塔に瞬く彗星
はじめまして、初投稿の琥珀です!人間、誰にでも親がいます。
血が繋がっていてもいなくても、親は親です。尊敬してようが軽蔑してようが、親は親です。
人類は、進化してきました。それは過去を超越するという事です。
とどのつまり、私たち人間にとって親を超えることは、人生のテーマのひとつだと私は考えています。そこに血の繋がりも、敬意も関係ないと思います。
どんなに大きな背中であろうと必死に食らいつき、超えたその先に見えてくるのは山の頂にも似た景色だと思います。そんな想いで、この小説を書きました。
初投稿なのでノウハウも知らず、文脈の悪さには多少目を瞑っていただけたら幸いです。
それでは、良い旅を...
ラストナイト
若き冒険者は、気鬱に駆られていた。
剣の才能に恵まれた彼は金も名誉も持っていたが___。
「まだ足りない。なにもかも、遥かに...!」
___それは伝説の騎士である父の背中には程遠かった。
俺は父に抱きしめられた事はない。一緒に食事をしたことすらない。
なぜなら父は物心ついた時からいなかったのだ。
いや、帰ってこなかったといった方が正しい。
俺がまだ母の胎盤に繋がっていた頃、父は国王からその実力を買われ、騎士団長の称号を授かるべく王都に向かった。
その日を最後に、父は姿を消した。
故に俺は母と二人で暮らしていたのだ。
父親がいないことに最初は疑問を持たなかったが、母や村の人々は誰もが父の名を、そして数々の逸話を口にした。
俺はとても誇らしく思った。偉大な父親に、俺は憧憬を魂まで刻み付けた。父から継いだ赤髪が俺の自慢だった。
俺は必死に剣を振った。父親の背中を追いかける方法があって、俺は嬉しかった。自慢では無いが俺には剣の才能もあった。
だがその才能を称えられはしなかった。村の人は俺の事を、父の絞りカスとしか見れなかったのかもしれない。
とても悔しかった。屈辱だった。自分を、父の背中を全て否定されたような気がした。今すぐにでもここを抜け出してやりたい。そんなことを考えていた。
俺は16歳の誕生日を迎えた日の朝、村を去り冒険者になった。
「俺が親父に近づく為にできることはこれしかないんだ。」
自分に言い聞かせながら、必死に俺は村を背に走った。
地獄は、すぐそこにあった。冒険者というのは、全てに命を賭して初めて前に進める。
なんども死にかけながら、俺はクエストをこなした。なんども人を無事に馬車で送った。なんどもモンスターの死体の山を築き上げた。
なんども・・・戦争に参加した。
気がつくと俺はそこそこの命を救っていた。そこそこの金と名誉も、後からついてきた。
気がつくと俺はそこそこの命を殺していた。そこそこの人に恨まれた。
・・・だから何だというのだ。俺は誰に称えられたくて、この仕事を初めたんじゃないんだ。
「俺が欲しいのは、金でも名誉でもない!」
こんな事言って、何になるのだろう。大きなため息が、魂から不意に漏れる。
今日も酒場は賑やかな声が飛び交い、冒険者はジョッキを片手に無限に会話をする。
__また誰かが父の名を、逸話を口にした。
俺はこの紅い髪に嫌気がさしてきた。
翌日、俺は一件の依頼をうけていた。ここ最近、最果ての塔の最上階に剣を持った怪しい人影が見えるという。その真実を調査、状況に応じて解決してほしいという依頼だ。
正式な依頼として俺個人に宛てられた仕事であれば、報酬として山のような金貨が支払われるほど依頼を俺はほぼノーギャラで手に取った。
動ける冒険者が少なく、遂には自分の元まで依頼が舞い込んで来たのを俺は快諾した。
最果ての塔の付近は危険なモンスターだらけで、手練れの人間でなくてはとても近寄れない区域として有名なのである。結局のところ、俺はこの依頼に適任であり、故に半ば押し付けられたことは自覚していた。
だがそんなこと、俺は大した問題ではなかった。大量に生息していたグリフォンや化け物サイズのスコーピオンが目の前に立ちはだかる。
「今日もお前らに俺の命、預けるぜ。」
二本の短剣を鞘から抜きながら、そう呟いていた。この世で俺が最も信頼する、我が半身ともいえる軽い、だがとても重い剣。想い、剣。
スコーピオンの針が俺の命を刈り取るべく、真っ直ぐ心臓に突き出される。その伸びきった尻尾を踏み台にして__、
俺は空飛ぶグリフォンの首を切り落とした。断末魔は仲間を呼ぶ、声は出させない。
残るはスコーピオン、堅い外殻は刃を通さない。剣士である自分に出来る事は、恐らく1つだ。俺は逃げずに正面に立つ。二対の、明確な死を纏うハサミがこちらに向かう・・・
すかさず、腹に潜り込んだ。そこは楽園、外殻からは想像もつかぬ程柔らかい。
こちらも、遠慮は最初からない。負けじと二対の剣をを柔らかな腹部めがけて突き刺す。
無慈悲に刃を通され、あっという間にサソリは絶命する。
化け物共の特性を理解した、最善の狩り。我ながら、100点満点__
「親父なら、もっと鮮やかに倒したハズだ」
そんなことばかり考えていた。村や酒場で聞いた話が真実なら、父親は一振りで三体のワイバーンを落とす。十体の死神ムカデをぶった切る。
上級モンスターが相手だろうと苦戦こそしないものの、俺にそんな芸当は出来なかった。
父の戦い方には華がある。何十回、いや何百回も、かの英雄の話を聞いて俺はそう感じていた。人々の欲しがる英雄譚を具体化したようななんとも誇らしい騎士だ。
日が暮れても俺は歩みを止めず、ひたすら塔を目指した。もはや何も考えたくはなかった。ひたすら剣を振り、刃向かう怪物を剣の錆へと変えていく。
先ほどまでの冷静な立ち回りはいずこへ、なんとも荒々しい戦い方だった。傷は次第に増えていく。鬼が如く。父が如く。
いつか、そういつか。
「英雄に、追いつくために。」
俺は気づけば塔の前に立っていた。