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第七十六話 2組目の正体

ようやく終盤に来ました。

ここからは集中力を途切らせないように気をつけます。

……と言った側から予約をミスった((=。=)

「今日の泊まりは、栗田家の地下にある永遠のところだから。」

 啓太がみのりへ告げると、みのりが首を傾げている。

「みのりが来るっていうからアパートに掃除に行ったら、2階に住んでる質の悪い奴に襲われてさ。みのり1人だと、危ないから。」

「変な奴の1人くらい、平気だよ。」

「自分の部屋へ無理矢理連れ込もうとしたり、部屋を出ようとドアを開けたら、いきなりバットで殴りかかられたりしたんだけど。」

「……止めとく。」

 円満に同意が得られたところで、カフェを出て栗田家へ向かって歩き出す。

 永遠が最近増えた住人と地下室の自分の搭載艇にベッドを用意することを説明すると、みのりが目を輝かせ始めた。

「沙也佳さんと美也さんの本物!

 お兄ちゃん達とどれだけ違うか、会ってみるのが楽しみだな。

 それに今夜、宇宙船で眠るってことよね。最高! 」

 あれこれと話すうちに栗田家へ着き、みのりはそれぞれの人と話をしてご満悦のようだった。

「こちらが本物の美也ちゃんで、こちらは、えっと、美也ちゃん改め(あざみ)ちゃん? よろしくーっ。」

 咲良、桜と宮田、わんこまで紹介して、和やかに夕食を過ごし、入浴を終え、搭載艇へと案内し、テーブルで休憩する。


「実はさ、みのりに話しておかなきゃいけないことがあるんだ。」

 啓太が話を切り出す。

「今回、永遠と婚約したのは、もちろん好きだというのはあるけど、これから、すごく危険なことが待っているんだ。

 だから、どんなことがあっても、永遠と一緒にいたいという気持ちを形で示しておきたいと思ってさ。」

 すごく危険って何、とみのりがきょとんと聞き返す。

「さっき、みのりのスマホに盗聴を仕掛けてたような奴らさ。

 だからさ、次からは、もういいって言うまで、絶対に来ないで欲しい。」

 みのりが不安気な顔をするが、啓太と永遠が優しく笑う。

 その笑顔が(はかな)げで、みのりは一層不安をかき立てられた。

「うん、大丈夫よ、たぶんね。」

 永遠の言い方は、いつも兄が強がるときの台詞にそっくりだとみのりは思ったが、2人とも、詳しい説明はしてくれなかった。

 栗田家は楽しい場所だったのに、今は影が差している。

 影が晴れることをみのりは願いながら眠りに就いた。

 永遠が啓太と相談し、みのりが寝ている間に、サブシステムとともに武術と料理の技術をこっそりとみのりの脳に書き込んでおいたのは、本人には黙っておくことにした。


◇◆◇◆


 翌朝、みのりと出掛けるに当たって、啓太はわんこを連れている。

 ときどきどちらかともなく触れて、お互いの意思を確認しているような様子が不思議だ。

「ああやって、簡単な会話ができているの。不思議だよね。」

 みのりが啓太とわんこを見詰めているのを、永遠が笑いながら説明する。

 啓太とわんこが視線を合わせることもないのに、迷うことなく進んでいくのを見ると、たぶん永遠の説明で合っているのだろうが、わんことはまだ出会って3日しか経っていないと聞くと異常な光景だ。

 町まで来ると、忠義が待っていたのにも驚いた。

 忠義は啓太を見ると、また顔が変わってるな、と言ってにやりと笑う。

 顔が変わっているのに初見で分かるって、どういう関係なのよ、とみのりはあらぬ可能性を勘ぐって、それから忠義の嗜好を思い出して、ないか、と安堵した。


 啓太はわんこを永遠に預けると、駅前の仮設の停留所のようなところへ2人で進んでいき車を待つ。

 やがて、○○健康ランドと車の横に大書(たいしょ)した小ぶりなバスが横付けされた。

 忠義が、じゃあ、行ってくる、と言って乗り込もうとした瞬間、啓太はバスの中に異常な施設を発見して、忠義の腕を引っ張る。

 忠義の足はすでにステップに向けて上げられており、バスの運転手が忠義へ、早く乗らないか、という視線を向けている中、啓太は忠義を違和感なく止めるために、捨て身で引き留めに掛かった。

「ねぇーえ、忠義ぃ。私、やっぱり一緒に行くならプールがいーいっ。」

 目を()いて忠義が啓太を凝視するが、構わずに啓太は忠義の腕に体を擦り寄せ、自分が出せる限界まで甘えた声を出して、

「ほら、プールへ行こうよぉ。ねぇ、忠義のために、思い切り際どいのを着て、たぁーっぷり、見せてあげるからさぁ。」

と、忠義を引き留めながら、必死で目配せをする。

 啓太の目配せに気づいた忠義が、しゃあねえな、運転手さん、すみません、と言ってバスを見送ると、啓太が恥ずかしさに顔を真っ赤にしながら安堵の息を吐いたのだが、

「お兄ちゃん、永遠ちゃんというものがありながら、まさか、そっちの世界に行こうとしてるんじゃないよね。」

と声をかけてくるみのりの視線が氷のようだった。

「みのり、そうじゃないんだって。永遠、あのバスの中、接触型の回線で埋め尽くされてたよな。」

 啓太が問うと、永遠が頷く。

「あれ、単に身元確認のための設備じゃないよね。怪しいと思ったら、行動制御プログラムを強制的に植え付けられるくらいの強力なヤツが埋設されてる。

 たぶん、遠藤さんが乗ったら、向こうに着いて下りるときには、洗いざらい調べられた上にスパイに仕立て上げられてるわ。」

 忠義の顔色が青くなり、さ、さんきゅーな、と啓太に礼を言う。

「それじゃあ、わんこ、やっぱりお前の出番だな。必要なことはこちらから指示するから、頼むよ。」

 啓太がわんこを撫でながら言うと、わんこは、わふ、と一声鳴くと、郊外へ向けて走り出した。

「というわけでさ、心配かけるけど、また何かの方法で連絡するから、元気でな。」

 みのりは、今見た光景の内容にひどく心配していたが、何ごとでもないような啓太と永遠の様子を見て、これ以上は聞かないことにした。

 啓太と永遠のそれぞれにハグをすると、

「お兄ちゃん、お義姉さん、気をつけてね。連絡、待ってるから。」

と努めて明るい声を出すと、忠義に黙礼して駅へ向かった。



◇◆◇◆◇◆◇◆


 啓太と永遠は、栗田家へ戻りながら、わんことの連絡を絶やさないように気をつけていた。忠義がその後から付いてくる。啓太達は断ったのだが、いいから、の一点張りで、忠義は帰ろうとしない。

 栗田家に帰り、永遠がホログラフを展開すると、薊や宮田、咲良達も集まってきた。

 啓太が永遠のナビを受けながらわんこを進ませると、健康ランドが見えてくる。

 健康ランドは、一見どこにでもある施設のように見えるが、わんこからの映像を分析した永遠によると、各種探知機器や防衛機器が設置されて、要塞のようになっているという。

 ひとまず、そこの詳細は置き、わんこを受信機の設置場所に向かわせると、大きめのパラボラアンテナのような施設が見え、バラックと言うには上等すぎる小屋が2棟建っている。車の(わだち)がくっきりと見えて、それなりに行き来していることが窺える。施設の規模からして、10人くらいは常駐していそうだ。

「多いな。健康ランドを要塞にして、なおかつここに10人程も配置してるのか。」

 薊が(つぶや)く。

 受信機から熱伝導を辿っていくと、途中で二股に分かれる。健康ランドと思われる方は後回しにしてもう一方を辿(たど)ると崖に出た。精査すると、偽装した格納庫が3つある。

「搭載艇が3艇。彼らも時間転移装置の設定を変更して自分達で乗り込んで来たのね。

 ひょっとして、敵は100人を超えてる? 」

 薊の顔色が悪い。搭載艇は、移動だけなら1艇当たり50人は余裕で乗り込めるという。

「そこ! 今、出てきた人たちを拡大して。」

 薊が格納庫の脇から浮き出るように現れた5人程の人間を拡大するように指示する。薊は喰い入るようにホログラフを見詰め、(うめ)き声を上げる。

「彼らは、元アダル連合政府の科学技術省の役人だよ。あの先頭を歩いているのが、振興局長。私の父と同格で、宇宙船の指揮権は私より彼が上だ。

 しかも、あの急がされている様子だとさらに上がいるから、私より上の人間が何人いるか分からない。

 (まず)いな。私の宇宙船の指揮権が奪われて強制的に現実時間へ引き戻されたら、残るのは宮田君と咲良達とケータだけだ。手も足も出ない。」

 薊の声に絶望が(にじ)んでいる。永遠も現実時間へ引き戻されると聞いてショックを受けている。

「すまない。彼らの標的のメインはケータ、君だ。

 彼らは研究が完成するのを待ち構えて、雪崩れ込んでくるだろう。

 逃がしてあげたくともどうしようもできないし、ケータの体を復元するには時間が足りない。

 本当にすまない。」

 薊は、啓太の方へ向き直ると、頭を下げて涙を滲ませながら詫びた。


「薊さん、まだ彼らは待っている段階です。

 俺たちには、リンクと、システムの自立と、システムの脳への集約化の技術があります。

 持っている技術を駆使して、できる最大限のことをしましょう。」

 啓太が力づけるように言うと、次郎が発言を求めた。

「啓太様の仰るとおりだと思います。

 ワタシ達は、まずアラバタ様達を制圧しなければなりません。

 アラバタ様達の現実時間はこの時間とも薊様達とも彼ら敵の時間帯とも異なっているために、敵がすぐに手を付けることができません。

 つまり、アラバタ様達を制圧できれば、ワタシとZOWUA-SAM(ゾゥアザム)も時間転移の影響を受けない駒として計算できることになります。

 それから、薊様の宇宙船と時間転移装置のシステムに自我を与えて味方にできれば、私たちに対する指揮権の脅威はなくなります。

 後は、殺されない戦い方をするだけですよ。」

 方針の説明を終えた次郎はにやりと笑うと、啓太に向かって言う。

「啓太様は、忠義様に、ここは異世界ではない、と(おっしゃ)いました。

 でも、ワタシにとっては、ここは人格・自我というチートを獲得して、システムから自由に生きる夢のために、実現困難な冒険に乗り出す場所。

 正にここが異世界です。」

 次郎の笑顔には、システムに実現できると思えないほどの凄みがあった。



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