第一話 始まり
カーテンの隙間から漏れる陽光を顔に浴び、眼を覚ます。
「───変な夢だったな」
枕代わりの座布団から上体を起こし、急速に薄れていく夢の残滓を追いかけつつ、寝ぼけ眼で辺りを見渡す。
見慣れた自分の部屋。勉強机と椅子。漫画がぎっしり詰まった本棚に、多様なゲーム機の載る机。
横着をして椅子に掛けている制服には「颯真結生」と彫られた名札が。
一際目立つ写真が、勉強机の端に飾ってある。それには、少年と少女の姿が。
「あいつ、元気してるかな」
一人は自分。もう一人は、何年か前に行方不明となった幼馴染だ。
硬いフローリングの上で転寝していたせいで体中が痛む。
ふと時計に眼をやると、丁度十五時を指していた。
「やっべ」
あれから約二年。未だ心の内に幼さを残すが、もう青年になった結生。
慌てて家から飛び出すその背中には、幼い頃の思い出が張り付いていた。
僕の名前は白上遥輝。恐らくこの世界では平凡な高校生。
今日は親友の颯真結生と市街地の公園へバスケをしに出掛けるはずだった。
「悪り!遅れた!」
いつもの陽気な結生がそこに立っていた。こんなことは日常茶飯事である。
返答の代わりに微笑みを返し、目的地へ歩き出す。
ここまでは、本当に、いつものことである。
ユウキが「変な本」を見つけるまでは。
「ん?なんだこりゃ?変な本だな」
文字道理「変な本」である。やたらと分厚く、装飾は悪趣味にぎらぎらと光っている。
何より、表紙の絵が血だまりの中に人間が立っており、狂った様な笑みを浮かべている。
それは、薄暗く、じめじめとした路地裏にぽつんと置いてあった。
何とも不気味である。
「誰かの落とし物かもしれねえな」
そう言ってユウキが本につかつかと歩み寄り、手を伸ばす。
「結生、やめとこう。理由があってそこにおいてあるのかもしれない。」
「それに、良くない予感がする。」
そうか、と伸ばした手を止めるユウキ。しかし、好奇心には抗えないらしく、
すぐに本を手に取ってしまう。
「なんだこりゃ。表紙だけじゃねえか」
表紙だけの本を遥輝へ抛る結生。
少々戸惑いながらも受け取る遥輝。
「ッ!!」
何か異変に気付いた様子の結生。
本を握っていた右手が、激しく出血している。
遥輝は両手で本を持っており、両掌が真っ赤に染まっている。
「なんだこれ!?」
「やばい、とりあえず止血───」
不思議と痛みは感じないが、慌てるのに変わりはない。
掌を見る視線の向こう側。ピントが外れ、ぼやけて見えるその視界に、赤々と光るものが。
先程の表紙だけの本である。なかったはずの頁が現れ、ものすごい速度で
ページが捲られていく。
その遷都が止まった瞬間、
眩しい鮮やかな赤色の光が二人を包む。強い風が体を突き抜けてゆく。そんな
不思議な感触を味わいながら、長いような一瞬のような時を視界が真っ赤のまま過ごした。
やがて光は収まり、二人の視覚は戻ってきた。だがその瞬間、目を見開いた。
其処は恐らく、「此方」の世界ではなかった。
人生初の執筆故、色々と至らない点が多々あるかもしれませんが、
少しでも楽しんで頂ければ嬉しいです。
よろしくお願いいたします。