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第八十話 天使の微笑み

<付記(2020.9.23)>

会議のくだりを中心に、舌足らずな部分を補足しています。

 啓太は永遠と2人でわんこを連れて朝の散歩へと出ていた。昼には買い物に出て首輪などを買ってやらねばならないが、今のところは首輪の代わりに、紐を通して首の周りで縛っているだけだ。

 いきおい、人目の多いところを避けて栗田家の前の坂道を移動することになる。坂の下までを下っていくのだが、わんこはまだ若く元気いっぱいだ。

 ”走る! ”わんこは啓太に触れて、そう思念を伝えると、全力で駆け下り始めた。

 ああ、もうっ、と叫んで、啓太は永遠とともに坂道を駆け下り始める。

 坂道の斜面は草が繁茂(はんも)して盛り上がっているので、実際に斜面の地面がどの辺にあるのかが分かりづらい。危険なので体術でショートカットもできず、道なりに駆け下りることになるが、つづら折りの坂道の見通しの悪さもあって、あっという間にわんこが見えなくなる。

 啓太と永遠がわんこの後を追って駆け下りていると、わんこの興奮した鳴き声が聞こえた。

 啓太が走りながらわんこの姿を探知すると、側に2、3人の男がいるのが分かる。

「わんこが人に吠えてる! 」

 啓太はアバターをシステムモードに変更して人間を超えるスピードで走り始めた。永遠もシステムモードに切り替えて付いてきて、状況を探って教えてくれた。

「人が喧嘩していたのに向かって吠えてるみたい。」

 啓太が坂道の下まで駆け下りると人影を見て男2人が逃げていく。

 啓太が草むらに男が1人倒れているのを見つけて男の状況を調べようとして、頭の下にある大きな岩に気がついた。岩にはべっとりと血が付き、男の瞳孔が開いている。

「……ああ、(まず)いな。」

 啓太も永遠も存在しない女性の姿で、持っているのは啓太のスマホだ。警察にも救急にも通報ができない。

 現在地は、坂道の下の奥まったところであるために人目に付かないが、10分後、20分後には人も通るだろう。

 啓太が困っていると、

「啓太さん、今、脱出ポッドを手配しました。この死体、もらっちゃいましょう! 」

と永遠が事もなげに言って、ホログラフで死体を隠蔽し始める。

 え?、おい、と啓太が戸惑っていると、永遠がにこりと笑う。

「この人、この間襲ってきたアパートの人です。若いし、死んだばかりですし、次郎君にぴったりです。

 家に運んで取りあえず悪いところを治して、身元とか素行に問題があって使えないようなら、改めて死んでもらえば良いんです。」

 永遠のけろりとした対応に、啓太は、おどおどとしながらも従うことしか思いつかない。

 やがて脱出ポッドが到着して、永遠は凶器となった岩を運び込み、男と共に乗り込むと、じゃあ、お先に、と言って帰って行った。

 啓太は宮田が咲良の統合にかかりきりになっていることを思い出して次郎に連絡を入れ、(あざみ)にことの経過を報告してもらうように頼むと、わんこを連れて帰って行く。


「成り代わり候補が落ちてた。次郎君、ラッキー。」

とは、薊に報告した永遠の第一声だ。

 男はアパートの鍵や財布や身分証明書などを持っていて、名前を芦田徹といい、啓太と同じ大学の1年生であることが確認され、薊が仮想時空の未来の記録を調べて芦田が死亡していることを確認した上で、取りあえずは脳を復元し、次郎の成り代わり候補としてキープすることになった。

 後に分かったことだが、芦田は地方から出てきたものの、新しい生活に馴染めずに精神に変調を来して自暴自棄になり、周囲に突っかかっては揉めていたらしい。


 その次郎は、グリーンランドに夜が訪れるまで待ち、アラバタ達の出入りがないのを確かめてから休憩所のドアノブへ接触型の回線を仕掛け、彼らがやってくるのを待っていた。

 グリーンランドと日本との時差は11時間ほどもある。次郎は、今日の夕方まで動きはないだろうと、宮田のためのアバターを移動させる準備をしていたところ、薊から呼び出され、芦田に成り代わる案を説明されて、今晩から様子見のためにアパートで寝起きするよう伝えられた。



◇◆◇◆◇◆◇◆


 夜になり、栗田家で一昨日の会議が継続された。

 栗田家は小さな山腹に建っている。脱出先は当然山の方向にしかないし、搭載艇を隠せる場所もその方向しかないという点では意見が一致している。

 後は脱出先を山のどこにするかだ。栗田家の地下深くというのが第1案、次郎の搭載艇の周囲というのが第2案、あとは山の反対側にある大杉の別邸の敷地の地下深くにするというのが第3案だった。

 第1案と第2案の難点は、上方向から搭載艇を探るための高精度の探知をされると下にも何かがあると分かるかもしれないこと、搭載艇の脱出路が確保できないことだ。

 第3案は、別邸の位置が大学方面の山側から30度ほどずれており、大学に隠れる形になり探知の射線に入らないことと、搭載艇の脱出路を別邸のある山の斜面に設けられる利点があるが、700メートルほどの距離があり、栗田家にある搭載艇及び次郎の搭載艇のいずれからも掘削距離が長いこと、逃走路が長いことか難点として挙げられた。

「まあ、第3案だよね。万が一のときに、大杉さんの別邸が丸焼けになる可能性はあるけど。」

 薊の冗談に付き合って笑った大杉の顔が若干引き()っている。

 また、死に方については、脳をイメージデータ化してTOWUA-SAMとSOROU-SAMの搭載艇にバックアップを取って復元できる体勢を取ることで、死んでも本人が復元できる態勢を整えることとし、搭載艇は大杉の別邸の地下に隠す。

 そして、栗田家と次郎が有するアラバタ達の資材も使って、栗田家地下に永遠と咲良の搭載艇の精巧な模型を作り、そこで模型もろともに死んでみせる方針とした。

 死ぬのは、薊、啓太、永遠、宮田、咲良の5人を基本とし、次郎とZOWUA-SAM(ゾゥアザム)の期待とシステムの扱いは、今後の展開による。

 念のために、宮田及び次郎を含めた栗田家在住の面々の脳のバックアップは出来るだけ早い時点から常時取るようにし、人間である宮田、啓太については、肉体の復元のための細胞を保管することで確実に生き残る方策を取ることにした。

 また、大杉、北川、忠義は、いなくなればすぐに社会的な影響が出ることから、戦闘には関わらないことになった。


「まあ、詳細は詰める必要があるが、方針としてはこんな所かな。

 敵は早くて年末、恐らく年明け2月頃を攻撃の時期と考えているだろうけれど、こちらは早めに10月頃までには対応を完成させておかないと、何があるか分からないからね。

 これから忙しくなるけど、詳細なスケジュール表を作るから、みんな、よく検討しておいてね。」

 薊が会議を閉める。

 会議が終わると薊は大杉の所へ行き声をかけた。

「大杉さん、長らく待たせたけれど、明後日には、体の復元が終わりそうだよ。明明後日以降の都合のよい時間を連絡して欲しい。

 それから、これから沙也佳さんと美也ちゃんに話をしようと思うんだけど、一時的にでも、2人には引っ越しておいてもらいたいんだ。

 大杉さんから、大杉不動産に口利きをお願いできないかな。」

 大杉は快諾し、明明後日の10時頃に来ること、沙也佳と美也については星の小冠にほど近いマンションを探して世話する旨の回答して、北川とともに帰って行った。


◇◆◇◆


 その夜遅くに、次郎はZOWUA-SAMのコードパターンの特定に成功してその旨を報告し、薊や啓太、永遠などに褒められた後、薊から風呂へ入った後に、万が一に備えて芦田徹のアパートへ行けと指示されて、栗田家を送り出された。

 次郎は真っ暗な道をとぼとぼと歩きアパートに着くと、2階の部屋の鍵を開けて中に入って電気を付ける。

 部屋は荒れていた。

 部屋の真ん中に薄汚い布団が置かれ、それを埋めるようにくしゃくしゃの衣類が散乱して、使用前か使用済みかも分からない。枕元には雑誌が散乱して、部屋の周りに異臭の漏れる大きなゴミ袋が幾つも転がっている。

 明日にも啓太と永遠が掃除の手伝いに来ると聞かされてはいたが、正直、明日まで待ちたくない。

 だが、深夜に掃除をすれば、周囲の部屋にごそごそと音が響くことが理解でき、仕方がないので、次郎はそのままカビ臭の漂う布団に横になる。

 ここのところ毎日、永遠の搭載艇で清潔な寝心地のよいベッドに横たわっていた次郎は、何かの罰を受けたような心持ちでペラペラの布団の上で膝を抱えていると、頭の周囲に散らばるいかがわしいあれこれが嫌でも目に入り、つい性機能のスイッチを入れてしまったのは、(わび)しい男の独身部屋に誠に似合っていて、これからの次郎の生活を暗示しているようでもあった。


 翌朝、わんこを連れた啓太と永遠がやって来て、わんこを1階に繋ぎ次郎の部屋を目指して階段を上がってくる。

 昨夜、性に関する知見と感情を獲得してしまった次郎は、見た目美少女の2人組が、この荒れた部屋の中に入ってきたことに可哀想なくらいに狼狽(うろた)えた。

 そして、啓太と永遠が掘り出す下着類の一つ一つに奇声を上げて恥ずかしがって、その都度、啓太から、これはお前のせいじゃないから、と慰められた。

 ついには、相手をするのが面倒くさくなった啓太が、1階の自分の部屋へ次郎を追い出し、次郎の部屋と啓太の部屋の洗濯機をフルに使って全ての衣類を洗って干し、部屋に散らばる雑誌類を選り分けて縛った。

 そして、永遠の目を盗んで自分の部屋へ行くと、荷物の間に隠した雑誌数冊を袋に入れて、啓太の部屋の鍵とともに次郎に渡す。

「ゴミは出しておいたけど、布団は新しいの買って、古いのは処分した方が良いね。

 あと、掃除と洗濯は終わったんで、俺の部屋に干した分は後で回収しておくように。

 それから、いいかい、上の雑誌の縛った奴は、社会的にアウトな嗜好のヤツだから、すぐに処分するように。で、残ったのが少ないから、これ、やるから持ってけ。」

 次郎には、このときの啓太がキラキラと光り輝く天使に見えていた。



最後に汚い男の友情が……天使に見えるのかどうか、自分は知りません(え

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