人と魔物
その世界には二つの村があった。ひとつは人間の村。もうひとつは魔物の村である。
人間たちはイケイケリアリアだったので産みまくり増えまくり、人口過多となる。自分たちの村では食料の調達が困難となり、新たな農地が必要となった。そこで人間たちは魔物の村に目をつける。魔物の村は非常に豊かな土地だ。自分たちで開墾するより魔物から奪った方が手っ取り早い。
そうと決まると人間たちはさっそく行動に移します。魔物の土地を奪おうと、大挙して押し寄せました。魔族は完全に不意を突かれたために抵抗できず、村を明け渡します。
こうして人間たちの食料問題は解決しましたが、魔族たちは土地を失いました。魔物は彼らの長に率いられて新たなる土地を探す旅に出ました。人間たちは西から来ましたので、東へ東へと逃げます。途中には険しい山脈があり、また大きな川もあり、過酷な道のりでした。それでも旅を続け、ようやく農耕に適した豊かな土地を見つけます。
魔物たちはさっそく新たな村作りに取り掛かりました。しかし、何も考えずに村を再建したのではありません。魔物の長は旅の途中、もしまた人間たちが攻めてきたらどうすればいいかをずっと考えていました。最初に思いついたのは村を壁で囲むことです。しかし、そんな大きな壁を作るのは大変な作業です。家や農地も作らなくてはならない中、そんな余裕はありません。そこで、村の中心に、魔物を全員入れられるだけの壁を作ることにしました。これで、奇襲を受けてもすぐに壁の中に逃げ込めばいいのです。
しかし、逃げ込んだだけでは壁の周りの土地は取られてしまいます。敵を追い払うためには戦うしかありません。そこで、魔物たちを鍛えて戦いにも備えることにしました。
こうして新しい村は長の考え通りに作られました。
新たな村の力を試す機会はすぐに訪れました。またしても人間たちが攻めてきたのです。
魔族たちはあらかじめ言われていた通り、壁の中に入りました。人間たちは魔族を追いかけ、壁を囲みます。長はこれを見て、すぐに反撃するのではなく、まずは敵をよく観察しました。すると、あることに気付きました。敵の数はざっと三千人。魔族は人間ほど数が多くないので、戦える人数は千五百匹ほど。どうしても不利です。
しかし、敵は城壁を囲み、薄く広がっています。壁には東西南北に門がありますが、それぞれの門の前に五百人ほど。これなら相手が連携できないようにすれば千五百で五百を攻撃することも可能です。
さらによく見ると、敵はひとりの男に率いられていました。金髪で整った顔立ち。他の男たちは麻の布をまとうだけなのに、その男だけは革の鎧を着ています。
長の中で考えはまとまりました。あとは好機を待つだけです。
待っている時間も無駄にはしません。まずは魔物たちに作戦を説明し、迷いなく動けるようにしました。戦いで力が出せるよう、蓄えていた食料をふんだんに振る舞います。夜が近づけば、魔物五百体を静かに壁の上にあげ、残りの千体は長自ら率いて西の門の前に集まりました。
月が真上に登ったのを見ると、長は松明をふります。壁の上の魔物の一体がそれを確認したら、手を振ってきました。準備ができた合図です。
壁の上の魔物たちは一斉に外の人間に向かって石を投げつけました。高いところから投げられた石は十分な殺傷力を持っています。
投石と同時に門が開かれ、長と千の魔物が飛び出しました。
鬨の声が地を揺らします。
居眠りしていた人間たちは飛び起きて武器を探りますが、暗いうえに慌てているので大混乱。あっというまに最前列にいた人間たちが殺されました。それを見た人間たちは、あるものは逃げようとし、あるものは戦おうとして、互いにぶつかり合い、混乱に拍車がかかります。
「うろたえるな! 武器を持ったものから前に行け!」
敵の大将が声を張り上げます。長はここで敵に体勢を立て直させる気などありません。いっそう激しく攻撃します。
「みんなをここへ集めろ!」
敵将が近くのものに命じますが、ほかの門の前にいる人間たちも投石の攻撃を受けていますから、そう簡単には駆けつけられません。すべて長の作戦通り。
状況が一向に良くならず、敵将は舌打ち。
「くそっ……卑怯なやり方を」
「手前勝手な都合で人の畑奪おうとしてるやつが何が卑怯だ!」
男の言葉に、長が咄嗟に答えます。二人の目が合いました。互いに睨み合います。逡巡ののち、敵将は叫びました。
「逃げるぞ! みんな、僕たちの負けだ! みんな逃げろぉ!」
命令が出ると、人間たちは一斉に逃げ出します。あとには自分では立つことのできない怪我人が残るだけ。
「勝った……勝った! 勝ったぞぉ!!!」
長の雄叫びに合わせ、魔物たちも歓声をあげます。
こうして、この世界ではじめての戦ははじまり、終わったのでした。