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ウソ告白

「ねぇ.優太って……か、かカノジョとかいるの?」


 放課後の第二校舎の化学室に呼び出されてこの質問。

 しかも相手は美少女で名高い橘美依奈さん。

 デコった長い爪やアッシュグレーで軽くウェーブのかかった髪、目元ぱっちりなメイクという完全なギャルである。


「いないけど、それが?」


 僕は注意深く辺りを確認する。


 これはアレだ。間違いなく罰ゲームでどうでもいい奴にコクるというヤツだ。

 罰ゲームの対象に自分が選ばれてしまったというショックはデカいが、それはあとで落ち込もう。

 今はこの場をどう切り抜けるかが大切だ。


「へぇ……いないんだ?」


 美依奈さんは視線を手に向けて爪をいじっている。

 僕の目すら見ず、いかにも嫌々ここにいるという感が滲み出ていた。


「用事ってそれだけ? 終わったなら帰るんで」

「ちょっ! ちょっと待ってよ!」

「なに?」

「カノジョいないなら、その……あたしが付き合ってあげてもいいし……?」

「はぁ……」


 なんだこのやる気のない上から目線の告白は。

 たとえウソ告白でももう少しマシに演技をしたらどうだろうか?

 嫌々告白しているから相当イラついているのか、顔は真っ赤だ。

 今ごろどこかでこの状況を笑っている仲間いるのだろう。


「いや、遠慮するよ。僕と美依奈さんでは釣り合いもとれないし」

「はあ!? 信じらんない! なに断ろうとしてるわけ!? ウケるんですけど!?」


 うわっ、やべ……ガチギレしてる……顔真っ赤だし、かなり怒ってるな……


「いや、でも……」

「はい、やり直し!」


 断ろうとしているんじゃなく、はっきり断ったつもりなのにやり直しを命じられる。


 確かに断れば美依奈さんやその仲間になにをされるか分かったものじゃない。

 穏便に済ませるためにも、ここは騙されたフリをするのが無難か?

 いや、でも、見えている地雷を踏みにいくのも、それはそれでキツいし……


 そんな煩悶をしているとガタッとロッカーから音がして、微かに扉が開く。一瞬だから誰かまでは分からなかったけど、中に隠れている人と思い切り目があってしまった。

 中の人は慌てて内側から扉を閉めた。


 ……仲間があそこに隠れてるの、バレバレじゃん。


「は、早く返事しろっ!」


 美依奈さんは目をうるうるさせ、八重歯を剥いて急かしてくる。

 泣きそうな顔をしてて、なんだか少し気の毒に思えてきた。


「わ、わかった……付き合うよ」

「ほ、ほんと?」


 美依奈さんはフワッと柔らかに笑った。

 その笑顔はいつもよりずっと柔和で、穏やかで、不覚にもドキッとしてしまった。


「本当だよ」

「じゃ、じゃあもっと喜びなよ! なんか嘘っぽいしっ!」

「……ばんざーい。やったぁ……」


 わざとらしい喜びに美依奈さんは不服そうだが、これが精一杯だった。


「じゃあ僕はちょっと用事があるんで」

「ふぇ!? い、一緒に帰らないの? てか普通付き合ったら一緒に帰るものじゃないの?」

「ごめん」


 これ以上笑い者にされたくなくて、さっさと化学室をあとにする。

 僕が化学室を出て少しすると勢いよくロッカーが開く音と笑い声が聞こえた。


 せめてもう少し待ってから出てこればいいのに。これじゃウソ告白だってバラしているようなものだ。

 怒りを通り越して呆れてしまう。

 なんだかやけに悔しくなってきた。


 よし! ここは騙されたフリをしてむしろ返り討ちにしてやろう。


 罰ゲームはウソ告白して終わりじゃないのだろうからしばらくは偽の恋人を続けるはずだ。

 ならば隣にいるのも恥ずかしいという思いをさせてやるのもいいかもしれない。

 それとも秘密を握って逆に脅してやろうか?

 少し可哀想な気がしないでもないが、僕を騙そうとした罰だ。



 教室に戻ると親友の淳之助が待っていてくれた。


「大丈夫だった?」

「うん、大丈夫。心配してくれてありがとう」

「殴られたり、お金取られたりしたんじゃないの?」


 淳之助は心配症だけど本当にいい奴だ。


「そんなことないって。コクられただけ」

「コクられた!? 美依奈さんに!?」

「罰ゲームのウソ告白だよ。よくあるだろ、好きでもないヤツにコクってその反応を楽しむっていうたちの悪いイタズラ。絶対アレだよ」


 なんでもないことのように笑ったが、淳之助は「うーん」と唸って首を捻る。


「どうしたの?」

「いや、美依奈さんってそんなことするかな?」

「するだろ。てか実際にしてきてし」

「美依奈さんさんって確かにギャルだし、授業態度も適当で、校則なんて守る気ゼロって感じはするけど、でもそういう人を傷つけることするかなぁって」


 淳之助は意外と人を見る目がある。しかし今回ばかりはそれも外れたようだ。


「ウソ告白の証拠もあるんだよ。化学室に呼び出されてコクられたんだけど、なんと化学室のロッカーに仲間が隠れてたんだ」

「ウソ!? マジで!?」

「がたって音がして、ドアが開いたら中に人影があって、すぐに内側からドアを閉めてたよ」

「そうなんだ……それは間違いなく見られてたね」

「だろ? 僕の反応を見て笑ってたんだよ。ウソ告白なんて最低だよな」

「もちろんその場で断ったんだろ?」

「断ったよ。でもやり直しをさせられて。面倒だからオッケーした」


 断って怒らせるのが面倒くさかったことや、付き合うふりして返り討ちにすることを話した。


「返り討ち!? そんなことして大丈夫かな?」

「まあやり過ぎないように注意するよ。騙されたフリしておけば美依奈さんたちも満足だろうし」


 僕をターゲットにしたことを後悔させてやる。

 ほくそ笑みながら逆襲の計画を頭の中で練っていた。



すれ違いながら真実に気付き、恋をする二人のお話です!

面白そうとか続きが気になると思っていただけましたらブックマークや評価★で応援していただけるとテンションが上がります!

よろしくお願いいたします!

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[気になる点] 会話で「美依奈さんさん」と、さんが連続で書いてある。
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