第拾五話 遷移(スクロール)
お待たせ致しました。ブラッドイーター第拾五です。
ここから山場に差し掛かります。
ハルキの本能が警鐘を鳴らし始める。
「───なんで、僕がブラッドイーターだと、分かったんですか?」
意を決し、内心大いに怖気づきながらも、聞く。
ローズの顔が一瞬曇り、やや歯切れの悪い調子で言う。
「なーに。昔そんな弟子がいたのさ。」
「さあ、この話題は終わり。ユウキ達が待ってるぞ。そら、行った行った。」
強引に話を切り上げるローズ。
ハルキはこれ以上踏み込んでも無意味だと思い、それ以上は何も言わなかった。
「さ、早速明日から修行スタートだ。覚悟しときなよ?」
「は・・・はい。では今日はこれで・・・」
「何言ってんだ、今日から此処がアンタ達の家だぞ?」
「え?いや、そっその・・・先に言っ・・・」
「今考えた思い付きだからな。今日はもう遅い。いいから泊まっていきな。」
ローズから悪意は感じられない。本当に善意だけで提案してくれている様だ。
最早断る理由も無い。ユウキ達に事情を説明し、ローズの好意に甘える事とした。
───最高位魔法使い、ローズ先生指導の下、地獄の修行が始まる。
◆ ◆ ◆
けたたましい爆音と共に、目覚まし時計と思しき魔道具が叫ぶ。
ローズ宅にて、ユウキ達は目覚める。
寝ぼけ眼をこすりながら昨晩の出来事を整理する。
ローズの弟子である間、ローズ宅にて過ごす。ローズからそう提案されたのだ。
ちょっとした旅館の一部屋ほどはある部屋を一つずつ与えられ、其処を自室とした。
外側からはそんなスペースなどありはしないのだが、魔法によって空間を押し広げ、
そこに部屋を作ったとのこと。本人曰く、
『違法だから、良い子は真似しちゃだめだゾ✩』
と言い、てへっ、と笑い、舌を出す動作をする。俗に言う、『てへぺろ』と言うヤツだ。
その強烈な行動を、ハルキは鮮明に覚えていた。
「はは・・・もう少し上手くやれば、話してくれてたかな?」
昨晩の事に思いを馳せながら、自嘲気味な苦笑いを浮かべる。
「人との正面きっての対話なんて、ユウキの専売特許だしなぁ・・・」
その時、廊下からやや大きめの足音が響く。
「噂をすれば。」
「おはよう!ハルキ!」
「おはよう。ユウキ。」
「さあさあ!今日から修行開始だ!張り切っていこうぜ!」
「ほどほどにしなさいよ。」
「俺様達にも稽古をつける、と言っていたがな。もう人に教わることなど無い。」
ユウキの後ろにスズネとツキカゲが。
朝食を摂り、ローズに指定された場所へ。
(すげぇな空間掌握魔法・・・なんでもアリじゃねえか。)
扉の奥に広がるだだっ広い空間を眺めながら痛感するユウキ。
ここでは運動場の役割を担っている様だ。
暫くして、ローズが現れる。
「おはようさん。アンタ達。準備は出来てるね?それじゃ、授業を始めよう。」
「待った。俺様にも稽古を付けると言ったな。お断り、だ。俺様はこれまで全ての事を
自分で、独学でやり遂げてきた。今更人に教わることなど無い。」
ここぞ、とばかりに反発するツキカゲ。
「いーや。稽古は必要だ。特にツキカゲ。アンタは特別講習も要る。」
「なに!?」
「ちょいと真面目な話をしようか。」
ローズがぱちん、と指を鳴らすと、空気中の魔力が収束し、人数分の椅子が出来上がる。
「ま、座りな。」
四人が腰を掛けたのを確認し、話を続ける。
「恐らく、いや、間違いなく、アンタ達四人はでかい壁にぶつかる。
その過程で、一人が離脱する事になる。」
「っ!?」
驚愕の表情を浮かべるユウキ。
「その離脱が死別なのか退去なのか帰天なのかはまだ分からない。」
「そんなことがわかるのか!?」
「わかるとも。実際、アタシの千里眼に見えてる。」
「千里眼にも種類があるのさ。何も、遠くを見るだけが千里眼じゃない。
アタシの千里眼は、未来と過去を見る事が出来る。」
「未来を見通す、千里眼だと!?」
ツキカゲが椅子から立ち上がり、椅子が音を立てて倒れる。
「未来視とはまた違う。なんなら読心もできる。」
質問する前に答えて見せたローズに、またもユウキは驚く。
未来視は最も近い未来しか見る事が出来ないが、ローズの千里眼は未来、過去、そして読心が可能だ。
しかし、千里眼の使用中は現在を見る事が出来なくなる。
小回りの点では、現在と未来を並行して見ることのできる未来視に軍配が上がるだろう。
「まさか・・・ローズ、貴様・・・・」
「ご名答。流石アタシの生徒。」
「そう。アタシこそ、初代最高位魔法使いにして生ける伝説。
賢者アンブローズだ。」
今一ピンとこないが、字面だけで驚愕しているユウキとハルキ。
少々驚きつつも、全て視えていた、という表情のスズネ。
ツキカゲは右掌で顔を覆い、信じられない、といった様子だ。
「見通す者・・・月桂冠の魔術師・・・・深淵への到達者・・・・」
「この世界の魔法の祖とも呼べる者が、何故こんな所に・・・!?」
「ある使命を上から仰せ遣ったんでね。重い腰を上げてここまで来たのさ。
本当はもう少し転寝していたかったんだが、しょうがないさ。
待たせ過ぎだぜ?アンタ達。100年を越した辺りから歳を数えていないからねぇ。」
「そういうワケで、アタシがアンタ達の師匠だ。これだけ待たせたんだ。
多少のワガママには付き合ってもらうぞぅ?」
「・・・なんで───」
「なんで、そこまでしてくれるのか、だろう?ユウキ。」
ローズの読心によってユウキの言葉が阻まれる。
「単純さ。上からの命令ってのもあるけど、アタシぁ若者が試練を乗り越えていく
のを見るのが何よりの楽しみでねぇ。一行のメンバーが欠けたら面白くないだろう?
アタシだって面白くない。そこで、ちょいと力を貸してあげようと思ってねぇ。」
「解釈を間違えるんじゃあないよ?物語をどう締めくくるかは、アンタ達主人公に
懸かってるんだからねぇ。」
「なーに。アタシにできる事なら幾らでも力を貸してあげるさ。」
「さあ、運命を変えてみな?次頁への遷移は、もう始まっているぜ?」
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