第九十三話 戦力増強
「ケータ、そのデータも皆に分けて、使えないか試してみて。」
薊が帰り、そのコピーが変わらず薊の名で活動を始め、啓太が溜め込んでいる技術が他の人間にも使えないかの実験をしている。
事の起こりは、永遠が昏睡して啓太が引き籠もったときに、忠義が自分でTOWUA-SAMのシステムに侵入して扉を開けたことを啓太が思い出したことだった。
そのことを啓太が宮田Aに伝えると、宮田Aが栗田家にいる全員を集めて同じことができるかを試し、全員が同じことができることが判明した。永遠と咲良とまどかに至っては、ずっと搭載艇を使いこなし続けていたのに、本人や宮田も含めて、誰も特別なことだとの認識すらしていなかったことが判明した。
ならば、啓太にできることのどれくらいが他のメンバーにもできるのか。
急遽、忠義、次郎、大杉、北川に沙也佳、美也、香子に薫子までが動員されて、できることの確認が始まった。
もっとも、北川と沙也佳の確認は勤務時間終了後、美也は学校修了後のことになり、また、みのりについては、何か特別なことがあれば報告をもらう程度の対応となった。
まず、アバターへの意識転移。これは、経験のある大杉、忠義、宮田、次郎、薊、永遠、咲良、まどかと、意外なことに香子と薫子ができた。
探知とホログラフ投影は地球人にはできなかった。
遮蔽シールドと隠蔽シールドの展開は、薊、沙也佳、美也、香子と薫子以外はできたが、エネルギーをシステムから供給して実用レベルにあるのは宮田、次郎、永遠、咲良、まどかだけだった。
光線銃や分解銃、麻酔銃に関しては、システムからエネルギー供給ができる宮田、次郎、永遠、咲良、まどかでやってみて、実用レベルで使えたのは永遠だけだった。
やはり、エネルギーを多く必要とする技術になるほど早くにサブシステムを導入した者が有利なようだ。
「皆の状況を見るに、もう少し経てば実用になるか。
携行武器が次郎とまどかが持っていた自動照準光線銃5丁しかない中で、攻撃手段が増えることは嬉しいが、なかなか実用の域まで達しないのはもどかしいな。」
薊が溜め息を吐くのを見て、宮田Aが薊にプラス面を強調する。
「まあ、焦っても仕方がないですよ。
それよりも、アバターが男型が11体、女形が14体もあって、意識転移できる者が男が5人、女が6人もいます。
それに、少し修練を積めば、啓太君や私、次郎君、永遠ちゃんに咲良にまどかちゃんは、2体が同時に使えるんじゃないですかね。
もちろん、香子ちゃんや薫子ちゃんを巻き込む訳にはいきませんが、これだけアバターが使える者がいて、遮蔽シールドを張れる者が6人もいるというのは、戦力という意味では心強いです。」
闘いに向かって、冷静に見ることは必要だが悲観論は拙い。
薊は宮田Aの意図を汲んで、ふふんと笑う。
「宮田君。君、良い意味で変わったね。
最初に会ったときには、なぜ時間転移研究基地の他の人たちが生き残ってくれなかったかと思ったが、今の君は実に良いよ。頼りにしているから。」
薊にこれまで経験したことがない最大級の褒められ方をして、宮田は狼狽えたが、やがて歯を見せてにやりと笑う。
「日々、咲良に鍛えられていますからね。任せてください。
ああ、それから、啓太君の脳ですが、脳のイメージコピーと思いましたが、同じ段階にある変形途中の脳を用意することができませんから元に戻せなくなりそうなので、通常のコピーで脳の特殊な変化なんかも含めて対応できないか、これから実験に取り掛かります。」
どうやら、宮田は本当に変わってきているのかもしれない。
◇◆◇◆
香子と薫子はアバターに転移して、久方ぶりに思い通りに動く手足に感激していた。
2人で歩いたり走ったりして体をほぐした後、覚えた武術の練習を始めて、えいっ、やあっ、と2人で軽い組み手の稽古をしている。
アバターは元々まどかが接待用に使っていたものを出して使っており、次郎にアバター操作を教わりながら変形しているので徐々に2人の姿へと変更が進んではいるが、元が男性向け接待用なので体のボリュームが凄い。
仇っぽい顔に浮かぶ真剣な表情のギャップと体を動かす度にぶるんぶるんと揺れる胸元に、誘蛾灯に集まる蛾のように忠義が引き寄せられている。
忠義がそっと素知らぬふりをしながら近寄って、横目にレオタードから飛び出さんばかりの胸元を見詰めているのに啓太が気が付いて、おーい、その視線はすぐにバレるぞー、と心の中で忠告したが、案の定、薫子へ回し蹴りをしていた香子が体の向きと重心を途中で変えながら足の角度を変えて、足の甲が忠義の後頭部にめり込んだ。
「このスケベ。次は股間に行くからね。」
それほど強い威力ではなかったが、まともに食らって吹っ飛んで頭を押さえる忠義は、すみませんっしたあ、と香子に頭を下げる。
どうやら、アバターで運動をすることは2人のストレス発散だけでなく体の機能回復の補助にもなっているうえに、運動感覚の強化にも役に立っているらしく、宮田からも継続した方が良い効果があるとお墨付きが出た。
また、連絡をしてアバターの準備だけしておいてもらえれば、大杉家から意識を飛ばしてアクセスすることもできるようで、栗田家には2人の姿が頻繁に見えるようになった。
香子と薫子がアバターで意識転移してくると聞いて、自分も、と言い出したのは大杉と忠義だ。
次郎に連絡してアバターを用意してもらっては栗田家に入り浸るようになった。
2人ともいろいろな最新技術が目の当たりにできて、それが自分に知識として吸収されることを実感して楽しいらしい。
傍目には大杉家の団らんに忠義が混じる形になっているが、どちらかというと気の強い香子に忠義が振り回されているようだ。
また、薫子は次郎が来たと聞いてはそそくさと相手をしてもらいに行く。忠義は大杉と香子を1人で相手にすることに耐えかねて、次郎を大杉家の団らんに引き込もうと苦闘中だ。
その様子を聞いて、北川もアバターを経験して自分も意識転移できるようになりたいと連絡があり、仕事上がりにやって来て、アバターに馴染むために体を搭載艇に置いて乗り換えていった。
◇◆◇◆
こうした栗田家への人の出入りの多い状況を見て、啓太には気がかりなことがあった。
「グリーンランドに搭載艇があるように偽装をしていても、玄関のドアノブでは次郎君やまどかさんの出入りが記録されていますよね。
偽装を続ける意味があるんでしょうか。」
この質問を受けて答えたのは薊だ。
「もちろん、グリーンランドの偽装はバレているだろうさ。
こちらが玄関のドアノブに気が付いたのは、次郎君を奪取した後だ。
敵はこちらがアラバタ達の存在に気が付いて反撃したことを把握済みな訳だし、アラバタ達に勝ったことを事実として確認することは、当然の流れだろう。
で、私たちがアラバタ達から事実確認をすれば、アラバタ達がやらなかった私たちへの工作があると私たちが気づくことも、ダミオス一派は認識しているだろう。
だから、私たちが、私たちを狙っている者がまだ誰かいると警戒して手を打っていますよ、という素振りを示すことは、私たちが玄関のドアノブやダミオス達の基地に気が付いていることを隠す上では、必要な一手だと考えているよ。」
「向こうが深読みすれば、こちらが玄関のドアノブやダミオス達の基地に気が付いているかもしれないと考えるんじゃないでしょうか。」
啓太が議論を吹っかける。この手の議論は、想定の幅を広げるためにもしておいた方が良い議論だ。
「そうかもしれないね。だから、こちらも永遠と咲良がここの周辺を、次郎君とまどかちゃんが大学周辺と山の上から見える周辺一帯の監視をしてくれている。
相手は同じアダル連合の人間だ。こちらの想定を超える飛び抜けた技術は持っていないからね、こちらの想定がしっかりしていれば、動きは把握できるはずだ。」
「……その、相手は科学技術省の副長官ですよね。こちらが知らない開発技術を持っていたりするんじゃないですか。」
「うん、その可能性は否定できないね。ただ、そういう研究は開発局が行うものだ。私の開発局長臨時代理という肩書きは逃亡の際に与えられたものだが、私の開発局での本来の肩書きは課長級でね、開発中の技術に係る大体の事情は把握していると思っているよ。」
薊が政府中枢の課長級の肩書きを持っているという話を聞いて啓太が驚く。
薊の実年齢は、啓太と大差ないはずなのだ。
「ここに来てから、ケータと永遠ちゃんと宮田君の活躍が目覚ましいので霞んでいるが、これでも私は12歳で最高学府を卒業した天才と言われて、そのまま政府に就職して出世街道を邁進していた才媛なんだぞ。」
薊がやや傷ついたように言う。
「うーん。なのに地球へ都落ちって、それは貧乏くじを引きましたね。」
啓太が言葉に困って地球に来た境遇に同情してみせると、薊は笑って答えた。
「いや、楽しんでいるよ。
これまでいなかった同年代の友達もたくさんできたし、お役所の椅子に座っているなんかより、こちらの方がずっと楽しい。
それに、残念ながらアダル連合がもうこのことを知ることはないが、文化や文明を変えかねない数々の重要な発見や研究に携われてもいる。研究者冥利に尽きるというものだよ。
気の置けない友達とやりがいのある仕事があって、その集団を私が中心になって率いている。
ダミオス達のことさえなければ、今、私は楽園にいるのかもしれないんだ。」
薊は、向こうからやってきた宮田ABCと永遠、咲良に手を振ると、さあ、食事に行こうか、と啓太を誘う。
予めのご連絡しておきますが、7月からは少し更新速度が遅くなると思います。
できるだけの努力はしますが、ご迷惑をおかけします。




