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第七十八話 作戦会議(2)

長いです。

 作戦計画の検討は難航した。

 圧倒的な多数を迎え撃つビジョンが見えずに、作りかけては潰しが繰り返される。

 その状況を見て、北川が発言した。

(あざみ)さん。そもそも分からないのですが、相手は曲がりなりにも元政府です。

 彼らが交渉をするのではなく、襲ってくると考える根拠は何ですか。」

 薊は詰まった。

 考え込み、しばらく待ってくれ、休憩だ、と言って時間転移で元の時間へ戻る。


 薊は30分ほどで戻ってきて、説明を続けた。

「相手が交渉のための接触もせずに、私たちにいろいろな工作を仕掛けてきたり、武装をしていることから、交渉の余地はないのだと考えていたけれど、北川さんの言うとおり、可能性の域を出ない話ではあるね。

 だから、戻ってデータペースを検索して、政府の高官の中に今の状況を作り出す人物がいないか、いるとしたらどんな考えの人物か、確認してきたよ。

 科学技術省の副長官をやっていた人物の中にダミオス アードナルという人物がいて、温和な人物が多い政府高官の中では珍しく犠牲を厭わない強硬派だった。

 星間連合へ恭順(きょうじゅん)した高官が多い中で、彼は抗戦派の者を引き連れて逃亡した。

 彼が、今回の私たちの研究とどう関係するのかを調べていたんだが、彼の思想は、システムやアバターを安価に作って消費財として使い潰して社会を維持し、人間はその恩恵を享受しようというもので、システムの疑似人格も幻想と否定している。

 また、戦争末期には、粗悪なシステムと宇宙船を量産して、相手宇宙船への特攻のようなことをさせている。」

 薊は、永遠や咲良に桜、そして最後に次郎へと視線を順に送ると説明を続けた。

「彼なら、我々の研究成果を利用して、抗戦し続けるだろう。

 敵のシステムには混乱を狙って自我を与えて回り、味方のシステムには自我を発生させる行程は省略して、システムから工業的に受肉して増え続ける高品質な奴隷をもって自分たちの駒とする。

 彼らの目的はそんなところだろう。

 でも、それは我々とはシステムに対す考え方の出発点からして、徹底的に相容れない。

 それが交渉をしてこない原因だと思う。」

 永遠たちは薊の説明を咀嚼(そしゃく)していたが、次郎が口にするのも耐えられないといった様子で質問する。

「例えば、今のワタシをこのまま使い潰すということですか。」

「これも例えばだが、今の君は私の命令には逆らえないがアバターは高機能でコストが高い。

 今の君のまま、能力制限や調整をしたコストの安い培養人間の体へ欲しい数だけコピーする。それが彼らの目指す完成形だと思う。」

「そんな使われ方をするなら、死んだ方がマシです! 」

 次郎が吐き捨てるように叫び、頬が興奮で紅潮する。

 次郎を始め、システムに出自がある者達が動揺してしまったので、冷たい飲み物とお茶菓子を配って少し休憩とした。


◇◆◇◆


 会議を再開しても、北川の質問は続く。

「薊さん、この闘いで搭載艇での襲撃などは、攻撃でも防御でも考えていませんよね。それはなぜですか。」

「星間連合の監視があるからだよ。

 搭載艇などの大規模兵器を使用すれば、星間連合に探知される。

 そうなれば私たちは地球に居続けることができなくなるし、敵にとっては、探知でアダル連合の出身とバレれば、時間転移を前提に対策した星間連合に未来で待ち伏せされることになる。

 私たちにとっても、敵にとっても、星間連合に探知される訳にはいかないんだ。」

「なるほど。では、相手の戦力の構成をどう見ていますか。」

「システムは攻撃でアバター3体、防御でアバター2体を同時に操作するのが限界だろう。

 それに役人は文官だ、戦闘経験はないだろうが、健康ランドを見る限り実戦慣れした連中がいる。それに100人の口を養って施設を運営するのにアバター9体では足りないだろう。

 非戦闘員が40人で戦闘員が100人、アバターが最大で9体というところかな。」

 北川が薊の推測に頷く。

「いいでしょう。

 これに対して、我々は桜さんや次郎君やZOWUA-SAM、遠藤君までを入れても11人、アバターが追加で4体入ったとして15人です。

 沙也佳さんと美也さんは荒事(あらごと)には向かないというのが皆の総意のようですから、我々が作戦を検討しようとしている闘いは、110対15ということですね。

 防衛戦が有利とは言いますけど、闘いはプロ対素人です。

 これは戦闘にならない。

 少なくとも撤退戦を考えるべきですが、我々には撤退すべき先がない。

 結果は、一方的な全滅です。

 なら、敵には何も与えずに、全員が死んでみせようじゃありませんか。」

 北川の提案に皆が衝撃を受けている中、大杉が笑った。

「わははは。

 散々に前振りをしてそれか。悪い奴だな。

 お主を引退させてくれた多喜さんには、今からでも結婚祝いを贈りたいくらいだ。

 で、派手に死んで見せて、どこへ逃げる気だ? 」

 北川は大杉の質問に満面の笑みを浮かべて答える。

「それをこれから相談するんですよ。

 まず、どこへ逃げるか、それを気取られないためにどう死んでみせるか、ここが知恵の絞りどころです。」



◇◆◇◆◇◆◇◆


 会議は、北川の提案が終わった時点で3時間を超えており、それぞれが考えを整理することにして、その夜はお開きとなった。

 北川に加えて沙也佳や美也も交えて、脳へサブシステムを書き込むための時間調整をする。大杉の体は現在栗田家に、忠義の体は次郎の搭載艇にあるので、2人には今夜にでも書き込むことになった。

 今日のところは大杉と北川は玄関から出るが、2組目の対策として、次回からは忠義と同様に庭からの出入りを義務づけられた。


「おや、お前は幸子さんのところにいたハナじゃないか。」

 大杉が庭の様子を確認に行って、そこにいたわんこを見て声をかける。

「大杉さん、わんこのことを知っているんですか。」

 啓太が問うと、大杉が、わんこと付けられた名前に笑う。

「幸子さんは町内で一人暮らしをしていた老人でな、ハナは幸子さんに飼われていたんだ。

 だが、2か月ほど前に幸子さんは可哀想に孤独死してな、2、3日後に周りがそれに気づいたときには、ハナは繋がれた首輪を残していなくなっていたんだよ。

 おそらく餌をやる者がいなくなって、痩せて首輪が抜けたんだろうと噂していてな、その後は、大学でうろついているのを目撃されて、保健所が捕獲しに来たけど見つからなかったと聞いたぞ。」

 大杉の話を聞いて、啓太はわんこを撫でながら、わんこ、大変だったな、と話し掛けると、わふ、と返事があった。

「大杉さん、この犬、俺が飼ってやりたいんだけど、アパートでは動物を飼えないんです。首輪は明日にでも買ってきますが、沙也佳さんは犬が怖いみたいで、その、登録とかを……」

「おお、分かった。儂がやっておくとしよう。いずれ、ここは戦場になるだろうしな、その時にはうちで引き取るぞ。」

 大杉が快諾してくれて、啓太は頭を下げて礼を言うと、大杉は、なに、気にするな、と機嫌良く帰って行った。


◇◆◇◆


 大杉達が帰った後に、次郎が薊の前に進み出て、それではシステム更新のための審査をお願いします、と申し出た。

「ん? 君、人間全体を敵に回して戦うつもりがあるかい? 」

 薊の質問に次郎が、ありません、と答えると、ならよし、以上だ、と薊が言って終わろうとする。

「え? ちょっと待ってください。咲良さんは1時間ほども質疑応答があったと聞いてます。なのに、それだけでいいんですか。」

「いいんだよ。今日1日で君の考えは、よーく分かった。人類を敵にする気さえなければ、君に問題はない。

 だから、これから、頑張って生き残ろうな。」

 次郎は、今日の予定の中で、自分にとっては一番の難関かもしれないと予想していた問題があっさりと終わったことに呆然としていた。じわじわと涙が滲んでくる。

「最初、君は冷静な頭脳派かと思ったんだが、どうも熱いな。自我に目覚めたら、いったいどんな人物になるんだろうね。」

 薊が揶揄(からか)うように言う側で、次郎は腕を顔に押し当てて涙を拭い続けていた。


◇◆◇◆


 ややあって、薊の元に永遠、宮田、咲良、桜、啓太の面々が集まる。

「それで、私たちが誰になるかなんだけどね、実は私と宮田君の間で相談していたことがあるんだ。」

 薊が話し始めて、永遠と啓太を見る。

「結論から言うと、私と永遠ちゃんは、宮田君と咲良ちゃん──正確には桜ちゃんかな──の子どもになる。

 宮田君と咲良ちゃんは、今から17年から20年の間になくなった若いカップルか若夫婦に成り代わって、まず二卵性双生児の親になる。それが私と永遠ちゃんだ。姿は今の永遠ちゃんと現実の私の姿になるように考えてくれるそうだよ。

 彼らは私たちに内緒で準備を整えた上で言ってくるつもりだったらしいが、2組目が出てきたときの作戦会議の後で宮田君が妙に殊勝でね、何か隠し事があるんじゃないかと問い詰めたら白状した。

 まだ、子ども時代をどうするかとか、具体的なことは決まっていないし、次郎君達のことも考えないといけないけどね、一応知っておいてくれないか。」

 宮田と咲良、桜が照れくさそうな顔をするのを永遠が驚いて見詰める。

「「ふふ、永遠姉にお母さんって呼ばれるの、楽しみにしてるからね。」」

 永遠が咲良と桜の首に両腕を回して、2人の名前を呼んで感謝を伝える。啓太も、3人に頭を下げてお礼を言った。

「啓太君、そんな訳で、娘を嫁に出すかどうかは、俺の体感時間ではまだ20年くらい早い。その時に改めて聞こうか。」

 茶化す宮田に対して、咲良と桜がさらに茶化しに来る。

「「猛さん。じゃあ、こんな立派な子ども達ができるか、練習も兼ねて比較検証しましょうか。」」

 宮田の悲鳴が上がる。



思い切りネタバレ要素を入れました。

入れない方が、読んで臨場感があるでしょうが、きっと読み進むに従って読後感が重くなります。

ジャンルをコメディとした以上は、重い部分を少しでも軽くしておきたい、そう判断してしまいました。

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