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第52話 2つの罪悪感




 それからというもの花染の巧妙な策略を経て、誰も悪い気はせずに帰路へとついた。冗談かと思われた奢りの話は、実はマジだったらしく、華頂の引かせない眼力と圧で花染を屈しさせた。


 人気者として頂点に立つ華頂には、やはり美少女という顔の立場だけでは勝てなかったらしい。とはいえ、花染の顔の人気は凄まじく、それは同学年に留まらないのが持ち味なのだが。


 「――それで?何を奢らせるつもりなの?」


 逆らえないのは分かっても、何を奢らされるかは気になる。聞く程度ならいいのだと、格下の花染は王に聞くように問う。


 「まだ暑いしねー、アイスでも買っちゃおうかな」


 「ありだな」


 蓮はアイスか大好き。可愛いものも好きであるため、意外と乙女でギャップはある。俺と親しい人は美男美女でギャップが激しいのがムカつく。特に幼馴染と、2人きりでしか遊ばないあの友人といい、近ければ近いほどにそれは強く。


 即座に反応しても誰も驚かないのは慣れ。いつ見ても最初の【?】の連鎖は忘れられない。そうなの?と叫んだ花染も添えて。


 「俺もありだ」


 千秋が賛成することで自然と俺の番。華頂をチラッと見る。


 「大賛成でしかない」


 「隼くんなら助けてくれると思ってたのに」


 「俺だけ悪者みたいにするなよ。漏れなく全員敵だぞ」


 「はーいこれで決まり。出費大変だね、佳ー奈」


 「清々しいな。とことん女子の闇を見せてくる華頂には敵対しないようにしないとな」


 先程文句を言おうとし、それを止めたことが賢いと思えるのだろう。千秋も千秋で、女子という未知には恐れるらしい。


 残念そうに、でも因果応報かと受け入れる花染。どうしてだろうか、こうして悪いのは花染なのに、落ち込むように悲しむ姿は可愛く思えてしまうのは。本当に怖いとこはここなのかも?


 そんな話を続けながらも、俺らは校門付近に着く。ここからだとよく見えると知るからこそ、俺は後ろから誰にもバレないようにそこを見る。


 図書室。伊桜が好んで放課後1人で居る神域とも呼べる場所。意図せず誰もそこには足を踏み入れず、だからこそ伊桜と出会うこともないという領域。本当の伊桜を知らなければ、あそこへ毎日通いたいとは思わないだろう。


 そんな神域を1秒ほど目を凝らして見る。1秒といっても、体感ではそれを超える時間を使っているほどに集中した。いつメンの話の内容は聞こえない。それが当たり前。


 だが、折角覗いたというのに何も得られない。探してもその姿はなく、見えるいつもの席にすら居なかった。


 珍しいな。


 前例の無い状況に、何かしら理由があるのだと思いながらも、バレないよう会話へ戻る。幸い俺への質問はなく、悟られることも不審に思われることもなかった。


 下の段の本を探すために見えない位置へ移動したか、トイレなどの可能性もあったので、意外だとは思いつつもすぐに伊桜のことは忘れてしまった。


 「よっしゃー行くぞー」


 校門を出るとすぐに切り替える華頂は、ハイテンションのままに、全員同じの帰宅方向へ向かう。途中で花染と俺、華頂と千秋と蓮で別れるが、それはまだ先。


 謎の気合とともに、俺らは夏の陽光に体力を奪われないよう日陰を歩いた。


 ――「あー!やっぱり帰宅はアイスを途中で食べるのに限るね!」


 コーンの上に2つアイスを載せた華頂。誰よりも満足気で、隣の花染は最悪だと項垂れては自分のアイスを頬張る。


 「因果応報なんだけど、花染のその表情見ると罪悪感があるな」


 「そうか?俺はやられた側だから全く無いぞ」


 「俺は普通。美味しければそれでいいからな」


 「お金で解決とか、私の中で今後一切の悪辣を禁じることにする。ってか千秋くんには分かるけど、その他はただアイスを奢ってもらっただけじゃん」


 「だから罪悪感があるって言ってるんだ。優男だからな、そこらへんはしっかり気にする」


 謝罪を求めてる側ではないし、アイスを食べたいと思っていたわけでもない。故に無料で食べている気がして、アイスを味わえない。


 「優男ならもっと強めに姫奈を止めるよ」


 「ならやや優男ってことで」


 「それ優男じゃないよもう」


 机に伏して力を無くした姿は、手に持つアイスよりも溶けていて、パクっと食べればそれを愛おしく思わせるように笑顔を作る。悲しいのか幸せなのか、喜怒哀楽が激しく変わるのが花染の可愛いところ。


 5人で囲むテーブルは、周りに空きのテーブルしかないだけあって仲の良さを可視化させたよう。こういう誰が見ても分かる良さは、思い出にしたいと思うもの。


 せっかくだから写真でも撮ってやろうかと、スマホを起動する。が、そこに映るのは1件のメッセージだった。


 『忘れ物したの思い出して天方家で待ってまーす』


 伊桜からだった。忘れ物、それはきっと夏休みの時のだろう。家で待ってますなんて、もっと早くに気づくべきだったと若干冷や汗を流して申し訳なく思う。


 未だ暑さは残る今日、日陰とはいえ外で待たせるのは良くない。すぐにメッセージを送り返す。


 『悪い、遅れた。すぐ戻るからもう少し待っててくれ』


 少し心配性な部分もあるので、落ち着けなかったりする。伊桜だからというのもあるが、待たせてるというのが更に罪悪感も重ねて拍車をかける。


 「みんな悪い、置き配の荷物をそのままにしてたから、ここで先に帰らせてもらう」

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