バレーボール特訓っ!
最近昼休みにましろのバレーボール特訓をしているから優太とお昼を一緒に食べられない。
残念なことだが、今は球技大会までにましろがある程度上達することの方が大切だ。
一緒の時間が減ってごめんと優太に謝ったが、「全然いいよ!」と明るく返してくれた。
やっぱ優太は優しくて理解のある自慢の彼氏だ。
欲をいえばもう少しだけ寂しそうにはして欲しかったけれど……
昼休みの体育館は空いている。
あたしらの他には誰もおらず、バレーを練習する音だけが響いていた。
「そう、今の感じ!」
「うまいじゃん!」
ましろがいいトスを上げ、あたしも羽衣も声を上げた。
「はい!」
ましろは汗も拭かずニッコリと笑う。
特訓を始めた頃は飛んでくるボールを目を閉じて顔やら頭に当たることもあったが、この頃はちゃんと目を開けてボールを受けれるようになった。
「そろそろ休憩しない? 疲れたっしょ?」
「大丈夫です。コツも掴んできたのでこのままお願いしますっ!」
トスの姿勢で訴える姿は昭和臭漂うスポコン漫画そのものだ。
付き合ってみて分かったけどましろはスゴい根性がある。
「あたしらが疲れたの。休憩させて」
「あ、はい。すいません。分かりました」
「だから敬語禁止ね。ウチらクラスメイトなんだから」
「そうだった。ごめん」
タオルで汗を拭きながらましろが笑う。
ミドルヘアの黒髪ボブで眼鏡っ娘のましろは『委員長』って感じでかわいい。
「今日はサンドイッチ作ってきたの」
「うわっ、マジ!?」
特訓が始まってからましろはあたしらのお昼まで作ってきてくれている。
これが異常なほど美味しい。
悪いからあたしらが飲み物買ったり、帰りにアイスやポテトとか奢ったりしていた。
みんなでわいわいと食事をしていると優太の友だちの淳之助が姿を表す。
体育館に用事かなと見ていると、まっすぐに私たちの前にやって来た。
「無理やりましろを練習に誘うの、やめてくれませんか?」
「…………は?」
なんだか知らないけど淳之助は怒っている。
「ましろは元々運動が苦手で身体も強くないんです」
あまりの勢いに唖然としてしまい、あたしらは「はぁ」としか返せなかった。
淳之助はましろが作ってきてくれたサンドイッチを見て、更に顔を強張らせた。
「それ、ましろの作ったサンドイッチですよね? なんで美依奈さんたちが食べてるんですか?」
「それは、まあ……ましろが作ってきてくれるから」
「もうましろと関わるのをやめてください! 行こう、ましろ」
「待って、淳之助くん」
ましろは真剣な顔で淳之助を見詰めた。
「なんか勘違いしてる。私が美依奈さんや羽衣さんに練習を付き合って欲しいってお願いしたの」
「ましろが? なんで?」
「だって球技大会で足を引っ張るなんて嫌だもん。せっかくチームに誘ってくれた美依奈さんたちにも迷惑かけたくないし」
「別にいいじゃないか。人には得手不得手がある。ましろは頭がいいんだから運動なんて出来なくてもいい」
「ちょっと。淳之助。それはひどいんじゃない?」
カチンときてしまったあたしは思わず声を荒らげてしまった。
でもたとえ優太の親友でも言わなきゃいけないことはちゃんと言う。それがあたしのポリシーだ。
「せっかくましろが頑張りたいって言ってるのにその言い方はひどくない。友だちなら応援してあげなよ」
「本当に純粋にクラスメイトとして教えてる?」
「当たり前でしょ」
「だったらなんでましろが美依奈さんたちのサンドイッチまで作って持ってきてるの?」
「それは私が勝手に作ってきてるだけ。お昼休みに付き合ってもらっているから美依奈さんたちはお昼を買う暇がないでしょ? それに美依奈さんたちは飲み物を買ってきてくれたり、放課後にアイスをご馳走してくれたり、返しすぎなほど返してくれてるの」
「そ、そうなんだ……それは、ごめん」
「い、いやまぁ……別にいいけど」
ましろは熱くならず冷静に淳之助の誤解を解いてくれる。そして淳之助もすぐに謝ってくれた。
ついカッとなってしまった自分が恥ずかしい。
「ごめんなさい、美依奈さん、羽衣さん。淳之助くんは小学生の頃からの友だちなんです。トロい私をいつも心配してくれているから、ついきつい口調になっちゃったんだと思います」
フォローまでしてもらい、淳之助は顔を赤くしていた。
「へぇ。心配、ねぇ……」
どう見ても淳之助はましろに気がある。でもましろは素でそれに気づいてないみたいだ。
いくらなんでも鈍感すぎでしょ、ましろ。
小学生の頃からの想いだなんてあたしと一緒でちょっと淳之助に共感してしまう。
「知りもしないでいきなりごめん。美依奈さん、羽衣さん」
「いいのいいの。あたしらの見た目こんなだからよくあることだし」
「そーそー。てかましろを救いにきた王子様? って感じでなんかキュンとしたし」
空気を読まない羽衣が余計なことを言うから淳之助は顔を真っ赤にして俯いてしまった。
相変わらず羽衣は空気が読めない。
ましろはそんな淳之助の気も知らず「私がトロくて心配なだけです」とけらけらわらっていた。
がんばれ、淳之助!
努力すればいつかは報われるよ。あたしと優太みたいにね!




