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捕虜

 先の戦いで魔物は人間に勝ちました。多くの人間を殺し、多くの人間を捕まえました。

 捕まえられた人間たちは城壁内に連れてこられ、ひとつの建物に入れられました。人間たちはきっと自分たちは殺されるのだと怯え、今にも泣き出さんばかりでした。

 魔物の長は戦いの後始末を終えるや、人間たちのいる建物に入りました。

 人間たちは魔物の長の顔を知っていました。彼らにとって、長は恐怖の象徴でした。長が入ってきたことで人間たちの恐怖は最高潮に高まりました。

「魔物の長をやってる、ハイゼベルクだ。とって食いやしない。そんなに怯えるな」

「な、なら、どうしようってんで?」

 ハイゼベルクの言葉を聞き、ひとりの人間が答えました。ハイゼベルクはその男を見てかっと目を見開きます。

「お前らにはまず、飯を食ってもらう」

 人間たちはぽかんと口を開けました。説明を求める間もなく食べ物が運ばれてきます。人間たちは激しい戦いのあと何も食べていませんでしたから空腹です。目の前に食べ物を積まれると疑問も消え、一心不乱にかぶりつきました。

 山と積まれた料理もあっというまになくなります。人間たちは腹を満たし、ハイゼベルクへの恐怖も束の間忘れていたらくらいでした。

「もう飯はいいな」

 しかし、ハイゼベルクが一言発すると人間たちは囚われの身を思い出します。もしかしてこれは最後の晩餐だったのではないかと恐ろしくなってきました。

「では次は、身体を洗ってもらう」

 人間たちは再びぽかんとしました。

 近くの小川に連れてこられた人間たちは布を渡されました。身体を洗うと、麻布の服まで出てきます。

 着替えるともう夜は暮れていました。人間たちはハイゼベルクに連れられ、大きな屋敷に連れてこられます。

 それはハイゼベルク自身の家でした。人間たち全員が入ると、ハイゼベルクは椅子にどかっと腰掛けます。

「では次だ」

 途端にハイゼベルクの表情が変わります。冷たく、鋭い目。獰猛ながらも理知的な、全てを見通す優れた指導者の表情。

 人間たちはごくりと唾を飲みます。

「お前らの知ってることを教えてもらう。人間の集落のあり方、伝統、使う道具、指導者のこと。すべて話せ。まずはお前らを率いて戦っていた男のことだ」

 長にとって、人間たちの情報はたいへんな価値を持ちます。ドッペルゲンガーも送り込んでいますが、やはり直接話を聞けるならそれに越したことはありません。

 人間たちに断ることはできません。誰からともなく、ぽつりぽつりと、話し始めました。

 その男の名はリア王。すべての人間の上に立つもの。男たちの憧れであり、すべての女は王の妻になることを望む。人気者で、誰とでも仲良くなれる、会う人全てに好かれる、完璧に充実した人生を送る者。

 人間たちの集落は国と呼ばれている。国はとある家の男子に代々治められてきた。リア王も当然、その家の人間だ。リア王の子が、次の王となる。

 ハイゼベルクは、人間の国では魔王と呼ばれている。当然、人間たちにとって魔王は絶対的な悪だ。残忍で、卑怯な手を使う暴君。

 リア王は当初こそ土地を奪うために魔物を襲った。しかし、ハイゼベルクに負けたことで、今では魔物の存在そのものを憎んでいる。

 人間たちは神と呼ばれる存在を信じている。リア王はそれを利用した。

 神はこの世界を創った者。魔物は神にとっての失敗作であり、神の似姿である人間は魔物を滅ぼさなければならない。王はそう言った。

 人間にとって王の言葉は絶対。リア王は魔王と、その眷属たる魔物を滅ぼすまで戦いをやめないだろう。

 そう、人間たちは語った。ハイゼベルクはすべてを聞き終えると、人間たちを大部屋へと誘い、そこで眠るよう命じた。ハイゼベルクもまた、自身の寝室に入る。しかし眠ることはなく、これからのことについて考えていた。

 人間は魔物への攻撃を止める気はない。リア王が死ねば終わるかもしれないが、何十年も先のことだろう。ならばこちらから人間たちの国に攻め込み、魔物には手を出さないと誓わせるしかない。そのために必要となるものは何かを数え上げ、計画を練り上げる。

 空が白む頃、ハイゼベルクの頭の中ではすべてが出来上がっていた。

 最初にすべきは知ること。魔物の集落から人間の国までの道のり、周囲の地形を知る。

 ハイゼベルクはレイヴンと呼ばれる魔物を呼び出す。それは烏のような姿の魔物で、力の強い魔物はそれを使役することができる。主人たる魔物はレイヴンの視界を共有し、レイヴンの見たものをそのまま見ることができる。

 ハイゼベルクは窓からレイヴンを解き放った。ハイゼベルクの意思のまま、二羽のカラスは大空へと羽ばたいていく。

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