバオ。子機NO.2。ユウキに同行させたぺぺバオ。』

『内容は・・・ツキカゲが倒れたらしいバオ。』


顔の色をみるみるうちに変え、すぐにテント外へ走り出すハルキ。

「やばい!ツキカゲを迎えに行かないと!」


その様子を見ながら、ぺぺは呟く。


『場所も教えてないのに走り出しちゃう所とか、ホント、ユウキとそっくりバオねぇ。』


     ◆   ◆   ◆


上空に浮かぶ()()をまじまじと眺めるスズネ。


瓦礫の山から飛び出し、埃まみれになりながらも黄昏に染まる空を仰ぐユウキ。


「ありゃあ、なんだ?」


「さあ」


とてもとても短いやり取りの後、スズネが()()()()歩く。


「???」

訝しむユウキの丁度右頬を掠める様に、白と黄金とが混ざる()が通り抜ける。


否、ユウキには()()()()()()()だけである。


「アッハハ!おっしい!まさか今も視てたんだ!」


聞き覚えのある声が辺りに木霊する。

声の主は、上空に浮かぶ()()のようだ。


「あなた────あのファネス?」

スズネの問いかけに対し、ファネスは無邪気に応える。


「ん~?名乗った覚えないけど、まあいっか♪」

「そうよ?ワタシはファネス。今はぁ・・・黄昏の天使(トワイライトアンジュ)ね?」


頭上に歪な五芒星の光輪と、背中から四枚の白い翼、白金の鎧は所々黒に染まっており、

何より額から漆黒の角が生えている。その姿は、天使というより悪魔に近い。


指先に魔力を集中させ、一筋の光線を放つ。

先程ユウキが見た糸の様だが、今度は威力が桁違いである。


ユウキが眼で追うよりも早く、地面に着弾し、大きく抉る。

人体に被弾すれば、間違いなく四肢が吹き飛ぶ威力だろう。


「フフフ♪これも“権能”ってヤツ。なんなら、その顔、吹き飛ばしてあげる♪」


「だが断るッ!!」


迫る光線を間一髪で躱しつつ、徐々に距離を詰めるユウキ。


およそファネスの真下に辿り着いた頃、ユウキはあることに気付く。


()()()()。ユウキの身体能力をもってしても、

全く届かないのだ。


訴える様に、スズネに視線をやるが、小さく首を横に振るだけである。



「まったく。世話の焼ける弟弟子たちよなぁ!」

丘から様子を見ていたオウカが、嬉しそうに言う。よほど出番が欲しかったのだろう。


オウカが手に持つ魔導書に魔力を走らせ、詠唱を開始する。


「我、乞い願う。大地よ。大地よ。

神をも引き摺り下ろせ────『天の鎖(エンキドゥ)』!!」


一時的に神の権能を無力化し、一時的に地上に引きずり下ろす大魔術を行使したオウカ。

触媒である魔導書は過度な魔力供給で燃え尽きたが、本人は未だぴんぴんしている。


オウカの周りから黄金の鎖が現れ、ファネスに向かって一直線に飛び掛かる。

翼を拘束する鎖は、上昇を阻止し、形成を一気に逆転した。



「はぁ!?ふざけんじゃないわよ!天使を地に落とすなんて、赦されると思ってんの!?」

ファネスがヒステリックに叫ぶ。


「よっし!誰がやってくれたかわかんねぇけどこれなら届く!」

地面が割れるほどの跳躍の後、ユウキの拳がファネスを捉える。


「『狂戦士の怒り(バーサーカーレイジ)』!!」

久方ぶりのこの技。一時的に筋力を超強化し、攻撃力を底上げする能力である。


ユウキにしては珍しく、飛行能力を落とす為に翼の付け根を狙い、落下させようとする。

「おおおっらあぁあ!」


ガキン、という金属同士がぶつかり合う様な音の後、ユウキは衝撃の事実を目の当たりにする。


()()()()のだ。

それも、自分よりも一回り程細い腕で。


掌の大きさも、筋肉量も一目でわかるほどに違う。

しかし、ユウキの拳をファネスが掌で受け止める形で防がれていた。

そればかりか、今度はユウキの腕を掴み、捩じ上げる。


本能的に危険を感じ、即座に手を離すが、もう遅い。

突き出した右拳は、拳頭から出血し、握られた人差し指はあらぬ方向へ折れ、

小指側の腱が切れ、最早手としての働きはこなせそうに無い。


(こりゃあ・・・骨が折れるな・・・骨だけに)


「っ、はは。」


ユウキが乾いた笑い声をあげる。


面白い(おもしれぇ)


ユウキは、血を奪いし者(ブラッドイーター)としての新たな能力を解放する。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 読んでいてとても興奮しました! ツキカゲの心臓やユウキが力のぶつかり合いで 負けた時はどきどきしたし、はらはらしました。 話を重ねる度にスズネの好感度上がりまくりです。 [一言] そろそろ…
2023/09/17 20:57 こだわりスカーフ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ