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第五十八話 栗田沙也佳、武道の達人伝説

誤字報告を頂きました。

助かります。

ありがとうございます。

 朝から少女たちの軽やかな会話が聞こえる。

 その会話は、庭の日陰で沙絢(さあや)真綾(まあや)の姉妹が仲睦まじく肩を寄せている光景から発している。

 庭では沙也佳が洗濯物を干し、部屋の中では美也が掃除をする。

 やがて、清潔感溢れる清楚な、あるいは可愛らしいワンピース姿が家の中のあちこちを行き交い、朝食が作られて配膳されて食事が始まる。

 ここは乙女の園のようだ。

 ──あくまで、見た目は。

 だが、実際はその半分は男だ。

 宮田は、(だま)されそうになる視覚を心で修正して、見た目に馴染んで、何だか自然に女言葉を使い始めてしまいそうな自分に、竿を差す。

 昨日、啓太の提案に乗って真綾の体を使うようになり、変質者の汚名を着ることなく咲良(さら)と仲良くできるようになったことは良いのだが、咲良と親密に接するにつれて、宮田は危うく乙女の扉を開いてしまいそうになって悩んでいた。

(今日、啓太さんが出掛ける前に、永遠ちゃんと入浴や寝室まで共にしても問題なく生活できている秘密を聞き出さなければ、俺は今日にも陥落するかもしれない。)

 宮田は出掛ける準備をしている啓太のところへ行って啓太を捉まえ、必死の面持ちで、実は、と相談を持ちかけた。

 宮田の話を聞いて、啓太がけらけらと笑って、いや、俺、最初から性機能が付いていないんですよ、と言うのを聞いて、宮田は自分の間抜けさを呪いたくなった。

 そして、咲良に頼んで真綾の性機能をオフにしてもらう。

 やれ助かった、と安堵の息を吐く宮田の側で咲良が唇を引き絞り、面白いものを見るような目で宮田を見詰めている。

「咲良、お前、昨日、知っててやってただろ! 」

 さあ、何のことかなあ、と言って笑って地下室へ行こうとする咲良を、コラ待て、と叫んで宮田が追いかける。

 その後から永遠が嫌そうな顔を啓太に見せながら付いていく。

「ねえ、私、今日、あのラブラブな2人と1日一緒なの? 」

 啓太は、眉を寄せて気の毒そうな視線を向けたまま微笑みを浮かべて、手を振って永遠を見送った。



◇◆◇◆◇◆◇◆


 啓太が星の小冠(アスタリスク)の駐車場の端に車を止めて、店へ向かおうとしていると、小さな女の子が泣いていて、側で小さな男の子が街路樹によじ登ろうとしているのに気がついた。

「ねえ、ボク。そんな大きな木に登ったら危ないよ。」

 啓太が心配して声を掛けると、男の子は決意に満ちた目で訴えてくる。

「だって、妹の帽子が風で飛ばされちゃったんだ。」

 男の子が指さす先には、高さ2メートル半くらいのところに、幹から生えた枝の根元近くからさらに枝分かれした枝に帽子が引っ掛かっているのが見える。

 木の幹は太さが20センチほどもあるが下枝がなく、帽子の引っ掛かった枝の生えている枝は太さが10センチほどもないだろう。

 木登りはできても帽子まで行くことができず、梯子(はしご)も掛けづらいことから大人でも取りづらい。

 啓太はどうしようかと考えていると、ある解決方法が思い浮かんだ。

 男の子に下がるように言って充分に距離を取ってもらうと、啓太は歩道沿いに数メートル下がる。

 啓太は木に向かって駆け出し、木に近づいたところで飛び上がると、木の幹を足場に蹴って方向を変えて左上に飛び、幹から生えた枝に右手を掛けて、体を(ひね)りながらさらに体を上にひっぱり上げ、左手を伸ばして帽子を取った。

 それと同時に右手は枝から離して右脚の前へ手を差し入れて服を掴み、上昇から下降へ移る前に左側から流れてきていたワンピースの裾を折り返して(かぶ)せるようにして押さえ、裾が広がらないようにして着地する。

 ちらりと男の子の方を見ると、目を見張って見詰めているが、どうも指示した場所から随分と前に出てきている。

(この距離だと、方向を変えて飛んだときに、下から服の内側が丸見えになっちゃってるかな。)

 男の子に下着が丸見えになったことを悟った啓太が、見えちゃった?、と聞くと、男の子が良い笑顔で元気よく頷いたので、啓太は困ったという顔をしたまま笑顔を作り、唇に人差し指を当てて、内緒だよ、と言うと頷いてくれた。

 女の子に帽子を渡して、2人に手を振りながら店へと向かい、店の鍵を開けて店内に入ったところで、あれ、俺、何であんなことができたんだろう、と初めて気がつく。

 永遠から体術だか戦闘だかのデータをもらっていたのだろうとしか思いつく答えがない。

 啓太は、永遠へ報告することにした。


◇◆◇◆


「おい、撮ったか? 」

「ああ、撮った。びっくりしたなあ。あれ、三角飛びとか言うヤツじゃないのか。

 事件の時に身を投げ出すようにして子どもを守ってたから、母性が強いだけの人かと思ったら、沙也佳さん、武道の達人じゃん。」

「だよな。ストーカーの被害者というから、か弱いイメージでいたら大間違い。

 デートの誘いに乗ってくれても、調子に乗ったら、これ、一瞬で制圧されるぞ。」

 彼らはここ最近、星の小冠に通っていた客で、店で知り合った仲間だった。

 彼らは開店前に来て店の近所でたむろしていて、この日、思いついて啓太の出勤風景を撮影していたのだった。

 映像を撮った彼らは、この映像をネットに上げて、沙也佳さんは強いぞと皆に知らせて、妙な行為に走る前に抑止するのが自分たちの役目と考え、また、自分たちはストーカーから心を入れ替えて、沙也佳さんを崇拝対象として見守ろうと決意をする。



◇◆◇◆◇◆◇◆


 昨日、星の小冠を訪れたジルギア オルカドは、ネットに上げられた動画を見て、得心がいった。

 ジルギアは沙也佳が襲われた事件の報道を見て、子どもを助けるときの女性の動きの速さに引っかかるものを感じて沙也佳のことを調べていた。

 子どもを助けるために飛び込んだ反応速度は人間の反応速度の範囲ではあるが、相当な修練をしたものだけが可能だというのが、ジルギアの見立てだった。

 実際には、啓太が飛ぶ寸前に永遠とのリンクが繋がったので、永遠にそれ以上の力を込める時間が取れずにあの程度に収まったというのが真相だが、ジルギアはそんなこととは知らない。

 ジルギアの調べでは、栗田沙也佳は中学まで空手を習い県大会まで行っているが、その後に活動していた記録はない。

 20年以上のブランクがある人物の反応速度とは思えず、沙也佳がアダル連合のシステムが操作するドールではないかとの疑惑を持ち、その確認のために赴いたのだ。


 星の小冠で見た沙也佳の印象は、歩くときのバランスが素晴らしく、体術に長けている、会話の反応が人間臭く、システムの操作するドールとは考えにくいというものだった。

 だが、確信が持てない。

 もう少し身辺を調べてみようというときに、この、沙也佳が帽子を取る動画がアップされた。

 困っている子どもと話し、子どもの帽子を代わりに取ってやるという行為は、システムは取らないだろう。まして、自分の能力を他人の目の前で見せてとなれば、絶対にやらない。

 沙也佳が帽子を取るまでの動作を分析しても、人間の筋力の範囲であり、武道の修練を積んだ者であれば可能な動きと見えた。

 結論として、栗田沙也佳は中学以降も武術の鍛錬を怠らなかった武道家の一面を持っているのだろうと、ジルギアは考えた。

 だが、それならば事件のとき、栗田沙也佳は犯人に立ち向かおうとすればできたのに、己の安全を捨てて、迫り来る凶刃の前に身を投げ出して子どもを守ろうとしたということになる。

(栗田沙也佳というのは、素晴らしい女性なんだな。)

 ジルギアは栗田沙也佳に強い感銘を受けたが、彼女が地球人であるならば彼の任務はこれで終わった。

 後ろ髪を引かれながら、ジルギアは駅から列車に乗り任務へと戻っていった。


 結果として、星の小冠の前でたむろしていた客達は、図らずも彼らが崇拝することにした沙也佳を守ったことになるが、そんなことは彼らの全く(あずか)り知らないことだった。



ストーカーと崇拝、どう違うのか、よく分かりません(笑)

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