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第74話 吹っ切れたら




 悔しそうに顔を顰めては、青泉さんを羨ましそうに見る。もう隠す気もないのか、誰が見ても好意を抱いてるその姿は、見続けるほど面白く可愛らしい。


 青泉さんは隣で独り言をブツブツ言うし、再び酔わされたのだろう。この男、彼女を作ったらすぐ別れを告げられるタイプだ。


 「――伊桜、お花摘みって言って抜け出してほしいんだけど」


 「――え?良いけど」


 「――助かる」


 一瞬、話に入れたくないからと省かれたと思って焦ったが、そんなことではなく、普通に抜け出して少し話したいことがあるという意味で言われたのだと理解した。


 「ちょっと、トイレ行ってくる」


 「ねぇ、隼くん」


 「あっ、俺も付いていく」


 「あー!逃げるな!」


 席を立って天方の背後まで来ると、花染さんの追撃を受ける。完璧に無視して回避すると、私の隣にサッと並んで歩き出す。


 「戻って来たら聞くから、それまでなななトリオでワイワイしててくれ」


 「はーい。早く帰ってきてよ?宥めるの大変だから」


 「ねぇー、姫奈ー。伊桜さんに盗られたー!」


 盗ってません。盗れって頼まれた身です。


 階段を下りる寸前まで私への嫉妬が聞こえた。大きな声で言うことに恥ずかしさがないことが、羨ましい。だから人気者なのだろう。


 それから誰も居ない、灯りで照らされた階段を下りて、4階のトイレ前にやって来た。この時間帯、流石に部活終わりに教室に残る人はおらず、静寂に包まれ、まるで肝試しに来たかのような雰囲気を感じる。


 「ふぅぅ、なんとか逃げれたわ」


 「大変だね、人気者は」


 「ホントそれ。なんであんな次から次に質問されるんだよ。ご飯食べる時間なんてないんだけど」


 「それが特別な場所での当たり前。特に人気者たちなんて囲まれるだろうし、女子に人気なら尚更でしょうね」


 「拗ねながら言われても」


 「ふんっ!」


 拗ねてないとは言わない。もう自分の心に正直に居ようと、今日は決めている。トイレという短い時間で、何を話すかなんて決めてないから正直になれるか分からないけど。


 「あれの模範解答って何か分かるか?」


 「それがわざわざここまで私を呼んだ理由?」


 「頷いたら殴られるだろうけど、そうだって答える」


 寄りにも寄って、私の嫌な話題で呼び出されるとは。私も今日は、体育祭後半からの罰を受けているらしい。私が居て他の女の話とは、この男も罰を受けてほしい。それも私よりも酷い罰を。


 「はぁぁ、私には分からないよ。言えるのは青泉さんも天方に興味あるってことだけ。それ以外は何で質問するのかも分からないよ」


 本当は全部知ってる。女子として、狙い方が可愛いと知ってる子らしいから、分かりやすい。気づかないのは天方くらいのレベルで見せつけるように顕にもしているから。


 「やっぱり伊桜も俺と似たタイプだからそうだよな」


 嬉しさもあったり疑心暗鬼だったり。


 「ねぇ、さっきの話であったけど、好きなタイプって私じゃないの?」


 いつもならいじわるしてやろうと思って聞くけど、今回はそんなつもりは一切なかった。ただ、不満が募ったからそれがスッキリしないかなと、可能性に懸けて聞いた。


 「あー、あれな。俺のタイプの伊桜は今居ないだろ?それに、あそこで伊桜がタイプなんて言えるほど豪胆くんでもないから言わなかっただけ」


 「……ってことは、眼鏡外して前髪上げて整えればタイプってこと?」


 「えっ?違うけど……」


 真顔で言われる。が、次第にその表情は崩れる。


 「ははっ。なーんてな。本当の伊桜がタイプなのは間違いないな。あっ、これ好きになるやつだって思ったし」


 「……余計なの挟まないでよ」


 何故タイミング良くドキッとさせてくれるのだろうか。私のことを嫌ったのかと思って、普段かかない冷や汗をかくとこだった。


 でも、そんなのすぐに忘れて、私は優越感とか幸福感とか、ありとあらゆる幸せホルモンに浸った。私をタイプだと言ってくれたこと、それが何よりも嬉しくて、嘘じゃないと分かるからこそ、より一層強く感じる。


 そのせいか、私は綱引きのことを思い出した。触れられない、触れようとしてはいけないと思って触れなかった天方の体。私は青泉さんに先を越されたからと、もう吹っ切れた。天方に最初に触れるんじゃなくて、天方に最初に触れられた人になれれば良いんだ。


 「天方、少し屈んで」


 「え?なんで?」


 「良いから。時間もないし、口答えするな」


 「えぇー、俺絶対無意識に悪いことしただろ。誤りたいけど思い当たる節がないんだよな……」


 と言いながらも、ゆっくりと屈んでくれる。


 「そこが悪いことだよ」


 「うわっ!」


 後ろに回って、天方の大きな背中へ飛び乗った。初めて触れる天方の体。思ってたよりガッチリしていて、背骨も曲がっていない。夏服だから、肌の温かさも伝わって、居心地が良かった。


 両手は首に巻きつけて、足は支えられるまでお腹の前に運んで、まるで幼子の私をベッドに運ぶ父親のような姿になる天方。


 「な、何々?え?俺何されるの?!」


 やはり慣れないから、初めてだから、私に触れられることで狼狽する。青泉さんの時とは違って確かに伝わる照れと恥じらい。これを間近で見たかったのだと、触れたことの次に喜ばしく微笑む。


 「打ち上げ中に私に構わなかった罰だよ」


 そう言って、首に両腕をきつく巻きつけて、ゆっくりと首を絞めた。


 「うっ……!ギブ……ごめ……!」


 「これからはちゃんと構う?」


 「構……う……」


 言質も取れたことで、素早く手を離す。我ながらサイコパスなとこまで堕ちたなと、もう受け入れていた。


 「はぁ……はぁ……え?構わなかったからここまでされるの?」


 「私の嫉妬を重ねたからね」


 「嫉妬……どういうこと……」


 いつまで経っても、そうやって分からないままで居てくれて良いんだけどね。

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