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第111話 リムジンと三輪車




 私が購入したのは、アロマキャンドルだった。なんとなく、これからも家にお世話になることは多くあるだろうし、家中でリラックスして寄り添い合いたいと、そういう願望が入って決めた。


 もう私は、隼のことを好きなのは自覚しているから、これからは攻めに攻めるのも当たり前。家であれこれしたいな、なんて妄想を捗らせて、私は先の集合場所に向かう。


 手に持っているプレゼントが何かより、隼は何を買ったのか、それが気になって私は落ち着かない。私のために何を選んでくれたのだろうと、期待しすぎないように期待した。


 少しして戻ると、そこには既に隼が居て、座って何かを見てるように顔を上げていた。柱で見えなくて、何をそんなに見てるのかと、気になってその先を見ると、そこには2人の女性が居た。


 瞬間、その意味を理解した気がした。微かに声は聞こえて、私は柱に背を預けて、何を話すのかと耳を澄ませた。なんで隠れるようにしたのか、それは単に、何をしてるか気になったのと、私に対してどう思ってるのかが聞けると思ったから。


 他の女に話しかけられた苛立ちよりも、そんなことが気になる私は、やはり似合わぬ乙女になり始めてるのだと、恥ずかしくも理解していた。


 「何度も言いますけど、俺は待ってるんです。だから付き合えません」


 隼の、いつもより下がった声。突き放すような、嫌だと言う声。初めて聞いた。なんだかんだ、花染さんたちという仲のいい興味ある人としか喋るとこを見たことがないから、興味のない人にどう話すのか、今初めて知った。


 普通なら「ただいま」と、隼には私が居るのだと教えて、女どもを追い払うが、今回は好奇心が勝った。


 「えぇ、でも今1人だし、少し買い物しようってだけだよ?」


 「私たち女2人で寂しいの。だから、少しだけお願い」


 大学生とも見えるし、2つ上の高校生にも見える。ウザいくらいに顔は整っている。しかし、目の前の男は靡かない。


 「ここで待ち合わせしてるので、もしここに俺が居ないと、困るんですよ」


 「大丈夫!すぐだから」


 この女……。


 執拗に迫られるのを見ると、やっと女に囲まれるウザさと怒りが顕になる。我ながら、嫉妬は激しい方で、隼という友人としても好きな人としても、1人しかいない存在を独占したいという欲が、人並み以上に大きい私は、どうも短気だ。


 そして、短気の私が気分を悪くしても、そんな私をすぐに笑顔にするのが隼だった。


 「はぁぁ……」


 呆れて面倒だと、自分の中に覚悟を決めたかのように、隼は目を細めて言う。


 「では、2人に少し聞いてもらいたいことがあるので、それを聞いてくれた後なら良いですよ」


 「ホント?!聞く聞く」


 この時、私はいつもなら血管がはち切れんばかりに地団駄を踏んでいた。でも、何故だか、隼の澄んだ、どうでもいいような表情を見ると、安心して見ることが出来た。


 きっと、何かしらの不満を言われるのだと、共感して自分の暇潰しにでもしてやろうと考えている女は、立ったまま笑顔で頷いた。すると隼は言う。


 「俺はですね、毎日学校にリムジンで登校している、所謂御曹司なんです。今日もここにリムジンに乗って、その後幸せにモールを見回って居たんです」


 「えっ、そうなの?!」


 目の色が変わる。何を言うのかと、私もとても気になる。驚いた女2人に見向きもせず続ける。


 「そんな時にです。いきなりリムジンではなく、三輪車で毎日学校へ登校しろと言われたら、それに魅力を感じますか?リムジンから、三輪車()()に送り迎えをされて、俺は恥ずかしくて乗りません。確かに三輪車には三輪車なりの魅力がありますけど、残念ながら俺には今、何の魅力も感じれないんです。それで、今もそのリムジンを待ってるんですけど、お2人は三輪車に魅力を感じますか?」


 言われて女は固まる。その言葉の意味を、なんとなくでも理解したらしい。自分たちが、三輪車と形容されていることを。


 「あぁ……え?そういうこと?」


 そういうことだ。


 「つまり……女の子と来てるって……こと?」


 「じゃないですかね。リムジンなんで、少しこの人混みだと混むんですけど、そろそろ来ますよ。三輪車は流石に見劣りしますね」


 分かってる。遠回しに、優しく撃退するためだと。その上で、仕方なく突き放すように言っているのだとも。隼はお人好しだから、相手を不快にさせてまで断ることはしない。でも、今回は流石に嫌だったのか、強く否定してくれた。


 心臓が激しく鼓動する。今まで感じたことないほど速く、大きく。嬉しかった。相手の容姿が良くても、絶対についていかないと、興味ないと、私を優先してくれたことが。


 クスッと柱の後ろで笑う。見る人は、どうも変人に見えるだろう。けど、そんなのどうでもいい。隼が、私をリムジンだと言ってくれたから。人の目なんて。


 それから私は、もう良いかと満面の笑みで柱から離れた。行く先はもちろん決まってる。


 「ただいま」


 「あっ、リムジン来ました」


 「うげっ!」


 私の顔を見て、失礼にも情けない声を吐き出す。その意味は良い方向だったから、不快にはならない。


 「……こんなん……勝てるかい!」


 「そりゃうちら三輪車だわ……」


 「ん?この人たちは?」


 「あぁ、道に迷ってたらしくて」


 そんなの、嘘だって分かってる。これも、三輪車たちに対する優しさだろう。やっぱり、興味ない人にも優しいのは相変わらずだ。

 少しでも面白い、続きが読みたい、期待できると思っていただけましたら評価をしていただけると嬉しいです

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