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念願の彼氏

 優太が化学室から出ていってしばらくしても、まだ心臓はバクバクしていた。

 やった……

 あたし、優太と付き合えたんだ……

 ウソみたい……ヤバい、無理。超嬉しいんですけど……


「やったじゃーん、美依奈! おめでとう!」


 羽衣がロッカーから飛び出して笑いながら駆け寄ってくる。


「ありがとう、羽衣!」とあたしは羽衣に抱きついた。

「もう! あんな雑にコクるから駄目かと思ったよ」

「だって恥ずかしいし、緊張しちゃったから」

「それにしてもあの言い方はないと思うよ」

「やっぱそうかな……」


 一瞬フラれそうになって思わずきつい言い方になったのは、我ながらマズイと感じていた。


「でも良かったじゃん。美依奈が言う通り、いいヤツだね、優太って。あんな上から目線の適当な告白でもちゃんと受け止めてくれて。普通フラれてるよ」

「でしょ? でしょ? 昔からいいヤツなの、優太は」

「ちょ? もうノロケ? 勘弁してよね」


 羽衣は呆れ顔であたしの頭を撫でる。


「まあ、美依奈みたいな可愛い子にコクられて断る奴なんているわけないか」

「はあ!? あたしなんて全ッ然可愛くないし! それに優太は人を外見で判断するようなヤツじゃないの!」

「だからぁ、ノロケはやめてって言ってるでしょ」


 こんな幸せを共に喜んでくれる親友がいることに感謝した。

 怖かったけど勇気を出してコクってよかった。今は心からそう思う。


「てか美依奈、優太と連絡先交換した?」

「あ……忘れた」

「もう。明日訊きなさいよ」

「えー? 無理。ハズイし! 羽衣が代わりに訊いて!」

「なんでウチが訊かなきゃいけないわけ? 美依奈の彼氏なんだよ?」

「ふふ……優太があたしの彼氏かぁ」

「ノロケるの禁止だからね?」

「さーせん」


 そう言われてもどうしてもにやけてしまう。

 今日から優太は彼氏なんだ……

 すごく嬉しいけれどなんだか照れくさい。



────────────────────────


「おはよー!」


 翌朝。昇降口で優太が陽気に声をかけてきて肩をポンと叩いてきた。

 いきなり過ぎて恥ずかしく、キョドりそうになってしまう。


「ちょっ。学校ではあんまそういうことしないで」

「なんで? 彼氏でしょ?」

「そ、そういうの、あんまクラスのみんなに知られたくないし!」


 ついそんなリアクションをしてしまう。本当は嬉しいくせに、素直じゃない。

 自分の可愛くない性格に嫌気が差す。


「へぇ。付き合ってることをクラスメイトには知られたくないんだ? 分かった」


 優太は怒った様子もなく、ニヤッと笑ってそのまま教室へと早足で行ってしまった。

 ああいう優しいところも好き。だいすき!

 顔も好きだし、声も好き。性格はもちろん、なんなら匂いも好き。

 って匂いはちょっと変態っぽいか。反省。


 入学から二年。ようやく告白して付き合えたんだ。

 大切に関係を築いていかなきゃ。

 まあ、優太はあたしのことなんて、なんにも覚えてないみたいだけど……


 教室に入ると、いつもと変わらない空気にほっとする。

 誰にも付き合いはじめたことはバレてないようだ。口が固いところも優太らしくて好き。

 優太はいつも一緒にいる親友の淳之助と今朝も話している。

 二人ともあたしの方を見ていたが、目があった瞬間逸らされた。


 きっと淳之助には付き合いはじめたことを教えたのだろう。

 あたしも親友の羽衣にだけは教えてるし、それくらいはいいか。

 嬉しくてつい親友には話しちゃったんだよね? 分かる、その気持ち。

 でもそれ以上広がらないように釘を刺しておかなくちゃ。



 昼休みになると優太がスッとあたしのそばにやって来る。


「お弁当作ってきたから一緒に食べよう」

「はぁ!? 優太があたしのお弁当を!? マジ、信じらんない!」


 そんな嬉しいイベントがあるなんて!


「嫌なの?」

「ま、まぁ、別に? いいけどさ」


 あまりはしゃぐとチョロい女だと思われるのでさらっと返しておく。

 羽衣から教わった『恋愛の駆け引き』だ。

 でも心臓はバクバクだった。

 あまり従順すぎると飽きられるし、突っぱね過ぎると当然嫌われるらしい。駆け引きって難しいかも……


 昼休みは誰も来ないという部室棟の空き部屋に優太が連れていってくれた。


「はい、こっちが美依奈さんのお弁当」

「うわっ! すごっ!」


 エビフライとちくわの磯辺揚げ、タケノコの煮物、卵焼きなどがきれいに詰められている。

 どう見ても手作りだ。美味しさだけではなく、健康管理も考えられたお弁当だ。

 一口食べるとその美味しさに驚かされた。


「なにこれ! おいしい!」

「ほんと? よかった。卵焼きはちょっと焦げちゃってごめんね」

「まさかこれ、優太が作ったの!?」

「そうだけど?」


 ヤバイ……

 優太ってこんなに料理がうまいんだ……ウケる……

 あたし、全然出来ないんですけど……


『料理も出来ないんだ?』と呆れられる未来を予想してゾッとする。

 これはすぐにでも料理の特訓をしなきゃいけない。

 羽衣は前にお菓子を作ってた。きっと料理も出来るに違いない。教えてもらおう。

 さっそく今日の放課後から特訓しなくちゃ。


「どうしたの、美依奈さん。怖い顔して」

「な、なんでもない。てかあんま人の顔ジロジロ見んなっ!」


 照れてるのバレるし!


「そう? 僕とお弁当食べるのが嫌なのかと思ったよ」


 優太はにっこり微笑む。

 その笑顔は犯罪的に可愛い。

 嫌なわけないっしょ!

 超嬉しいんですけど!

 なんて素直に言えるはずもなく、さっと目を逸らす。


「そうだ美依奈さん。今日は一緒に帰ろうか?」

「えっ!? きょ、今日!?」

「そうだよ。恋人は一緒に帰るものなんでしょ? それともなんか都合悪かった?」

「今日は……」


 羽衣と料理の特訓をするつもりだった。

 でも正直に言えば料理が出来ないのがバレる。


「今日は、その……ちょっと用事があって」

「ふぅん。わかった」

 

 ああっ!

 せっかく優太から誘ってくれたのに!

 でも優太は怒った様子もなく、ニヤニヤと笑っている。


 そういえばコクってから優太はよくニヤニヤ笑う。

 普段の笑い方とちょっと違う気がする。

 なにかを企んでいるような笑顔だ。

 きっと彼女にはこんな笑い方するんだろう。


 優太の特別な存在になれたんだと改めて嬉しくなった。

 マジ、無理。幸せすぎて死ぬ。


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