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二重の城壁に囲まれた地

 人間との戦いに勝った魔物たちでしたが、安心はできません。今回はうまくいきましたが、相手の出方によっては負けていた可能性もあります。

 もし人間の数が多ければ負けていただろう。もし人間が何か道具を使って壁を壊すことに成功したら負けていただろう。もし人間たちの奇襲がうまければ壁に逃げ込む隙を与えてくれなかっただろう……。

 すでに二度攻められているのです。三度目もきっとあります。そして三度目は人間たちももっとうまく攻めてくるはずです。

 対応しなければなりません。しかし、対応策をほどこすには時間が必要です。では、時間の余裕はどれだけあるのかが問題になります。

 魔族の長は一計を案じました。

 まず、ドッペルゲンガーという、人間そっくりの魔物を呼び出しました。長はドッペルゲンガーに命じます。人間たちの村に忍び込み、魔物の村に攻めてくる気はあるのか否か、あるとすればいつ来るつもりなのか、と。

 ドッペルゲンガーはすぐに出発します。これで敵の情報が手に入れば行動計画が作れます。

 とはいえ、ドッペルゲンガーが帰ってくるまでの時間を無駄にする気もありません。それにもしかしたら人間にバレて殺されるかもしれませんし。もしドッペルゲンガーが殺されたら、その帰りをいつまでも待つのは間抜けすぎます。

 長はいくつか思いついている対応策のそれぞれの作業に優先順位をつけ、重要なものから手をつけていくことにしました。

 一番は使える魔物の数を増やすことでした。この年新たに成体した魔物五百体を、戦えるよう訓練します。これで使える数は二千になりました。

 さらにこの二千は五百ずつに分け、それぞれに隊長を立てました。これは前の戦いの反省を活かしたものです。あのときは五百と千に分けて運用しましたが、まず組を分けるのに時間がかかり、さらに作戦の説明にも苦労しました。最初から五百ずつに分けていればそれぞれの隊長に作戦を説明するだけで済みます。

 二番目は高い櫓を作ることです。高いところから見張っていれば敵が近づけばすぐにわかります。敵を早く見つけることができれば壁に逃げ込む時間の余裕も増えます。

 こうして二つの作業を終えたころ、ドッペルゲンガーが帰ってきました。さっそく報告を聞きます。

 いわく、人間たちの村では、魔物を攻めたことで多くの仲間が殺され、悲しんでいる。敵将の男はそのことで非難を受けたが、必死に弁明した。魔物がいかに卑怯な戦い方で同胞を殺したかを語り、人間たちの悪感情を魔物に向けることで、自分を守ったのだ。これによって敵将はその地位を保ったが、魔物へは明確な敵意を持つようになります。人間たちは魔物を殺さんと息巻いていますので、戦いが起こることは明らか。

 とはいえ、もうじき冬です。魔物への国の途中には険しい山脈がありますが、冬は雪がふり、道が凍り、通過は不可能となります。戦いは翌年の春に持ち越しと決まりました。

 長はドッペルゲンガーからの報告を聞き、この冬いっぱいは作業に使えることを知りました。さっそく次の作業に取り掛かります。

 三番目は壁の外側に広がる畑を、さらに大きな壁で囲むことでした。村を作り直すときはできないことでしたが、今は生活に余裕がありますし、冬は農作業もないので工事に人手を回せます。新たな壁は分厚くし、壁の上に乗って戦うための空間をもうけました。門は東西南北にひとつずつ、さらにその四つの間にひとつずつ、合計八つ作ります。

 壁を作り終えてもまだ時間があります。長は残りの時間を利用して戦いの練習をすることにしました。新たに五百増えて二千になったとはいえ、やはりまだ敵のほうが多い。勝つためにはうまく戦うしかありません。

 長は四つある五百体の隊を二つずつにし、左右に分けて戦わせました。

 何度も繰り返しているうち、長は勝ちやすい戦い方を見つけていきます。

 長は雑多な五百体を整然と並べました。横に五十人の横隊、一列あたり十人。これで最初に五十人が戦い、前の者が倒れたらすぐさま二人目が前に出て戦います。また、横隊の感覚は武器一つ分あけることで戦いやすくしました。これで戦い方が決まりました。

 最後に武器です。前回は太い丸太や農具など、各々適当な武器を持っていましたが、手頃な長さの棍棒で統一しました。さらに猟師が使っていた弓矢に着目します。投石はやめ、弓矢を使うことにしました。

 春の陽射しが川の氷を溶かし、ユキノシタの花が顔を出す頃、すべての準備は整いました。

 そしてドッペルゲンガーの情報通り、冬明けを期して人間たちが魔物の村へと出発します。

 二度目の戦いがはじまります。

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