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長年の想い

「えー!? 冷凍食品ってバレちゃったの!? ヤバイじゃん!」


 羽衣は目を丸くして驚く。


「あたしもヤバッて思ったんだけど、なんか許してくれた。好きなレイショクだって喜んで食べてくれたし」

「なにそれ!? マジ、いいヤツじゃん、優太」

「でしょー?」

「調子になってノロケんな」


 禁止と言われてもにやけてしまうのは止められない。


「てか羽衣が料理できないからこんなことになったんだからね」

「はぁ? ウチのせい? お菓子は得意だけど料理は無理なの」


 せっかく優太の誘いを断ってまで料理特訓をしたのに結果はさんざんだった。

 料理下手が二人でわちゃわちゃしたところで料理が上手くなるはずがない。

 やっぱママかバイト先の店長に教わった方がよかった。


「にしても、まさか美依奈が彼氏にお弁当作るとはねぇ」

「なによ。別によくない?」

「あーあ。ウチも素敵なカレシ欲しいなぁ」

「からかうな! そもそもテキトーに選んだ彼氏な訳じゃないんだからね!」

「はいはい。運命の相手なんだよね」

「そう。小学四年生からの恋なんだからね!」


 あたしと優太が出会ったのは高校ではない。小学四年生の頃だ。って、優太はそれを覚えていないんだろうけど……


 うちの小学校に転校してきた優太はわずか一年でまた別の学校へと転校していった。電車を何本も乗り継がなきゃいけない、遠い遠いところへと。

 たった一年だったけど、その一年はあたしにとってすごく大切な一年だった。

 あのときの約束を、今でも優太は覚えてくれているのだろうか。

 そんなことを思うと胸がきゅっと痛んだ。


「優太にはもう訊いたの? 小学生時代のこと」


 羽衣の質問にブンブンと首を降る。


「言えるわけないし……」

「なんでよ? 付き合ったんだし訊けばいいじゃん」

「やだよ。忘れたとか知らないなんて言われたら、絶対立ち直れないし」

「別にいいじゃん。忘れてたところでもう付き合ってるんだし。笑い話で済むでしょ?」

「済まないよ! 少なくともあたしはそれじゃ済まないの!」


 思わず声が大きくなってしまうと羽衣に「ごめん」と謝られてしまった。


「美依奈にしたら大切なことだもんね。無神経なこと言ってごめん」

「ううん。あたしこそごめん」


 今のあたしがいるのも、あのとき優太がいてくれてからだ。

 それくらいあたしにとっては大切な思い出だった。

 突然優太が転校すると聞いたときは泣きながら怒ってしまった。

 最後のお別れの時も怒ってしまい、口もきかなかった。

 そのことをずっと後悔して生きてきた。


 だから高校で優太を見たときは心臓が破裂するほど驚いた。

 そしてこれは運命だと感じた。

 それなのに二年になるまでコクれなかったのはあたしに度胸がなかったからだ。


「てかせっかく付き合ったのになんで今日もウチと帰ってるの? もしかして一緒に帰ろうって誘って断られたとか?」

「ううん。今日も優太が誘ってくれたけどあたしが断ったの」

「はぁあ? なんで?」

「だって二人きりで帰るとか緊張するし……なに話していいか分からなくてパニクりそうだし」

「そこは頑張らないと。なんのためにコクって付き合ったと思ってんのよ!」


 羽衣の言う通りだ。

 せっかく誘ってくれた優太にも申し訳ない。


「じゃあもっと学校で話しして慣れていったら?」

「うーん……でもなぁ」

「悩む必要ある? 別にみんなに付き合ってることバレてもいいでしょ?」

「それは、ほら……優太に迷惑かかるかもしれないじゃん?」


 濁して言うと「あー、そっか」と羽衣も理解してくれる。

 どこがいいのか知らないけれど、あたしにコクってくる男子は意外と多い。

 優太以外興味のないあたしはもちろんすべてその場で断ってきた。


 そんなあたしが優太と付き合い出したと知ったら嫉妬して優太に危害を加えるヤツが現れるかもしれない。

 そんなの絶対イヤだから学校では誰にもバレる訳にはいかなかった。


「でもこのままじゃ付き合った意味ないよ」

「分かってるってば」

「週末デートしてきなよ」

「デ、デートぉ!? ムリムリムリムリ!」

「いいじゃん」

「だってあたし、デートとかしたことないし」

「ウチとはよく遊びに行くっしょ? それとおんなじだって」

「じゃあ羽衣も来て!」

「はぁ? それじゃデートじゃなくなるでしょ?」

「あ、そっか……」


 でもいきなり二人きりはハードルが高すぎる。


「ぼやぼやしてると優太、他の女に取られるかもよ? ていうかウチが奪っちゃうかも」

「駄目ッッ! 絶ッッ対ダメだかんね! 優太はあたしのカレシなんだか! たとえ羽衣でも渡さないんだから!」


 思わず叫んでしまうとまた羽衣に頭を撫でられた。


「冗談だって。可愛いなぁ。でもそれくらいの気合いで頑張ればなんとかなるよ」

「うー……分かった」


 確かに羽衣の言う通り、いつまでも逃げていられない。


「直接会って誘うのが恥ずかしかったらメッセージでもいいし」

「なんて誘えばいいの?」

「そんなの自分で考えなよ。自分のカレシ誘うんでしょ」

「分かんないよぉ」

「重くなりすぎないよう、軽い感じで可愛らしく。でもチョロい女だと思われないようにね」

「難しすぎる! 羽衣も一緒に考えて!」

「ダメ。自分で考えなさい」

「うー……」


 厳しい羽衣に涙目になる。

 せっかく優太と付き合えたのにコクる前より緊張してしまう。

 なんだか恋愛って思っていたより難しい。

 

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