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冥膳明の見上げた満月は光の屈折で歪んでいた。
低体温によって手足の感覚はなく、心肺機能が停止に向かっているのを感じる。
自分は生まれるのと逆の順序をたどっていると明は思い至った。
赤子が母体の産道をとおった先にあるのは、あの満月が照らす世界だ。
明はそれとは逆に虚無の世界へ還ろうとしている。
後悔はない。
十七歳にしては人並み以上の功績を残し、使い古されてチープささえ漂う天才という称号を世間から与えられた。
水面に降り注ぐ満月の青光はすでにとどいておらず、このまま暗い湖底へと落ちていくだけだ。
あとは彼に見極めてもらうしかない――明が水中で最期に意識したのはそれだけだった。