表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

98/122

第98話 気づき




 分からないままでも良い。そう思ってたのは林間学校前までだ。俺は伊桜と初めて会話してから思ったことがある。それが、伊桜のことを好きになることだ。それはまだ恋を知らない俺には、希望でもあった。


 一目見た時から、好きになる、と、本能的にも理解したあの瞬間は確実にそうだった。これから俺は伊桜と関わることで好きになるのだと。でも、実際3ヶ月ほどが過ぎた今、その気配はない。いや、見つけられていない。


 何が好きなのかを知らない。嫌いなのは分かる。それは俺の中で、嫌悪感や憤りが証明してくれるから。でも好きっていうのには基準がないから証明もない。


 運命だと口で言っても、それから好きを自覚することもない。結局は、何か刺激がないと俺には知り得ない。好きになりたいと焦る気持ちは、青泉のように好意を抱いてくれる人を傷つけたくない一心で思う。


 流石に身の回りに居るとは思えないが、俺自身への評価に鈍感だからこそ、一概そうとも言えない。難しい。聳え立つ壁を壊せないのは、どうももどかしい。


 別に伊桜が誰かに取られることを考えているわけではないのに。


 「何を考えてるのか分からないけど、林間学校で何かあったのは知ってるよ。それで今悩んでるのも。だから林間学校の帰りのバスで、私の質問が聞こえなかったり、今も、呼びかけても自分の世界に入って聞いてなかったりしてるし。ある程度の予想は出来てるけど、それが天方にとって悩むべきことなのは、少し私からしたら悲しいかな」


 「……マジ?無視してた?」


 「うん。でも別に気にしてないよ。もしも誰かから告白されれば、天方が考え込むことは、全然知ってたから」


 「…………」


 これは俺が露呈したようなものだ。青泉には悪いが、伊桜に隠し事は無理だ。賢いからこそ、俺の異変に気づく。伊桜と違って、常に伊桜の前で俺は俺だ。少しの違和感でも気づくほどの距離感だからこそ、隠し事は意味を成さない。


 「大当たりっぽいね。やっぱり告白されてたか。戻ってくるのが遅いからそうかなとは思ってたし、天方の顔が悩み事を抱えてる時だったから、これは十中八九って思ってたけど。うーん。打ち上げから2週間。早いね、青泉さんも」


 「そうだな。2週間で恋を出来るのが凄いと思う。何かしらのきっかけがあったんだろうけど、俺はそれがないし」


 「どんなことで悩んでるかは、流石に分からない。言いたくもないだろうから聞かないけど」


 「教えようか?」


 「天方がいいなら」


 言おうと頭の中で整理をした。その瞬間だった。


 俺は伊桜を好きになる。から、俺は伊桜を好きに()()()()に変わってるのか?


 日本語の伝え方の難しさではなく、本当にそういう意味だった。いつの間にか思ったこと、それが好きになりたいと俺から願うようになったこと。これが大きく違うのだと気づいた。


 「ん?どうしたの?」


 顔を覗き込む伊桜。俺はチラッと見て目を合わせて言う。


 「いや、やっぱり言わない。なんか分かった気がするから」


 「解決したってこと?」


 「解決するかもしれないってことだ。まだ解決には遠いけど、自力で行ける気がするんだ」


 高揚感に駆られた。その時、緒を見つけた俺は、単純に嬉しかった。好きになろうと自分から動こうとしているのだと、自分は実は伊桜を好きになり始めているのだと、無意識にでも好きになろうとしてることが嬉しかった。


 確かにそれは無意識であり、自分で気づかないと意味はないこと。しかし、それでも一歩進んだのは間違いない。


 「ふーん。なんのことか分からないけど、いい事そうだから喜ぼうっと。わーい」


 両手を挙げて顔は真顔。感情のない喜び方が逆に面白かった。


 実に巫山戯た恋愛価値観。好きを知らないのに、好きになりたい人がいるという謎。名探偵でも解決出来そうにない内容に、心の中で微笑を浮かべる。


 「うわぁ、スッキリした気分だわ」


 「えぇ、なんかズルい」


 「知らなくても伊桜にはデメリットないから大丈夫だ」


 もしも、伊桜が好きでいてくれるなら、だが。伊桜は俺と仲のいい関係を築いているだけだろう。だから好きになることは考えにくい。だが、俺はそんなの関係なく、好きになったら好きだと伝える気でいる。それを許してくれて、フラれたとしても気まずい関係にならないのが伊桜だから。


 「隠し事されてる気分で、既にデメリットを受けてる気分ではいるけどね」


 「それは仕方ないだろ。何もかもを教えることは出来ないし。プライベートだってほしいだろ」


 「それは確かに」


 「いつか知るんだから、その時まで気長に待ってればいいさ」


 「何か含みのある言い方に違和感しかないけど、それがもしデメリットだったら、絶交ね」


 「それは……まぁ、その時による」


 絶対とは限らない。もしかしたら告白されて嫌だと思うかもしれないし、伊桜に好きな人が出来たらその時は離れるのも仕方ない。受け入れたくはないが、好きだからこそ応援したいので、離れるのも視野に入れている。


 こんなこと言って、余裕あるのも今のうちだ。いつか好きになった時は、それこそ恋は盲目の意味を理解して、落ち込んでいる俺を鏡で見るだろう。その時に笑ってくれる友だちがいつメンだと思うと、少し温かくて、笑って貶されそうで複雑な感情になる。

 少しでも面白い、続きが読みたい、期待できると思っていただけましたら評価をしていただけると嬉しいです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ