第十話 賑わう解体場と
無事にギルド登録が完了したユウキとハルキが、ギルドの扉を開け、外へ出る。
出てきた二人に声を掛けるスズネ。
「早かったわね、二人とも。ここのギルドマスターは敏腕なことで有名だったけど、どうだったかしら?」
やや肩を落としながら、ユウキも応える。
「どうもなにも・・・おもしろ・・・敏腕なおっさんだったぞ。
「俺様も同感だ。ギルドマスターは手強いぞ。」
ユウキの影からツキカゲもぬるりと出現する。
「名前に違和感あるの僕だけかな?」
ハルキが呟く。
「そうそう!ギルドマスターの名前がよ、「ノブヒト」って言うんだ。
スズネ、なんか知らねぇか?」
スズネが一瞬考え込む様な素振りを見せると、
「さあ」
短く応えた。
「なんでえ、天下のスズネ様でもわかんないことあるのか。」
「それはそうと、ギルドマスターが明日に職業を決めるから来い、って言ってたけど、
職業って何?」
ハルキが質問する。
「ふっふっふ、親切な俺様がおしえてやr・・・」
「職業って言ったらあれだろ、よくある戦士とか魔法使い
とかの事だろ。」
ツキカゲの言葉を思いっきり遮るユウキ。
「成程!大体想像がついたよ!ありがとうユウキ!」
そしてとても悲しそうなツキカゲ。
「それより、解体所に行きましょ。折角狩ったワイバーンが台無しよ。」
ユウキは訝しむ。
「あ~いつぞやの。でもよ、ワイバーンの死体なんて回収したっけ?」
スズネがふっ、と笑うと、虚空へと手を伸ばす。
何もないはずの空中には、うっすらと波紋のようなものが。
興味津々なユウキとハルキ。
ツキカゲはただ静観している。
スズネがその波紋へと手を突っ込む。
抜かれた手には、見覚えのある大きな牙が。
「あー!その牙は!!」
ユウキが目を見開き、
「ワイバーンの・・・!!」
ハルキが続ける。
二人の反応に概ね満足した様子のスズネ。
「これは異次元収納って言うの。とっても便利よ?」
呆気に取られているユウキとハルキ。
(すげぇ・・めっちゃ欲しい・・・その能力!)
未知の能力興奮を隠せないユウキだった。
◆ ◆ ◆
御一行はギルドの間隣りにある解体所─── 鋸と鉈が看板に描かれている建物へと入った。
建物の中は冒険者で賑わっている。
向かって左が解体場、向かって右が素材の換金所だろう。
解体場では屈強なおじさん達が魔物を鉈で解体している。
換金場では若い職員が忙しなく動いている。
スズネが換金場へとまっすぐ進んで行く。
アイテムボックスからワイバーンの素材が入っているであろう小袋と小瓶を二つ取り出し、カウンターへと置く。
職員の一人が対応をする。
小袋の中身を見て目を大きく見開き驚く。しかしすぐに我に返って精算を始める。
「ワイバーンの牙と爪がそれぞれ6つ、そしてこれは──ワイバーンの眼球ですね。」
小瓶の中身はなんとワイバーンの眼球だった様だ。
目玉なんていつ取ったんだ、とユウキが訝しむが言葉には出さない。
「俺様も解体してもらうとするか」
ツキカゲがそう呟き、解体場へと向かう。
ユウキとハルキもついていく。
「ラークを呼んでくれ」
慣れた様子でカウンターに声を掛ける。
カウンター嬢からカウンター奥に声が掛けられ、
左目に眼帯をし、頭に赤いバンダナを巻いた強面で屈強なおっさんが奥から現れた。
「おっ!カゲの旦那!らっしゃい!毎度御贔屓にどうも!」
満面の笑みでツキカゲに挨拶するラーク。
どうやらツキカゲはここの常連の様だ。
「今日はワイバーンを頼む。先日狩ってきた。」
「おっ!ワイバーンですかい!それなら解体のし甲斐があるってもんですよ!」
ラークの案内により、解体所裏の倉庫へ案内される。
もちろんユウキとハルキもついていく。
「さあさあ!今回も大漁でしょう?倉庫一つ、貸し切りにしときやした!」
「では頼むとしよう」
ツキカゲが自分の影に手を突っ込み、ワイバーンを頭から引きずり出す。
その数、5頭。
ユウキとハルキは唖然とする。
(ちゃっかりワイバーンを回収してやがったのか。抜け目ないやつ。)
すこし眉を顰めるユウキ。
(いつ見ても便利な能力だなぁ)
少し感心するハルキ。
「わかりやした!ワイバーン5頭!明日の朝には解体終わらせときますでぇ!」
「頼むぞ。いつも通り、肉以外は買い取りで頼む。」
「あいよ!いつもの!こりゃあ腕がなるぜ~!」
切れ味のよさそうな鉈を片手に、早速解体を始めるラーク。
「さ、帰るぞ。あいつは解体を始めたら止まらん奴でな。あとは任せるとしよう。」
魔物の解体という見慣れない光景に少し眼を奪われながらも、ユウキ達は解体所を後にする。
外はもう夕暮れ時。スズネとも合流し、徐々に紅色に染まって行く街並みを眺めつつ、
ユウキ達は歩いて行く。
◆ ◆ ◆
日が暮れ、大分人の減った冒険者ギルド。カウンター奥の部屋で少しだけ背もたれの高い椅子に座る
中年男性が一人。
この冒険者組合の組合長、ノブヒトだ。
彼の手にはユウキとハルキの登録詳細用紙が。
少し眉を顰めながら、疎ましそうにそれを眺めている。
「赤の呪いか・・・また厄介な新人が来たものだ。」
ぽつりと呟くと、心の底から疲れた、とでも言うかの様に大きな溜息をついた。
「流石に疲れたな・・・一週間不眠は流石に堪えるか。」
「少しだけでも・・・仮眠を摂っておこう」
そう言って瞼を閉じたノブヒト。
照明の魔石が優しく煌めき、ノブヒトを束の間の休息へと誘う。