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第54話 裏では




 「置き配を忘れてた。これ、本当だと思う?」


 それを問うのは天方に取り残された4人の1人である花染。1人欠けたテーブルを横目で見ながら何やら不満そうに。


 「本当だろ。スマホ取り出してすぐやべって顔してたしな」


 「隼のあの顔は、多分嘘じゃない。普通に驚いてたし、元々忘れっぽいからな」


 「何をそんなに気にしてるのかな?」


 質問した意味を知る華頂だけは、花染にニヤッとしてから楽しそうに眉を上げ下げする。


 「だってさ、最近一緒に帰ることないし、何かしらの用事で帰るから。他校の女子と付き合ってるっての、嘘とは思えなくて」


 「隼だぞ?そんな他校の女子と関わりを持つことはないぞ。あいつの性格上、俺たち以外には興味を示さないしな」


 幼馴染である宝生の、絶対的な言葉。誰よりも性格などを知るからこそ、花染はその言葉を信じる。実際、天方がいつメン以外の誰かと関わるとこを見たのは皆無。何かしらの強制的な条件下でしかない。


 「気になるならストーカーになれば?」


 「嫌だよ。嫌われるって」


 「ならその杞憂を消すんだねー」


 「杞憂って……そうかな」


 「ってかなんでそんなに気にするんだ?天方に彼女が出来たくらいで騒ぐことか?」


 「それは……」


 死活問題レベルだ。花染にとっては仲のいい友人の1人であり、それを超えるか超えないかギリギリ。それに自分では未だ気づかない気持ちに悩まされている。


 華頂はそれをサポートしているが、それがサポートと呼ぶには少々雑なため、楽しむだけの時間となっているが。


 「別れる時に佳奈を心配してくれたんだし、彼女いたらわざわざそんな心配して行かないでしょ」


 「……確かに」


 「あいつは優しいからな。特にお前たち2人には」


 スプーンで花染と華頂を差す。


 「俺と宝生になんか、振り向きもしないぞ。それが仲の良さなんだろうけどな」


 「それでも気になるなら俺が聞こうか?多分察して濁すとは思うけど」


 「ううん。大丈夫。隼くんは彼女作らない性格だと思うし」


 「はい、フィルター掛かったね」


 「うるさい姫奈」


 目を細めて、睨みはしないが近しく見つめる。この中で唯一花染の気持ちに気づいている友人。鈍感な宝生と頭が悪くて察しの悪い千秋では辿り着けない答えを知る。


 「でもね、なんか冗談言った日から怪しいのは分かる」


 「お前ら2人して何を怪しむんだよ」


 「なんかよく喋るようになったっていうか、関わりやすくなったって感じ。夏休み前まではこの中では寡黙でツッコむこともなかったけど、最近は違うんだよね。夏休み中に何かあったのかも」


 「……忘れようとしたのに」


 無意識に再び花染の不安を煽る華頂。だが、本気で気になっていたからこそ、その答えを知りたいと貪欲。今まであり得ないと思ったことがあり得たように、それを知りたいと本能的に思う。


 「俺は千秋派。別に気にならないから2人で問い詰めるなりなんなりしてみれば?何かしら吐くだろ」


 「ガード硬そうだけど?」


 「その時は諦めろ。第1に、プライベートに踏み込み過ぎるのが隼からすれば最悪だ。グイグイ行けば、いくら華頂花染といえど、あいつは良い思いはしないだろ」


 どこまで行こうとも、それらはプライベート。詮索し続けられて秘密を知ろうとするのは、される側は全く嬉しくない。秘密の意味を理解すれば分かるように、誰もが何もかもを曝け出してるわけではないのだから。


 「そうだよね……ドンマイ佳奈」


 「何が」


 今度こそ睨む。


 「はぁぁ、いつか知れるかなー」


 「……よく分からないが、女の子らしい悩み抱えてるようで似合わないな」


 「うっざー」


 天方が居た時よりも更に溶け、完全に机に伏した姿は、それでも美少女なのだが、宝生と千秋はともに興味無し。見慣れたその姿は何も刺激はないらしい。


 項垂れる花染を見ながらも、可愛いとこもあるもんだと思う華頂。すると、花染の方向を見ていた華頂は、ふと言う。


 「ねぇ、他校じゃなくて同校に彼女居たりして」


 制服は違うのでどこの高校かは分からない。でも男女2人が手を繋いで仲良さげに帰るとこを目撃。それからピンと来たのだ。


 「まだその話するのかよ。色恋に夢中だな」


 「千秋もな」


 「うるせぇ」


 「同校は無いでしょ……」


 「うん。私も言って思ったよ。佳奈に見向きもせずに他の人を好きにはならないって。確か隼くんも言ってたよね」


 夏休み前、夏休みに何をするかを話し合っていた時、確かに天方は言った。カッコいいと可愛いで分かれるタイプの花染華頂を選ばずに誰を選ぶかと。それが本当なら……。


 「でもそうだったら面白いよね」


 「華頂の悪い部分が出てるな。人気者の裏の黒い部分」


 「人間誰しも完璧なんて居ないからね?理想に理想を重ねてるだけだから」


 「響くわ」


 決して全てが偽りなんかではない。が、華頂も華頂なりに思うことはある。人気者だからと、完璧な聖人性格をしているわけでもない、と。


 「まぁ、そこらはいつか分かるでしょ。いつまでも隠す性格じゃないし、嘘も苦手っぽいからね」


 「そもそも仮定の話だからな。高確率でハズレてるだろうしな」


 「だといいけどね」


 3人がそうして気に留めない中で、花染だけはどこかモヤッとした気持ちを残してその場に座っていた。どうしても確信したいと、悩み抱く乙女のように絶対的なものを抱いて。

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