第27話 悪役令嬢VS悪役令嬢
アンタレスとユージン。
共に大企業の中では新興となる両雄は、真正面からぶつかり合った。
「行くぞ!」
藍静雷嬢の狩る近接格闘型メタルレイス『一丈青』が大薙刀を振り回しながら突進してきた。
「小ネズミが!」
超重量型メタルレイス『アルピナ』が、巨大に改造された両腕を広げて迎え撃つ。
「面白い。最強の矛と最強の盾、どちらが上か試してみようじゃないか!」
漆黒の宇宙空間を、一丈青が華麗に舞う。白い剣閃が美しい三日月を描いて闇を裂いた。
「……どうやら、盾が上回ったようね」
アルピナの重装甲には傷1つついていない。
「それはどうかな?」
だが、その直後。胸部装甲の一部が激しい火花を噴いた。
「やるじゃない!」
アルピナの強烈なラリアットを紙一重で躱す一丈青。静雷嬢もまた、卓越した操縦センスを持っているようだ。アルピナの猛攻の合間を縫い、その懐に潜り込もうとする。
「させません!」
私はトリグラウを最大速度で突進させ、一丈青に切り込んだ。
「ちっ!」
高電圧ブレードが虚しく空を切る。だがそれでいい。アルピナと一丈青の距離を離すことには成功した。
「静雷の相手は俺がやる! エイミーさんは指揮に戻れ!」
藍浩然の狩る『青面獣』が一丈青に体当たりをかました。
「いいだろう。この姉が直々にお前の功夫を見定めてやる」
「だから! 3日早く生まれた程度で姉貴面をするな!」
2機のメタルレイスがぶつかり合った。――というより、まるで演武をしているように見えるほど両者は息がぴったりと合っていた。
共に青色を好み、高速格闘戦を好むあたりも、2人は血縁者であることを伺わせる。
「カラメル様、浩然様の援護を」
「え?」
カラメル嬢の戸惑った声。相変わらず甘い。
「静雷様の側には伏兵がいます。カラメル様のトゥールビヨンはその場にいるだけで牽制になるのです」
「わ、わかりました!」
その頃、お嬢様は――
「ケイティ! ボサっとしないで!」
「は、はいぃーッ!」
ケイティの乗る小型メタルレイス、『ステルビオ』がアルピナの巨体にへばりつくようにして切り裂かれた装甲の応急処置を始める。ステルビオは溶接用のバーナーや接着樹脂の噴出銃を搭載した修理専用の機体である。
「応急修理、終わりましたー!」
その間、我がアンタレス陣営とユージンの陣営は均衡した押し合いをしていた。
「待たせたわねレイチェル!」
臨時に指揮を執っていたのはレイチェルの『ユングフラウ』である。私のトリグラウを軽量化した姉妹機だ。
「個々の性能も技量もアンタレスが上ですが……。奴ら、損壊した我が陣営のパーツを奪っていきます」
「……どういうこと? 戦利品のつもりかしら?」
技術盗用にしてはあからさまに過ぎるし、そもそも量産機に盗用されるような技術はない。
「モルガン、あのポイントの映像を」
モルガンの索敵専用機『アイガー』から映像が送られてくる。
こちらのメタルレイスが1機、3機のユージン機に囲まれた。直後、爆発と思われる光が漏れ、敵機が散るとそこには鉄くずと化したアンタレス機が漂っていた。
「おそらく、重火器による狙撃ですね。パーツの強奪は証拠の隠滅でしょう」
メタルレスリングの規定では、使用可能な武装は近接戦闘用に限られている。
「いいわ。粉砕してあげる」
これまでのビビりは何処へやら、お嬢様は超重量機を最前線に吶喊させた。
「みんな、よく耐えたわ。ここから攻勢をかける。全員、私の後に続きなさい!」
灰色熊のように両腕を広げ、前進するアルピナ。その迫力にユージン側は明らかに気圧される。
訓練もあまり行き届いていないのだろう。中には腕部に隠し持っていたバズーカ砲(もちろん規定違反である)を撃ってしまう者もいた。
「そんな豆鉄砲がこのアルピナに効くものか! さあ遠慮はいらないわ。私を壁にして進みなさい!」
移動する城塞。これが本来のアルピナの戦い方である。
その圧倒的重装甲の前に、敵の雑兵たちはなすすべもなく押し返され、さらに背後に控えた軍勢によって粉砕されていく。
アルピナの死角に回り込もうとする猪口才な者も、モルガンのアイガーに補足され、私のトリグラウとレイチェルのユングフラウによって駆逐される。
仮にアルピナに傷をつけられたとしても、ケイティのステルビオによって回復してしまう。
「なるほど。守りの陣形と見せかけて、これはとんでもない攻めの陣形ではないか」
静雷嬢が看破した。
そう。『守りこそ最大の攻め』。それが我が主エイミーお嬢様の戦術構想である。
「ならば、本格的な攻城戦と行こう」
突然、ユージン陣営から妙な動きをするメタルレイスが1機現れた。それは、まるで蝶のように誰もいない宙域へふらふらと向かい、そこで突然爆発四散した。
どうやら、あらかじめプログラムされた無人機のようだ。
「ひえッ!?」
突然、通信機からモルガンの間の抜けた悲鳴が聞こえた。
「伏兵です! 敵信号多数! えーっと、300……500……700……ひゃあ1000を超えました!」
「どうやら、配置されていたスペースデブリに潜んでいたようですね……」
新たに湧いて出たユージンのメタルレイス。
だが、そのほとんどはパーツの一部が欠損していた。中には胴体と片腕しかないものもある。
「まさか、胴体だけ急増して、他はパーツをバラして頭数を増やしたんじゃ?」
「静雷様!」
私は敵将に緊急通信を入れる。
「彼らの操縦席の安全性は!? 安全装置は搭載されているのですか!?」
「それはユージンに対する侮辱かね? どこぞのフリーランス機体と一緒にするな」
「質問にお答えください!」
「安心して攻撃したまえ。搭乗者は全員、覚悟はできている」
「クソが!」
最後の言葉を言う前に通信を切ったかどうか、記憶があいまいだ。だが、仮に聞かれていたとしてもかまわない。
そちらは覚悟ができているのかも知れないが、こちらは違う。
決闘とは言え、これはあくまで演習の延長なのだ。人殺しになる覚悟などできていない。
「静雷ッ!」
浩然の青面獣が青龍刀を捨て、一丈青に体当たりをかました。
「覚悟だと? よくもぬけぬけと! だったらお前の機体は何だ!? 自分だけ最新鋭の機体に乗って、社民たちは使い捨てか!」
「ああ、わかっていないね、浩然」
一丈青は華麗な身体捌きで相手の突進をいなす。
「この『一丈青』はね、ユージンの未来図であり社民の希望なのだ。ユージンがこの宇宙に覇を唱えた暁には、すべての社民にこの機体を支給しよう。生涯にわたって飽食を保証し、飽くことの無い娯楽を提供しよう。たとえ今生に叶わずとも、この希望は子々孫々に受け継がれる!」
白い刃が閃く。
「なッ!?」
切り飛ばされた青面獣の片腕が虚空へと消えていく。
「勝利だよ浩然。勝利だけがこの宇宙で唯一の正義、唯一の理なのだ」
ここまでお読みいただきありがとうございます。
続きが気になるという方は、広告の下にある☆☆☆☆☆より評価をしていただけると嬉しいです。
今後ともよろしくお願いいたします。




