第十八話 ドーベルマンとチワワ
今回の話には、性的表現が含まれています。
苦手な方は、後書きに要点を記載していますので、飛ばしてください。
美也が部屋に引き上げて、台所やリビングの片付けも終わり、夜も更けて、さあ後は寝るばかりと啓太は浴室へ行く。
今やすっかり慣れてしまった手つきで啓太は服を脱ぐと、髪をゴムで纏め、浴室に入り、体を清めてから浴槽に浸かった。
ふう、とため息が出て、啓太は頭をバスタブにつけて、あまり体を見ないようにしながら、今日の出来事のあれこれを思い出していた。
手で軽くさする体は柔らかく、魅惑の曲線を描いているが、なるべくそれを意識しないようにして、体が温まるまで湯に浸かる。
そうしているうち、脱衣所の方で、言い争う声が聞こえたと思うと、美也が真っ裸で浴室に飛び込んできた。
「やっほーっ。」
飛び込んできた美也にびっくりして啓太は浴槽から頭を起こし、胸の前で手を交差させて、
「な、何。なんで入ってくるの。」
と言って立ち上がろうとするが、美也はかまわずに笑顔で、
「いや、ケータとプールにも入ったんだから、お風呂もいいじゃん。」
と言って洗面器を浴槽に突っ込んで、自分の体へ流す。
美也には、全く邪気がない。
美也にはなくとも、啓太には無理矢理押さえつけている煩悩がある。
慌てて浴槽から立ち上がり、美也の横をすり抜けていこうとするところを美也が抱き付いて、
「お母さーん、一緒に、お風呂。」
と言って、甘えてくる。
胸と胸が合わさり、美少女の笑顔が頬をこすりつけんばかりに間近にきて、啓太の我慢が限界を迎えた。
啓太が美也の体を抱きしめ、美也が、え、と驚きを顔に表そうとする前に、啓太の唇が美也の唇に合わさる。
美也の目がまん丸に見開かれる間に、啓太の舌が強引に美也の口の中に入ってきて絡まろうとし、美也が舌へ抵抗する力を込めようと注意が逸れた隙に、啓太が体を上から押し倒そうとする。
美也が恐怖に眉をしかめ、体をまさぐり始めた啓太の手に抵抗しようとしたとき、啓太が不意に動きを止め、どさりとくずおれた。
◇◆◇◆
「な、何、一体何!ケータ、ケータどうしたのっ!! 」
美也が慌てて啓太の体を揺すっていると、
「美也様、だから入浴中の啓太様のところへ行っては駄目だと申し上げました。」
そう言いながら、啓太──啓太の代わりに永遠が操作する沙也佳──が体を起こした。
「ケータは? ケータはどうしたのっ!? 」
啓太から突然永遠に入れ替わったことに驚きながら、美也が問うと、
「啓太様の接続を強制解除しました。啓太様の脳にとってはあまりよくありませんが、仕方がありません。」
と、永遠が答える。
呆然とする美也に対し、永遠は啓太の事情を説明する。
「──ですから、啓太様は、これまで相当無理をしてらっしゃったのです。
そこへ美也様が裸で抱き付いたりするものですから、啓太様も抑制の限界を超えてしまったんだと思います。
地球人のことを知らなかったとはいえ、いけないのは美也様ですよ。」
永遠が諭すと、美也は、そうなんだ、と呟きながら、唇を撫でる。
(さっき、ケータが私に無理矢理キスをしたのは、ケータが男の人として、女の私を──)
美也の顔がぼっと赤くなる。
「ケータが、沙也佳の平気な顔で、きちんと対応してくれるから、そんな風に思っていなかったよ。ケータは男の子。そう思っていたけど、男の人なんだね。」
永遠は溜め息を吐くと、
「そうです。後のことは、私が対応しますから、美也様は今日はお戻りください。」
と、帰還を奨める。
美也も素直に、うん、と返事をすると、ケータのこと、お願いね、と言い残して帰って行った。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「さて、と。」
永遠は、これからの対応を考える。
啓太とのリンクは、できる段階まできているが、今は意味がないだろう。
啓太の欲求解消策は実は2つあるが、以前啓太に約束し用意している物はまだ試作品段階だ。となると、すぐに使える方法がもうひとつあるのだが──
仕方がないと、永遠はすぐにできる方法を選ぶことにする。
◇◆◇◆
「啓太様、啓太様。」
美也のアバターで永遠が呼びかけると、沙也佳の体が動き、啓太が目を開ける。
「うっ。」
啓太は、起き上がると頭を押さえ、顔をしかめながら、弱々しい声で問いかける。
「今いるのは、永遠さん、ですか?俺……やっちゃいましたよね。」
「強制的にアバターを解除しましたから、少し影響があると思いますが、大丈夫ですか。
先ほどのことは、仕方のないことですので、どうぞお気になさらずに、安静にしていてください。美也様も自分の行動を反省しておられました。」
永遠は、手早く説明をすると、これからのことについて、話し始める。
「啓太様の欲求を解消するために用意していた物は、まだ少し準備が必要です。
ですが、啓太様の状況を考えるに、一度、試してみたい方法がありますが、提案をお聞きいただけますか。」
啓太が了承すると、永遠が説明を始める。
「現在稼働中の男性用アバターがありますが、もうすぐ就寝します。そのアバターを使ってなら、啓太様の欲求を解消できます。」
「アバターが就寝って、人が使っているの?」
「はい。ある理由で当家敷地内で怪我をした方がおられまして、アバターの使用者の怪我が癒えるまで、当人に悟られないようにアバターを貸し与えています。
アバターの身体を啓太さんに変形させるには8時間程度掛かりますので、それはできません。
他人の体で気持ちが悪いかも知れませんが、男性型アバターの身体で用を済ませることはできますか。」
啓太は、躊躇いながらも、溜まっている欲求をこれ以上溜めて不測の事態をまた起こすよりはと、我慢して使用すると回答した。
「分かりました。
お願いですが、今後の支障となりますので、アバターの顔は見ず、声も出さないようにお願いします。
それから、局部的な年齢設定は、啓太様に合わせておきますので、ご了解ください。
啓太様にはこれから就寝していただき、私が脳へ軽い鎮静剤を流して眠っていただきます。戻るときは、また鎮静剤を流しますので、4時までには床へ着いてください。
沙也佳から男性型アバターへの移動が済みましたら、ワタシが脳への薬の影響を取り除きますので、お目覚めになるのではないかと思います。よろしくお願いします。」
啓太は了承し、永遠は準備に取りかかる。
◇◆◇◆
そして、啓太が目覚めたとき、男性の体へと移っていた。
起き上がって、懐かしい体のバランスを感じながら寝室を出て、隣室に設置されたパソコンに気づく。
パソコンを立ち上げて、横に張ってあったパスワードを打ち込み、ネットに接続して──
啓太は、見たことのない巨大なものが屹立するのを前にして、言葉をなくしていた。
慌ててパソコンの電源を切り、寝室へ走って戻り、布団の中で震えながら身じろぎ一つせず、まんじりともしない数時間を過ごし、やがて永遠の計らいで眠りにつく。
朝、永遠が啓太の様子を見に来たとき、啓太は「ドーベルマンとチワワ」という謎の呪文を唱えながら、ベッドの中で泣きじゃくっていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「啓太様、ご納得頂けましたか。」
永遠は、あれから午前中を費やして啓太に謝り、慰めていた。
そして、啓太の身体的な特徴は復元過程で改善可能なこと、少なくとも標準的なところまでは保証できること、史実では啓太は結婚し妻が妊娠していることから、実際的に支障はなかったことなどを懇々と説明し、ようやく立ち直らせることができていた。
「でも、良かったです。
開発中の試作品ですが、作り直しが必要と思って、あと数日は使用に至らないと考えていたのですが、お話だとその必要はありませんので、今日にもマイクロサイズのまま……あ。」
──号泣──
啓太が何とか立ち直ったのは、太陽が高く昇りきった頃だった。
要点:
1 美也が啓太とお風呂に入ろうと乱入して、啓太はパニックになった。
2 永遠は欲求不満の解消策を実践させようとしたが、啓太はサイズの劣等感からパニックになった。
美少女にサイズの問題を懇々と説得されるとか、絶対無理。
永遠の最後のセリフは致命傷かと。




