第十二話 夏といえば怪談
今回も、性的なものに関連する表現(内容はほぼない)を含んでいます。
要点は、後書きに書いてありますので、苦手な方は、飛ばしてください。
それから、申し訳ありませんが、各話少しずつ表現を修正しています。
内容に変更はありません。
忠義を見送った後、啓太は今日もレッスンが続くものと思っていたが、TOWUA-SAMから提案する様子がない。
最初はサボるのは今のうちと思ってまったりとしていた啓太だが、一向にレッスンが始まる気配がないことに焦れてTOWUA-SAMに聞いてみると、啓太様とワタシがリンクする目処が付いてきたので、レッスンは止めました、との返事だった。
どういうことかと啓太が確認すると、
「啓太様の脳への情報や脳からの指示に介入できるようにワタシがリンクできれば、姿勢の修正や言葉遣いの修正だけでなく、化粧や料理などをワタシが沙也佳を使ってできるようになります。
ですので、啓太様にわざわざレッスンをしなくても大丈夫と判断しました。」
と回答があった。
啓太が、それじゃあ、俺は今から何をするの、と聞くと、TOWUA-SAMが笑ってご自由にと言う。
ご自由にと言われて何をしていいか、啓太はやるべきことが思い当たらないことに気づく。
そもそもこの家は、美也が所有しTOWUA-SAMが管理している。
啓太がやっているのは、共用部分と沙也佳の部屋の掃除に2人分の洗濯、それに自分の食事作りくらいだ。今日はもう夕飯を作るくらいしかやることがないし、料理は自炊もおぼつかない男子学生のやる超簡単料理だ。
町へ1人で出るのは女の振りに自信がなくて怖いし、真夏の日中に外に出るのも暑いだけなので、屋内で暇の潰し方が分からない。
私物もほとんどないが、昨日、アパートの部屋から持ち出したノートパソコンがあるのに気づき、TOWUA-SAMに回線の有無を聞くが、引っ越したばかりでまだ回線が来ていないという。
途方に暮れていると、TOWUA-SAMから、
「アパートにあったLAN回線を指向性の電波で沙也佳の部屋に飛ばして、啓太様が使えるようにしましょう。
ついでに町中まで出て、中古のスマホを買って、啓太様がスマホを使えるように改造しましょう。
これから機器の準備をしますので、明日、2人で出掛けませんか。」
と嬉しい提案があり、啓太は二つ返事で了解した。
で、結局、話は元に戻って、啓太は今、暇の潰し方が見つからない。
仕方がないので、リビングのソファに座ってテレビを見ながらジュースを飲み、蝉が鳴く窓の外の青空を見上げる。
(あー、海かプールで泳ぐとか、いいよなあ。いいけど、水着を着て視線を浴びるのは、俺なんだよなあ。)
止めどないことを考えている間に、啓太は眠っていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
啓太がふと目が覚めたのは、何とはない違和感を感じたからだろうか。
体を起こそうとして、ソファに座っているでのなく、ベッドに横になっていることに気がつく。
あれえ、と声に出して体を起こそうとして、声がいつもと違うことに気づいて、慌てて起き上がり体と周囲を見回す。
服は寝る前に着ていた物と同じデザインだが色が違う。周囲の淡いピンクの壁とグレーの絨毯は美也の部屋の物だ。
(これ、美也の体だ。)
そう気がついて、一体なぜと思ったとき、朝にTOWUA-SAMが言っていた、「啓太様を美也に移して、ワタシが沙也佳でお慰めする」という言葉が蘇ってきた。
眠気が一気に吹き飛んで、ベッドから飛び降りる。
(朝のTOWUA-SAMの言葉からして、沙也佳と違って美也には女性の機能が付いている。朝はああ言ったのに、TOWUA-SAMは方針変更したのか?)
TOWUA-SAMは、啓太の意思とは関係なく体を入れ替えられる。あの時、TOWUA-SAMが「やるなら逃げても無駄」と言っていたのは、こういうことだったに違いない。そう考えてぞっとする。
そして、TOWUA-SAMは、「通常でない強い刺激を得てしまうと、人は性癖が歪む可能性が高い」と言っていた。
(性癖が歪むほどの強い刺激って? 女の体で? そんなのは怖い。嫌だ。逃げたい。)
どうやって逃げようか、必死で算段していると、カチャリとドアが開いて、TOWUA-SAMの操作する沙也佳が裸体にバスタオルを巻いてするりと入ってきた。
(!!!!!!!!)
「あ、お目覚めですか。ずいぶんと、よくお休みでしたね。」
そう言うTOWUA-SAMの目が細い半月に引き絞られ涙袋が影を作り、唇が上向きに弧を描き笑みを作る。妖艶な笑み。
TOWUA-SAMが後ろ手にドアを閉めようと体を捻り頭部が横を向いた弾みに、耳に掛けた髪がバサリと垂れる。
白いうなじが露わになり、バスタオルがパサリと床に落ちて、その華奢な裸身の瑞々しい肉感に強烈な色気が漂ってくる。
「とっても、気持ち良さそうなお顔でした。んふふふっ。」
啓太は、髪の毛が逆立つような恐怖に声も出ず数歩後ずさると、ベッドに足が当たりベッドの上に倒れ込む。
倒れる勢いで髪が舞い上り、跳ね上がった足でワンピースの裾がめくれ上がる。
(嫌だ、嫌だ、嫌だ!!)
足をバタつかせてベッドシーツを蹴り、後ろへ体を躙って逃げるが、部屋の隅に行き着きドンッと背中に壁が当たる。
逃げ場がなくなり、泣きそうになって、ううう、とうめき声を上げる啓太に、TOWUA-SAMは囁くように言う。
「すみません、無断で沙也佳をお借りしてましたが──どうかなさいましたか?」
TOWUA-SAMはバスタオルを拾って体に巻き直し、下を向けていた顔を、髪を掻き上げながら啓太に向けると、啓太の様子に気づいて言う。
「え?」
「啓太様が沙也佳をお使いになられるようになって5日も経ちますので、啓太様では手に余る体のお手入れ──少し脱色してきていたヘアマニキュアのかけ直しや、沙也佳のお肌のサポート──がしたかったもので、沙也佳をお借りしていました。」
TOWUA-SAMは、にっこりと笑って言う。
「あの、TOWUA-SAM、じゃあ、変なことは、しないね?」
「変なことって何……あ、ひょっとしてお望みですか?」
「望まない、望まない、望まないっ。全っ然っ望んでないからっ!!」
怖かった。事故の時より怖かった。
こんな怖い思いをしたのは、人生で初めてだと啓太は思った。
◇◆◇◆◇◆◇◆
その夜、啓太は美也の体で入浴し、ベッドに付いた。
啓太は、美也で入浴することに抵抗したが、眠っている間に入れ替わるのが啓太様にとって一番負担が少ない方法なんです、とTOWUA-SAMに言われ、女の子の扉を開いてしまうのが怖い啓太はさらに、ならこのまま寝る、と駄々をこねたが、聞き入れられなかった。
啓太は、見てはいけない部分から全力で視線を逸らし、ピリピリとした感覚を訴えかけてくる部分を意識しないようにと、意思力を総動員して注意を逸らし続けて、何とかベッドへと辿り着いた。
早く寝てしまおうと目を閉じたが、TOWUA-SAMから逃げた朝と夕の出来事の記憶が繰り返しフラッシュバックしてきて寝付けない。
何度も寝返りを打ち、悶々と誘惑と戦う夜を過ごし、啓太が何とかまどろんだのは、寝付けないでいる啓太にTOWUA-SAMが気づき、啓太の脳にそっと弱い鎮静剤を流してくれた夜半のことだった。
要点:
1 明日は、啓太とTOWUA-SAMでお出かけ
2 啓太はTOWUA-SAMに乱暴されると思い込んで逃げようとしたが、勘違いだった
思わせ振りって難しい。




