表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/31

第拾九話 破

迷路の様に続く廃城の地下通路に、一人の青年の足音が木霊する。

行き止まりにたどり着いては踵を返し、また行き止まりに当たる。その繰り返しである。


「クッソ・・・どうやったらここを抜け出せるんだ・・!?」


ぺぺをツキカゲに預けたままのユウキは、方向音痴が祟って、盛大に迷子の様だ。


通路を右往左往するユウキの姿を、脚が八本ある歪な昆虫の監視蟲(使い魔)が捉える。

魔力の経路(パス)を通じて共有される視覚情報は、ツキカゲの姉、ファネスに届いていた。


「こんな所に迷える子羊ちゃんが。そろそろワタシも行動開始かしら?」


絹の様な金髪の先を退屈そうに指で弄りつつ、ファネスが呟く。


「おにーさま、起きて起きて?」


声を掛けられた先には、横たわる自分の兄、エーオースの姿が。


妹の声に呼応し、むくりと上体を起こすエーオース。

ユウキのプロレス技によるダメージは回復している様だ。

唯一、痛みの消えていない殴られた右頬を押さえながら、忌々しそうに言う。


「すまない、ファネス。私としたことがあんな単純馬鹿に負けるなど・・・」


「大丈夫だって、おにーさま。次は負けないでしょ?」


「あ、ああ・・・次はしくじったりしないさ。」


一転、顔を曇らせるファネス。


「でも、おにーさまのその変な騎士道精神のせいで、次は負けると思けどな~?」

「正々堂々一対一なんて、どうかしてるんじゃないの?」


「な・・・」


突如否定的に話し始めるファネスに驚くエーオース。


「しかしファネス!それは私が聖騎士(パラディン)になる時に立てた誓いだ!今更それを

捨てろなどと・・・・」


「フフ♪」

ファネスが蠱惑的な笑みを浮かべる。


「安心して、おにーさま。ワタシが、その変な騎士道精神(プライド)ぶっ壊して、

おまけに強化(狂化)もしてあげる!」


「何を言って────」


ぱちん、と指を鳴らすファネス。


「ぐ・・ぐうぉおおおお!!」


それは後悔か。

それは怨嗟か。

脳髄を揺さぶる精神攻撃に、エーオースは悲鳴を上げる。


「かっ・・お前・・・など・・・」

言いかけた言葉は終わることなく、エーオースの意識は失墜する。


「あは♪」

「始めまして。()()()()()()()()。」


かつての聡く、未来を見渡すエーオースの紅い眼は、

黒が混じり、彼の精神の混沌を表すかのように闇が渦巻いていた。

かつての彼はもう何処にも居ない。

そこにあるのは、ただファネスの命令を聞くだけの人形だ。


「さ~て。ワタシもお仕事っと♪」

「おにーさま、お留守番ヨロシクね~。」


「・・・・・・・」

微動だにせず、命令を遂行するエーオース。


ファネスは足取り軽く、地下通路へと足を運ぶ。


未だ彷徨い続けるユウキと、()()()()を謀殺すべく。


     ◆   ◆   ◆


照明の少ない、薄暗い廊下をユウキは駆ける。

その先に出口がある確証は無い。

最早これは賭けである。


曲がり角を右折した瞬間、後ろからユウキの首筋に短剣が突きつけられる。

ユウキは思わず硬直する。


「あら、ユウキじゃない。」


半分振り返ってみれば、スズネの姿が。

露骨にほっとするユウキ。


「びっくりしたぞ。スズネ、なんでこんなとこに居んだ?」


「その様子じゃ、ぺぺと逸れたのね。迎えに来て良かった。」


「すまんすまん。出口は分かるんだろ?さっさとここから出ようぜ。スズネ?」


スズネが来た方向へ踵を返そうとするユウキを、スズネが呼び止める。


()()()()()()()でしょ。あなた、誰?」


「?おれはおれ、だぜ?どこもおかしく・・・・」


「ユウキはね、二人の時は私の事、昔から『すーちゃん』って呼ぶのよ。」


ユウキの表情が醜く歪む。

次の瞬間、ユウキの身体が揺らめき、

体格はやや小さくなり、そして金髪の美少女へと変貌する。

偽ユウキの正体はファネスだったのだ。

「アナタ達、そんな仲だったの!?ワタシてっきり、只の仲間ってだけ────」


「嘘」

スズネが言うと同時に、袖口から細いナイフを取り出し、ファネスへ投擲する。

そのナイフは両刃に加工されており、完全に殺傷用だ。


「ッ!!」

間一髪で避けるが、研ぎ澄まされた刃は、

ファネスの左頬を薄く裂いていた。


「アッハ!すごいすごい!ワタシに、ましてやこのカワイイ顔に傷を付けたの、

アナタが初めて!」

「それなら・・・本気で行かないと、ねっ!!」


アイスピック状の両刃の短剣と、片刃の短剣を顕現させ、

一気に距離を詰めるファネス。


スズネも、双剣で応戦する。



電光石火。

まさしく眼に焼き付く程に激しい戦闘だ。


ファネスの繰り出す攻撃の合間を縫い動きながら、スズネは逆手に持ち換えた双剣で切り上げる。ファネスは即座に身を躱すが、それに合わせて一歩踏み込み、さらに追撃する。


相手は更に躱すが、舞い上がった金髪の一部をスズネの双剣が通り抜け、数本の髪が

はらはらと床に舞い落ちる。


ファネスも大したもので、迫りくる鋭い一撃を、タイミング良く打ち払い続ける。


速さ自体はスズネの方が僅かに上だが、瞬間的な筋力はファネスの方が上の様で、

攻撃を弾かれる度に、速度が大きく殺され、結果的に同等の捌き合いとなっている。


「びっくり!ワタシより早いなんて、生意気ね!」

バックステップで距離を取りながら、ファネスが面白そうに笑う。


「あなたが遅いのよ。」

追撃をしながら、流れる様に挑発するスズネ。


「ふん。そっちがその気なら─────」

ファネスの両目が、一瞬、光る。


「!?」

スズネは、ファネスが視界から消えている事に気付く。


「じゃーん♪」


真後ろからファネスの声がする。

スズネが振り向くより早く、痛烈な蹴りが飛んでくる。


「くっ───!」


かろうじて受け身を取るが、先程とは比べ物にならない膂力(パワー)だったことに気付く。

先程の瞬間移動も中々の脅威だ。


「アッハ!やっぱり反応しきれないよねぇ!」


けらけらと笑うファネスを聞き流しつつ、スズネは思考を透徹させ、未来視(ヴィジョン)

を発動する。


(四秒後にもう一回使ってくる・・・・場所は斜め後ろ。)

(三──二──一───今ッ!)


振り向くと同時に双剣の柄と一緒に裏拳を繰り出す。

移動後の僅かな硬直を突いた攻撃だ。

言わずもがな、ファネスにダメージは通る。


()()()。あなたのソレ、瞬間移動の様だけど、実際はただの

高速移動ね。しかも、攻撃に転じる瞬間は硬直ができる欠点(デメリット)付きのね。」


「それと、瞬間的に筋肉量を変えられるようね。さっきユウキに化けた応用かしら?」


先程のファネスの痛烈な一撃は、片足の筋肉量を操作し、どこぞの脳筋馬鹿並みの威力を実現してみせたのだ。


「もう理解し(わかっ)たから同じ手は効かないわよ?」


「!」

図星な様子のファネス。あっさり見破られた事に歯噛みしている。


またも、ファネスの両目が光る。


「無駄。視えてるって言ってるでしょ。」


後方への移動フェイントから前方へ再度移動し、攻撃をするファネスの目論見をスズネは全て読んでいた。


正面からの横薙ぎの攻撃を左足で飛んで躱し、空中で一回転しながら空いた右足で

ファネスの喉に踵落としを喰らわせる。


直前に発動させた身体強化も相まって、床に叩きつけられたファネスは背中でタイルを割る。

無論受け身など取れず、衝撃は首と背中にもろに響く。


スズネが双剣で止めを刺そうとした瞬間、ファネスの潰れた喉から隙間風の様な声が漏れる。


「・・・・たすけて、おにい、さま・・・。」


刹那、ファネスが倒れている真横の壁が粉砕され、エーオースが現れる。


スズネは後方に大きく下がり、様子を伺う。


今のエーオースは、変な騎士道精神が無い為、これまでよりたちが悪い。


戦闘を始めるならファネスを先に狙うべきか、と考えたスズネだったが、

エーオースがファネスを抱きかかえ、天上を破って離脱した事により、

一旦その思考を止めた。


完全に音が止まった後、スズネは壁に背中を預けながら呟く。


「─────疲れた」


ふと、何か忘れている様な気がしたが、もう忘れてしまうことにしたのだった。


     ◆   ◆   ◆


「・・・・あれ?ここ、さっきも来なかったっけ?」

「なんかさっきから同じ場所ぐるぐるしてるような・・・・」


「お~い!スズネ~!ハルキ~!」

「いい加減迎えにきてくれよ~!」



未だ迷子のユウキなのであった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ