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第十五話 あぶない水着

「おっはよーっ。ケータ、元気ー?」

 啓太が朝食を食べていると、美也がやって来た。

 少し暇なのだそうで、今日は朝から元気だ。

「あー、やっぱりこっちはゆったりしてて、緑も溢れてて落ち着くーっ。」

 美也は周囲を見回すと、伸びをして嬉しそうに言う。

 啓太が、へえ、そうなのと聞くと、美也が、隠遁生活が落ち着く訳ないでしょ、と応える。

 そこへTOWUA-SAM(トゥアザム)が美也の姿で入ってきた。

 啓太が、え!?、と驚くと、TOWUA-SAMが、

「ワタシだけ体がないと話に入り難いので、ホログラフです。」

と言って笑う。

 見ると、微かに姿形の輪郭等に荒れがある。

 美也とTOWUA-SAMは同じ姿だが、ワンピースが緑色が美也、、ピンクがTOWUA-SAMと色が違うのですぐに判別が付いた。

「あはは。今日はケータは双子のお母さんだね。」

「はいはい。娘たち、お母さんの言うことをよく聞いてね。」

 美也のからかいに、啓太がおどけてみせた。


◇◆◇◆


「ケータ、それで、TOWUA-SAMの施術を受ける覚悟、どんな感じ?」

「あ、TOWUA-SAMのこと、信用してますので、準備ができたらいつでも良いです。」

 美也は、へえと軽く驚き、TOWUA-SAM、随分と信用されたものね、とTOWUA-SAMを見る。

「TOWUA-SAMは、同居人というより実質保護者ですからね。頼りにしてますし、リンクしたら、ますます頼らなくちゃいけないんで、そりゃ信頼もしてます。」

 TOWUA-SAMが嬉しそうに微笑み、それを見た美也がわずかに眉根を寄せた。

「ふうん、なんか仲間はずれ感があるわね。ま、良いけど。

 それでね、ケータ、TOWUA-SAMとのリンクができたら、お願いがあるんだ。」

「え、美也さんがお願いって怖い。何ですか。」

「ケータが、沙也佳を使っているでしょ。でね、今、うちには稼ぎ手がいないの。働いて?」

 え、と啓太は絶句して確認する。

「俺、働くんすか?」

「そ。栗田沙也佳36歳、母子家庭の世帯主で美也の唯一の保護者。現在無収入。世間的に、働くでしょ?」

「あー。」

「ま、すぐにってことじゃないし、リンクができて、落ち着いてからで良いから。タイミング的にケータ用の男性アバターが用意できる時期と重なるかもしれないしね。」

「……はい。考えてみます。」

 啓太は、内心、さらば俺の夏休みと、溜め息を吐いた。



◇◆◇◆◇◆◇◆


「よし、んじゃ、今日の用事も終わったし、遊ぶぞーっ。」

 美也が遊びを宣言するので、啓太が何をするのか聞くと、海との回答だったが、啓太としては水着を着て人中に入るのは避けたい。

 そこで、TOWUA-SAMがホログラフであることを挙げて反対したのだが、美也がならば庭でプールだと決め、TOWUA-SAMに命じてしまった。

 啓太は、水着を着たくない一心で反対したが、TOWUA-SAMに、空池(からいけ)に伏流水を入れれば昼過ぎには使用できると言われて諦めた。


◇◆◇◆


「ねえ、TOWUA-SAM。これまで、服と言えば体の線が露骨に出ないスカートばかりだったじゃない。なんで水着はこれなの?」

 TOWUA-SAMが出してきた水着はビキニばかりで、しかも布面積が小さいのが多い。

 マイクロビキニなんて、紐よりマシかという程度で……TOWUA-SAM、なぜ、俺にこれを勧める?

「これ、沙也佳さんの夢です。」

 はい? ああ、買って着たかったけれど、人前で着る度胸がなかったと。

 で、今日は母子限定だから、着ればいいんじゃないかと。

 TOWUA-SAMと美也の2人にいい笑顔で勧められ、仕方なく着てみた啓太だったが、

「これっ。裸より恥ずかしいんだけどっ。」

 着てみて、食い込む紐が胸を押し潰し食い込んで肉をいくつにも分割し、布の方は、それぞれが小さすぎて、張り付いた姿が胸やら腹やらの肉に視界を遮られて、わざわざ覗き込んでみないと大事なところをカバーできているのか確認ができない。

(しかも沙也佳さん、何で赤を買った?

 白い肌に真っ赤な紐が食い込んで……これ、縛られて外を出歩く危ない人にしか見えないんじゃなかろうか……)

 しかし、啓太の心配をよそに、美也から似合ってる、TOWUA-SAMから素敵ですと口々に褒められていい笑顔を返されると、はい、としか答えられない啓太だった。


 啓太が胸を右手で隠し、左手で下を隠して、恐る恐る庭へ出て即席のプールへ辿り着こうとしたそのときだった。

「大変、大杉様が見えて、玄関から庭の方へ回ってきてますっ。ワタシは消えますのでっ。」

 TOWUA-SAMがそう口早に言うと、ふっとホログラフが消滅した。

 間を置かず、おお、沙也佳さん、こちらでしたか、と大杉の声が聞こえ、木戸を開けて入ってくる。

 啓太が甲高い悲鳴を上げて蹲り、大杉は、ほとんど裸に見える沙也佳の姿を見て、鼻を押さえて庭から駆け出す。

「あ、おじいちゃん、鼻血を吹いた。」

 美也がぽつりと呟く。

 「ひゃー」という色気のない啓太の悲鳴が、高音のせいで「キャー」に聞こえたのは、救いだったのか悪かったのか。


◇◆◇◆


 慌てて家に戻って上からワンピースを着て、玄関で大杉を迎えた啓太は、真っ赤な顔で大杉に、

「すみません。娘が悪戯であんなのを買って来て、誰も見ていないんだから、庭の池をプールにして水浴びをしようという(そそのか)しについ乗ってしまって……大変お見苦しいものをお目にかけました。」

と、精一杯の言い訳をすると、大杉はシャツに残った赤い斑点を見せながら、

「いや、儂こそ、庭で人の気配がするからと勝手に入ってしまって申し訳ない。

 しかし、見苦しいなぞ。

 いやぁ眼福、眼福。大変に素晴らしいものを拝見しました。

 鼻血など何十年ぶりだが、儂もまだまだ若いということでしょうな。」

と満面の笑みを浮かべてご機嫌だった。

 大杉が来訪した用件は、単なる町内会の集会案内だったので、完全な大杉の役得だ。


 大杉が帰った後、TOWUA-SAMがホログラフで現れ、

「啓太様、やっぱりお嫁に行かれますか?」

とトドメを刺しにきた。



大杉さん、満面の笑みで、「普段清楚なのに、いざとなると大胆なことも平気で、かと思えば生娘のように反応が可愛くて…」とか、沙也佳の良いところ探しで考えてそう。

それ、妄想の類いだから。

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