冷凍食品の詰め合わせ
「やっぱりウソ告白で間違いなさそうだ」
放課後、世界的ハンバーガーチェーン店に行き、ニヤリと笑いながら淳之助にそう告げた。
「なんで分かるの?」
「朝、昇降口で挨拶したら迷惑そうな顔してたんだ。で、『クラスのみんなに知られたくないから馴れ馴れしくすんな』って言われた」
「朝だから眠くて機嫌悪かったのかもよ? 人に知られたくないっていうのも、別によくありそうな話だし」
淳之助は一応美依奈さんのフォローをしてくる。
「それだけじゃない。お弁当作ってきたって渡したら引き攣った顔して『はぁ!? 優太があたしのお弁当を!? マジ、信じらんない!』って嘆いていた。普通彼女なら照れたとしても、もう少し喜ぶだろ?」
「確かに。ってか優太がお弁当作ってきたの!?」
「もちろん」
「優太は料理が異常に得意だからなぁ。あれ食べさせられたら普通の女子なら『自分よりはるかに上手い』って凹むよ」
「まあそれも含めて美依奈さんへの返り討ち作戦だから」
「料理で女子にマウントかぁ。優太は容赦ないね」
「まぁね。やると言ったらやる男だよ、僕は」
作戦はそれだけじゃない。
騙されたフリをして喜ぶことも大きな作戦のひとつだ。
やけに嬉しそうにし、優しく接していく。
そうすることで人を騙したという罪悪感を彼女の中で膨らませる狙いだ。
良心が傷んで、もがき苦しむはずだ。
「それだけじゃないよ。食べてる最中も『こっち見んな』とか言ってたし。そのあと一緒に帰ろうって誘ったら急に『用事があるから無理』って断ってきてさ。なんの用事って訊いても絶対に答えないし。あれは絶対ウソだよ。単に僕と帰りたくないだけだ」
「そっかぁ……そんなに状況証拠があるなら、そうなのかも……割りといい人なのかなって思ってたからショックかも」
淳之助はポテトを摘まみ、寂しそうな顔をする。
「いいヤツ? 美依奈さんが?」
「うん。誰とも分け隔てなく話すし、落ち込んでる友だちとかよく励ましてるし」
「へぇ。あの美依奈さんがねぇ」
意外な話を聞き、ちょっと見直しかける。まあ、ほんのちょっとだけれど。
「そういえば今日は僕にも話し掛けてきたよ」
「え、そうなんだ? なに言ってきたの」
「あたしらが付き合ってること、誰にも言わないでねって」
「なんだ、それ! 淳之助にまで口止めしてきたんだ! ウザい!」
少し見直しかけていた気持ちも一気に吹っ飛ぶ。
僕だけじゃなく親友にまでそんな脅しをかけてくるなんて許せない。
「そんな強い口調じゃないよ? お願いするって感じの穏やかな言い方だし」
人のいい淳之助は慌ててフォローしていたが、僕の怒りは収まらなかった。
家に帰ると美依奈さんからメッセージが届いた。
『みぃ』とかいうアカウント名でアイコンは長い爪のピースサインだ。
メッセージの内容は『明日はあたしが優太の分のお弁当も作って持っていくから』というものだった。
どんなものを持ってくるのか、それで美依奈さんの態度が更に分かる。
僕はニヤリとほくそ笑みながら返信を打つ。
『それは、楽しみだなぁ』
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「こ、これ……お弁当、なんだけど」
昼休み、例の部室で美依奈さんはやけにオドオドと弁当箱を渡してくる。
まるで毒を仕込んだものを食べさせようとするかのような挙動不審さだ。
まあ、まさかそこまではしないだろうけど。
「へぇ。ありがとう」
さっそくふたを開けて確認する。
「ゆ、優太みたく、上手くはないかもしんないけど……」
中身を見て驚いた。
上手いとか下手というレベルの話じゃない。
おかずはすべて冷凍食品だ。
串を抜いたり、形を崩してバレないように手作り感を醸し出しているところが余計にあざとくて不快感を覚える。
ご飯には海苔やふりかけを散らしているが、粗熱も冷まさずにふたを閉めたのだろう。べっちょりとそれらが蓋にくっついていた。
「これ、美依奈さんが作ったの?」
「う、うん。てか見てないで食べなよ!」
目を逸らしながら答える。
お弁当を作るという行為をしてウソ告白だとバレないようにリアリティーを醸し出したつもりなんだろうか?
それとも手作り弁当もらって喜ぶ僕を影で笑うのが目的だろうか?
どちらにせよ故意に騙そうとする態度が悪質だ。
「そっか。冷凍食品かと思ったよ。ありがとう」
わざと騙された振りをしつつそんな皮肉をぶつけてやると、美依奈さんは所在なさげに耳を赤くして俯いた。
いい気味だ。
「……ごめん。それ、冷凍食品なんだ。やっぱ料理できる人なら気付くよね」
「えっ……」
意外にも誤魔化さずに正直に認めて謝ってきた。予想外の展開に驚いてしまう。
「そうなんだ。当てちゃってごめん」
なんだか気まずくて謝ると、美依奈さんは困った顔で僕を見た。
「ほんとは自分で作ったんだよ。これはホントだから! だけど、全然ヘタクソで。これは食べさせられないなって……ごめんね。ウソついて」
目を潤ませて謝ってくる姿に、思わずドキッとした。
普段はギャル特有のメイクや髪型にばかり目がいくが、こうして近くで接すると整った顔立ちがよく分かる。
「気にすることないのに。それにこのレイショク、僕の好きなヤツだから嬉しいよ」
苛めすぎるのも可哀想なのでそうフォローして唐揚げをかじる。
安定の美味しさだった。
「優太は優しいよね」
「そう? 普通だけど?」
「あたしもちゃんと料理覚えてまともなお弁当作るから」
「別にいいって。僕が作るから」
「そういうわけにはいかないし! か、彼女としては……」
僕なんかの彼女を名乗るのはウソでも嫌なのか、恥ずかしそうに顔を伏せてモジモジしている。
きっとこの出来事も仲間たちに面白おかしく報告して笑い者にするのだろう。
美依奈さんのつむじを見ながらそんなことを考えていた。